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お祭りデート②


 改めて出店されているお店を見ると、本当に色々とあります。


 私たちのお店のような酒モドキ等の飲食店や、射的、くじ引き、輪投げといったゲームのお店。休憩所や案内所といった公的っぽい場所もあります。


 そんな中を、腕を組みながら顔を赤らめて歩く私たち。夫婦ごっことは聞きましたが、これって夫婦に見えるんでしょうか。


 正直なところ、さっきオトハさんと恋人のフリをしていた時と、何ら変わりはないのですが。


「あっ、あれ食べようよダーリン」


 歩いている途中で、ウルさんが一つのお店を指差しました。あれは、果物飴のお店です。この世界にある小さめの果物を甘い飴でコーティングした、元の世界でいうリンゴ飴みたいなお菓子。


 リンゴというよりはぶどうサイズの果物を使っているので、サイズは一口サイズで少し小さめ。


 おっ、前にジュースで飲んだことあるジュージューもあるじゃないですか。私はあれにしようかな、まだ食べたこと無かったですし。


 そしてウルさん。ダーリン呼びに慣れてきたのか、割りとすんなり言われたなあと思っていたら、まだ少し顔が赤いように見えます。


 これはおそらく無理をしているのか、それか一周回ってヤケクソになっていますね。


「いらっしゃい。どれにする?」


「ダーリンは何が良い?」


「そ、そうですねハニー。では、ジュージューのやつを……」


「はいよ! ハッハッハ、初々しいねぇ!」


 頑張ってダーリンハニー呼びをしていたら、お店のおじさんにあたたかい目をされながら笑われました。


 は、恥ずかしい。慣れていないことが初対面の人にさえバレバレじゃないですか。


 これ、この後もずっと、やらなければいけないのでしょうか。いけませんよね、はい。


「はい、ダーリン。あ、あ~ん」


「あ~ん……」


 そしてお店から少し離れたベンチに座り、買った果実飴を食べることになりました。


 本日何回目になるのかのあ~ん。オトハさんに死ぬほどしてもらいましたが、ウルさんにしてもらうのは初めてですね。


 楊枝に刺さっていたジュージューの果実飴を頬張ると、口の中に甘い感触が。おっ、飴が終わってジュージューの部分に。


 やっぱり味はライチに似てますね。食感も似た感じです。


「……なんかダーリン、あ~ん慣れしてない?」


 あ~ん慣れってなんでしょうか。


 そんな言葉初めて聞いたんですが、まあ、慣れていると言えば慣れていますね、うん。さっき嫌と言うほどやりましたし。


「さっきのイベントでそういうゲームがありまして。慣れてると言えば、百戦錬磨ですね」


「百戦練磨のあ~んの達人とか、どんなチャラ男だよ。あ~あ、恥ずかしがるダーリンが見られると思ったのに、とんだ期待はずれだよ」


「いやそこまで言いますか?」


 露骨にガッカリしているウルさんに、今度は私が果実飴を差し出します。


「まあ、私の方からしたことはないので、これが私の初あ~んです。はい、あ~ん」


「えっ!? ち、ちょっと待ってよッ!」


 何ですか藪から棒に。してもらったんだからお返しをと思ったんですが、そんなに驚くことでしょうか。


「ぼ、ボクがしてもらうとか、考えてなかったしさ……ほ、ほらッ! こ、ここは人の目もあるし……」


「そんなところで問答無用のまま私にあ~んしたのはどこのどなたでしたか?」


 人にやっておいて自分がやられる時に逃げようったってそうはいきませんよ。


 因果応報。やる時は自分もやられる覚悟を持たなければいけません。


 フハハ、大人しくあ~んされるんですね。私はウルさんの口元に、楊枝に刺さった果実飴を持っていきました。


「観念してください。はい、あ~ん」


「あ、あ~ん……」


 よし、大人しく食べましたね。人間、潔さが肝心なのです。半分魔族だからって、逃しはしませんとも。口の中で果実飴を転がしながら、顔を赤くして恥ずかしそうにこちらを見ているウルさんを見て、勝ちを確信。わっはっは、いい気分ですねぇ。


「はっはっは。いい顔ですね、ウルさん」


「く、くそぅ……ぼ、ボクが辱めてやるつもりだったのに……」


 その言葉だと意味合い変わってきませんか? まあいいでしょう。


 そんな感じで残りの果実飴も食べさせ合いっこし、食べ終わった私たちは再びお祭りの人混みに紛れます。


「ハニー。あれやりませんか?」


 次に私が示したのが、玉入れゲームでした。丸い形で穴が空いた透明な箱の中に、何層にも中心に同じ丸い形で空いた仕切りがしてあり、その穴の大きさが徐々に小さくなっていっています。


 この中にボールを投げ入れて、どこまで奥深くにボールを入れられるか、というゲームですね。


 手前に落ちてもお菓子とかがもらえますし、一番奥にいけば、限定品と書かれた大きな狼のぬいぐるみが当たるみたいです。


「……いいよ。じゃあ、あれやろうかダーリン」


「いらっしゃい! 若い夫婦だねぇ、ラブラブしちゃってさ」


 お店にいたおばさんが、笑顔で迎えてくれました。良かった。実は前のお店の時も内心、ハーフのウルさんが何か言われたりしないかと心配していたんです。


 今のところ、彼女を邪険に扱うような人に会ってなくて安心です。


「いえ別にそんなことは……」


「またまたぁ! 照れなくてもいいんだよ、旦那さん!」


「ッ~~~!!!」


 しかし、面と向かってはっきりとこう言われたのは初めてですね。言われてみると、改めて夫婦感が出てなんだか気恥ずかしいです。


 まあ、今はダーリンハニー呼び縛りなのでそう捉えられても無理はありませんが、ウルさん、そんなに恥ずかしそうに顔を私の身体で隠すくらいなら、夫婦ごっこなんて提案しなければ良かったのでは?


 何で提案した貴女が一番ダメージを負ってるんですか。


「ま、マサトが……ボクの、旦那さん……」


「何を噛み締めてるのか知りませんが、早くやりましょうよ」


 そうして恥ずかしげにこそこそしているウルさんを差し置いて、私はおばさんから受け取ったボールを透明な箱に投げてみました。


 果たして、どこまでいくのか。


「あ~! 惜しいね! 旦那さんは四等だよ」


 大体十段階ある仕切りの中で、私が投げたボールは奥から四つ目のところに落ちました。


 四等は流木で作ったと思われるキーホルダーの中から、好きなものをどれか。なので私は竜の形のものを選びました。


「はい嫁さん。次はアンタの番だよ」


「ボクが……マサトの、お嫁さん……」


「ハニー? おーいハニー?」


「……ハッ!?」


 何やら呆けていたウルさんをようやく正気に戻し、彼女も箱に投げ入れました。


 しかし手元が狂ったのか、手前の仕切りに当たってしまい、ボールはすぐに落ちました。


「ありゃ。これは八等だね。嫁さん、このお菓子の中から好きなものを選んでいいよ」


「ハニーは八等ですか。これは私の勝ちですねぇ」


「……ムッ。おばさん、もう一回だよ」


 結果を見た私が再び勝ち誇ると、ムッとしたウルさんがルドを出して、おばさんから再度ボールを受け取りました。


 泣きの一回ってやつでしょうか。フハハ、私の四等に勝てますかね。


「えいッ!」


「おお、凄いじゃないか嫁さん。三等だよッ!」


 そうして、ウルさんが投げたボールは、奥から三番目の位置に落ちました。


 おばさんの声を聞いたウルさんが、ニヤーっとした顔でこちらを見てきます。


「どうだいダーリン? ボクは三等だってさ三等。ダーリンは何等だったっけかな~? まさかボクよりも下であんなにドヤってたのかな~?」


 ムカッ。


「おばさん、私ももう一度お願いします」


「まいどー!」


 こうして私が投げると、今度は一等を狙い過ぎたのか。


 一番奥まで行きましたが逆に一番奥の壁に跳ね返ってしまい、私のボールは乱反射を繰り返した挙げ句、九等のところに落ちました。


「……あっ」


「あっはっはっはっ! ダーリン九等じゃないか九等ッ!」


 それを見たウルさんが、お腹を抱えて笑っています。こんなの認められませんとも、ええ。もう一回です。


 このままでは終われませんね。終われませんよ。


「もう一回ですッ! おりゃ!」


「おお、三等じゃないか。でもまだ、ボクと一緒だね~」


「まだまだァ! このっ!」


「二等! 二等が出たよ旦那さんっ! 凄いじゃないか」


「フゥーハッハッハァッ! やりましたよハニー。見てましたか、三等のハニー?」


「誰が三等のハニーだッ! ボクももう一回だよ!」


「かかってきなさい!」


 こうして、私たちは競うように投げあいました。ウルさんも二等を出したので、ここからは尋常な勝負。一等を取れた方が勝ちですね。


 しかし下手に奥を狙ってしまうと、また奥の壁の跳ね返ってしまい手前に戻ってきてしまいます。


 一番奥に丁度投げ落ちるような、絶妙な力加減が求められる、このゲーム。勝つのは、私ですよッ!

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