イベントの後、二人で①
「し、しんどい……もう無理……」
『やったね、あなた』
そうしてイベントは終わりました。今私は、イベント会場近くにあったベンチに二人並んで座っています。
結果は、私たちの勝ち。オトハさんの手には、優勝商品である秘境の温泉へ行ける旅行券が入った封筒があります。
あの後で最後の重り追加で更に十キロ追加された段階で、海の家の彼氏は沈みました。
やった、勝った、ザマア見ろと思っていたら、会場からは大いに彼らへの拍手がなされ、勝った私たちよりも暖かく迎えられていました。
そんなものを見せつけられたために、試合には勝ちましたが大事な何かで負けてしまった気分です。
手に入れたのは旅行券と多大な疲労感、筋肉痛、そしてと巨大な敗北感だけです。勝ったのに敗北感を得るとか、これは如何に。
そうしてイベントは終了し、会場を後にした私たちは、主に私の疲れ酷くて、少し休むことにしました。
それまでのバイト疲れと筋肉疲労もあって、まだ動ける気がしません。
「……と言うかオトハさん。もういつも通りで呼んでくださいよ」
『……嫌、だった?』
「いえ、その……なんかこう、気恥ずかしいので」
『はいはい。まあ、もうイベントも終わっちゃったしね、マサト』
あっ、元に戻った。仕方ないなぁと言った様子のオトハさんですが、うんうん、この方がしっくりくるというか、いつも通り感があって何だか安心します。
「オトハさんもありがとうございました。私の彼女役なんてやっていただいて」
『ううん。わたしも楽しかったよ。マサトの唇、ボンボンに腫れてたの見れたし』
「……あれは忘れてください」
被害は唇だけではありませんでした。あの後トイレにも行ったのですが、お尻の穴が焼けそうな痛みを感じました。
単純に辛いものの食べすぎで胃腸の調子も悪くなってましたし、ひねり出す時に更に痛みが追加でドン。
本当に、酷い目に遭いました。まだ若干、お腹痛いですし。
『いい写し絵も手に入ったし』
「……それ、他の人には絶対に見せないでくださいよ?」
『はいはい』
そしていい笑顔のオトハさんが取り出したのが、予選のパッキーゲームの写し絵。
二人でパッキーを両側から咥えて見つめ合っている、なかなかに恥ずかしい一品。
駄目だ。こんなもの知り合いに見られたら死ねます。死因は恥ずか死で決まりですね。
廃棄を申し出たのですが、いい笑顔で却下をくらいました。ちくせう。
「……でもお陰様で、旅行券は手に入りましたし。また皆さんで行ってきてくださいね」
『……本当にいいの? こんな良いものもらっちゃって』
「いいんですよ」
むしろもらってくれないと困ります。
私はナンパしたら詐欺に引っかかって解約金を用意しなければならなくなったという事実を隠し通すために、ここまで頑張ってきたのですから。
変に断られてどうのこうのとなる方が面倒なのです。
『……マサト、何か隠してない?』
「な、なんのことですか!?」
オトハさんのその言葉に、ビクッと反応します。い、い、一体何だというのでしょうか。
私たちの行動のどこかに怪しいところでもあったのでしょうか。兄貴か? シマオか? それとも私か? 答えの見えない問いを必死に考えます。
「か、隠してるって何をですか? そ、それに。皆さんにお返しがしたいって言うのは、おかしいことですか?」
『……ううん。ただ、色々と急だったから』
「急、とは?」
『お返しがしたいっていうのも、アルバイトしたいっていうのも。それに今回のイベントに出たいっていうのも』
なんということでしょう。頑張って用意した諸々の理由の、まさか全てが疑われていたとは。
激辛を食べていた時にかいた冷や汗とはまた別種の冷や汗が、肌からにじみ出てきます。
マギーさん程ではないかもしれませんが、こと女性の勘は男性よりも鋭いものだとどこかで聞いたことがあります。どうしましょう。
「そ、そ、そうです、か? ほ、ほらッ! オトハさんだって、自分がいなきゃ私は駄目みたいなことおっしゃってたじゃないですかッ! そんなことないぞー、って気持ちと、いつもお世話になっておりますって気持ちは本当ですしッ!」
『……ふ~ん……』
何とか身振り手振りを加えて言葉を並べてみますが、オトハさんの目が怪しいものを見る目になってきている気がします。
自分でも何を言っているのか解らなくなってきましたが、とにかく押しましょう。時には勢いも大事です。
例えそこが地雷原だったとしも、そのまま駆け抜けてしまえば案外無事だったりしませんかね。
「そ、それとも旅行券くらいじゃ足りませんでしたかッ!? だ、だったらまたアルバイトして何か……」
『……大丈夫だよ、そこまでしなくても』
やがて私の必死の抵抗が実を結んだのか、オトハさんはふう、と一息ついて、まあいいや、と魔導手話で言いました。
良かった、何とか乗り切れたみたいです。やっぱり勢いは大事ですよね、勢いは。
『それにしても……久しぶりだね』
「はい?」
すると今度は、オトハさんがそう言いました。




