ラブラブ★ドッキュンッ!①
「さあさあやってきました、夏祭り特別企画ッ! 出店対抗イベント、ラブラブ★ドッキュンッ! 司会は私、アイリス=イングリッシュと」
「オーメン=サイファーでお送りするぜッ! 景品は秘境の温泉へ行ける旅行券! かーッ、俺も行きてーッ! オメーらァ、秘境の温泉に行きたいかーァッ!?」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
やがて始まった出店対抗イベント。司会者机の前に立つお二人の煽りで、会場はかなりの熱気です。
と言うか、なんでアイリスさんとオーメンさんが司会に? まさか知り合いがいるとは思っていなかったので、緊張がさらに高まります。
「……面白そうなのに参加するじゃない。だから私たちも無理言って混ぜてもらったわ」
「……こっちに俺の知り合いがいてな。なあに。俺らがいるから何かあっても大丈夫さ。遠慮なく楽しんでくれ」
私の疑問が顔に出ていたので、二人がそっとそう耳打ちしてきました。
いや、まあ。マギーさんの前で変身してしまったこともありましたし、何かあっても助けてくれそうなのはありがたいのですが、知り合いがいる中でこういうイベントに参加するのはちょっと、と言うかかなり恥ずかしいのですが。
一応、恋人のフリなんですと事情を簡単に説明はしました。
『頑張ろうね、あなた』
そんな私をよそに、何故かやる気満々のオトハさんです。呼び方がいつの間にか彼女どころか夫婦になっているの気がするのですが、気のせいですよね、多分。
「ではまず出場者の紹介からッ! まず一組目は……」
出場者は、私たちを含めて十五組です。ここから予選を行い、最後の決勝には三組まで絞られます。
勝って景品の旅行券を手に入れるためには、まずは予選を勝ち上がらなければ話になりません。
「……ありがとうございましたーッ! さあて次は、参加者最年少、酒モドキ居酒屋"イカしたワイの店"からマサト君とオトハちゃんのカップルですッ!」
やがて私たちの紹介となりました。き、緊張する。あまり深く考えていませんでしたが、こういう人前に出る系のイベントって実は初めてかもしれません。ちゃんとできるでしょうか。
そしてお店の名前、そんなことになってたのですか、知りませんでした。おのれシマオめ。
「ど、どうも……」
『よろしくお願いします』
「初々しいわね! 告白はどっちからなの?」
アイリスさん、何を聞いているんですか? フリだってお話、さっきしたばかりじゃないですか。聞いていましたよね、絶対?
『えっと、彼からでした。わたしと、ずっと、一緒にいてくれるって……えへへ』
「「「ヒューヒューッ!!!」」」
あれ、私の記憶が間違っているのでしょうか。
その言葉を言ったのは確かオトハさんですし、私はそれに答える瞬間に何故か墓場が垣間見えたのでギリギリで踏みとどまってお返事しなかった気がするのですが。
「キャー! 良いわね良いわねッ! やっぱりこういう使い古された愛の言葉こそ、言われた時って結構嬉しいものなのよねぇ」
「聞いたか男性諸君ッ! 女の子落としたいのなら、キザなセリフや気の利いた言葉を探すのもいいが、やっぱ定番はおさえておかないと駄目だぜッ! 基本を網羅したうえでの応用だッ!」
どうしましょう。何か会場は盛り上がっていますが、ここは訂正を入れておくべきでしょうか。
いやでも、この雰囲気で実は違うんですって言うのも、熱くなった空間に水を差してしまいそうですし。でも違うのも事実ですし。
「さあ参加者の紹介も終わったところで、早速最初のゲームに行くわよッ! 最初はこちらァッ!」
「キスしちゃ駄目なのッ!? パッキーゲームッ!」
そうこう悩んでいるうちに最初のゲームが始まりました。
私たちに配られたのは、一本の細長いスティック状の焼き菓子にチョコレートが七分目くらいのところまでコーティングされた、どう見ても元の世界でいう●ッキー。これをどうしろと。
「ルールは簡単ッ! このパッキーを二人が両側から食べていき、キスするギリギリのところで離してもらうわ。残ったパッキーの長さが長いカップルから脱落よ」
「でも、だ。いくら短ければいいからって全部食べてキスしちまったら失格だ。いちゃつくなら、人様の目線のないところでな。そして途中で折れた場合は、その時点で口から離してもらい、長い方を結果として採用する」
「キスしたい、でもできない……そのギリギリを二人の愛で見極めるのよッ! さあさあみんな、パッキーを両側から咥えなさいッ!」
要はポ●キーゲームをして、キスしたら失格。残ったポッ●ーが短い方が勝ちと、そういうルールですか。そうしてアイリスさんに促されるまま、ポッキ●……じゃなかったパッキーの両側をオトハさんと向かい合う形で咥えたのはいいんですが。
「…………」
「…………」
ち、近い。手首から中指の先までくらいの長さしかないパッキーのせいで、オトハさんの顔が近い近い。本当にこのままキスできそうなくらいの距離しかありません。
不可抗力だったとはいえ、何度か口づけを交わした彼女と見つめ合うような形になり。
『……なんか、こうやって見つめ合うの、恥ずかしいね……』
口を開かなくても魔導手話で意志を伝えられるオトハさんのその言葉に、一気に恥ずかしさが溢れ出てきて思わず赤面してしまいます。
羞恥を感じて目を逸らそうとするのですが、恥ずかしそうに、でも真っ直ぐとこちらを見つめてくる彼女の瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚を覚えて、何故か目が離せませんでした。
「良いわよー、みんな見つめ合っていい感じッ!」
「あっ、写し絵撮るからちょっと待ってな。ちゃんと記念に渡すから」
そんな私たちの様子を他所に、司会者の二人は順番に写し絵を撮っています。写し絵とは、元の世界で言う写真のことです。
写し絵箱という装置を使い、見かけはカメラと似ているのですが、魔法を用いているので原理は違うみたいです。詳細は解りません。
しかし、それを撮られていると言うことは、私たちのこの姿が記録として残ってしまうことに。だ、駄目です。この姿は恥ずかしすぎます。もらったら即処分しなければ。
「じゃ、写し絵タイムも終わったことだし、早速始めるわよッ!」
「では互いに見つめ合ってー……よーい、スタートッ!!!」
断捨離の決意を新たにしていたら、始まってしまいました。私は慌ててパッキーを折らないように食べ進めていきます。
しかしこのパッキーとやら、味は完全に●ッキーです。異世界でポ●キーを食べられる日がくるとは。
「~~~~ッ!」
そして食べれば食べる程、オトハさんの顔が近づいてきます。最早文字通りの眼前。
髪の毛と同じ彼女の優しげな翡翠色の瞳が、私の心の奥まで覗き込まんとこちらを見つめてきて、息づかいを肌で感じる距離になり、そのまま互いの唇がまさに触れようとした時……。
「あっ……」
互いの鼻がコツンっとぶつかり、私は思わず口を開け、オトハさんから距離を取ってしまいました。
彼女の柔らかい鼻の感触が自身の鼻の頭に残っていて、私は反射的に鼻の頭に手をやります。
『…………む~……』
短くなったパッキーを咥えている彼女は、どこか不満げに唇を尖らせていました。
な、何でしょうか。思わず離れてしまったのは悪かったですが、パッキーだって結構な短さになっています。こ、このくらいで良かったのでは?
「はーい、そこまでーッ! 終わった組はパッキーを置いて待機よ」
「なぁハニー……俺ぁもう我慢できねぇよ……」
「だ、駄目よダーリン……みんなが見てる……アッ……」
「おいそこォッ! キスは駄目だっつってんだろーがッ! 公衆の門前でディープは止めろォッ!」
やがてアイリスさんの終了の合図と、オーメンさんの注意が飛びました。一部のカップルは我慢できずにキスしてしまったのか、会場からは囃し立てるような声が飛び交っています。
そうして結果発表があり、私たちは無事に最初のゲームを突破することができました。




