表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/237

ゲーム性で勝負


「……うん?」


 二人をなだめる中、私は不意に少し離れたところで盛り上がっているお店を見つけました。


 あそこのお店は、周りよりも繁盛しているように見えます。ちょうどお客さんもいないので、二人に言って様子を伺いに来てみると、こんな様子でした。


「……あ~! クジはハズレだ。残念だったな~。お嬢ちゃん」


「わ~ん! おかーさーん!」


「はいはい。外れたものは仕方ない仕方ない」


「……ほほう」


 どうもあそこのお店は、食べ物を買ったお客にくじ引きをさせて、当たればお代タダや景品が追加でついてくるというやり方をしているみたいです。


 なるほど、ただ漫然と売るよりはゲーム性があって面白そうですね。私は自分たちのお店に戻り、二人に見てきたものを伝えました。


「……なーるほどなぁ。そーゆーのもあるのか」


「でもワイら、お店の食べもん用意するのでいっぱいいっぱいやったから、景品なんて今から用意できへんで?」


「そうなると、景品ではなくお代タダとかを売り出して……」


 そうして三人で話し合った結果、私たちは一つイベントを行うことにしました。


「さあ、皆さん! ウチのお店では買ってくれた方にボーナスチャンス! この鬼さんとチャンバラして一当てできれば、お代はタダ! どうぞ楽しんでいってください!」


「俺ぁ誰の挑戦でも受けるッ!」


 鬼のお面をつけた兄貴とお客さんで細長い風船の剣でのチャンバラを行い、兄貴に一当てできればお代はタダ、というものです。


 景品が用意できない私たちは、ゲーム性で勝負するしかありません。


「おお? なんか面白そーじゃん? やろうぜアーキ」


「そうだなユージン。俺らの強さ、見せてやんよ」


 おお、早速お客様です。しかも勝つこと前提で、結構な量を注文してくれました。これは上客です。兄貴、よろしく。


 しかしなんかこのお客さん達、どこかで見たことあるような気がしますが、気のせいですかね。


「「ぐぁぁぁ……」」


「十年はえーんだよ」


 そして、あっさりと兄貴の勝ち。こういう本気でかかってくる相手には、兄貴も本気でいきます。


 負けたお二人は早々に退場して、次のお客さんは子連れのお母さんです。


 お母さんと手を繋いでいる男の子が、兄貴の戦いを見て目をキラキラとさせています。


「ママー! ぼくあれやる!」


「はいはい。すみません、飲み物とこれを……」


「ありがとうございます。じゃあ僕、この風船の剣であのお兄ちゃんを斬れれば、僕の勝ちだからね」


「うん! よぉし、負けないぞ―!」


 私から風船の剣を受け取った男の子が、やる気満々といった様子で風船を構えています。それを見た兄貴も構えて、二人で対峙します。


 兄貴、解っていますね?


「では、用意……始めッ!」


「やぁぁぁぁッ!」


「うおっとぉ!?」


 そうして始めた幼い男の子と兄貴の戦い。やたらめったら振り回している男の子に兄貴は翻弄されていき、あっさりと風船に当たってしまいます。


「うわぁぁぁ負けたぁぁぁ」


「わぁい! 僕の勝ちだぁ!」


「おめでとうございます。では、お代は結構ですので」


「すみません、ありがとうございました」


 頭を下げるお母さんと、勝てて文字通り飛び跳ねている男の子にドリンクと食べ物を渡します。


 こうして適度に負けていき、お代をタダにすることも忘れずに。兄貴が本気だしたらそうそう負けないことになってしまい、これではゲームが成り立ちませんからね。


 こうやってそこそこ負けるのも、一つの手です。


「あら……何やら面白そうなことをやっているじゃありませんの、野蛮人?」


 そうして適度に集客が成功し始めた頃、なんと現れたのはマギーさんでした。ようやく店番の交代かと思ったら、何やらものすごくやりたそうな目をして風船の剣を見ています。


 おおっと、雲行きが怪しいぞぅ。


「んだよ、オメーかよ。店番交代してくれるんじゃねーの?」


「いいえ。その前に野蛮人に一つ、敗北という黒星でも差し上げようかと……」


「……んだと? テメー今なんつった?」


「あら、小難しい表現では野蛮人には伝わらなかったかもしれませんわね。何せ野蛮人というくらいですもの。教養が足りてないのは当たり前でしたわ。これは失礼」


「アアンッ!? テメーバカにしてんのかァッ!?」


 あっ、兄貴の額に青筋が見える。相変わらず挑発に弱いなぁ、この人。


「上等だコラ……白黒ハッキリつけてやんよ」


「そうこなくては……ああもう、浴衣では動きにくいですわッ!」


 そういうとマギーさんはおもむろに浴衣を投げ捨てました。


 胸に巻いていたさらしも取ったその下は、あの時眩しかった三角ビキニ。彼女のたわわに実った胸とくびれた腰回り、そしてムチムチの太ももという三連コンボが私の視界に直撃します。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」


 一斉に周りにいた男性が、マギーさんのその姿に声を上げます。解ります。


 解りますよその気持ち。まさかマギーさん、その姿で戦ってくれるのでしょうか。


「これで良し。さあ、かかっておいでなさいッ!」


「眼福もんだがそれはそれとしてテメーの態度が気に食わねーんだよパツキンッ!!!」


「それはこちらも同じでしてよこの野蛮人ッ!!!」


「さあさあ始まりましたヤンキーvs金髪美女! どっちが勝つかみんな予想してみてや! 見事予想が的中した人には、ドリンク一杯サービスやッ!」


 そうして始まった二人の戦いは、シマオによって賭けの場となりました。こいつ、商売根性たくましいですね。


 二人の見応えのある戦いのお陰か、あるいはマギーさんの揺れるお乳目当てか、お店周りに結構な人だかりができ始めています。注文もそこそこ増えてきており、嬉しい誤算ですね。


 私も商品の受け渡しやお会計などをしつつ、躍動するマギーさんの美しい肢体を観察しようと目を向けて、


「『お店番は真面目にやろうね?』」


「あああああああぁぁあぁあああぁあぁああああああッ!?!?!?」


 両目を左右から異なる指で潰されて悶絶する私。


 聞き慣れた声と魔導手話が左右の耳から聞こえてきたので、おそらくはオトハさんとウルさんでしょう。


 と言うかその二人に決まっています。


『駄目じゃないマサト。ちゃんと運ぶ食べ物とかお客さんを見てないと』


「他の人にぶつかっちゃったら危ないからね。注意は大事だよ?」


「だからって物理的に注意することないじゃないですかァッ!?」


 痛む目を徐々に開けていくと、やはりオトハさんとウルさんがそれぞれ人差し指をこちらに向けて立っておられました。


 ああ、あの指が私の眼球に直接打撃を与えてきたのですね。痛すぎる。


「男子の皆さま。そろそろ交代したいと思うのでございますが、お嬢様があの調子でございます。もう少しだけお手伝いいただければ幸いでございます」


 やがてイルマさんも現れ、頭を下げました。メイド服のイルマさんに、周りの男性陣がまた湧き立ちます。


 本物のメイドさんですからね、一般庶民からすると結構珍しいのかもしれません。私もイルマさんに会うまでは知りませんでしたしね。


 そして彼女の言う通り、交代するはずのマギーさんと兄貴があの調子ですので、もう少し頑張りましょうか。


 と言うか兄貴。ヘトヘトの身体でマギーさんに勝てるのでしょうか。


 あっ、負けそう。頑張れ、頑張れ。


『……それよりもマサト。そろそろイベントの時間だよ。エントリーしに行かなきゃ』


「あっ、もうそんな時間ですか」


 オトハさんに袖を引っ張られて時計を見てみると、もうすぐイベントの時間でした。


 女性陣へ秘境の温泉へ行ける旅行券をプレゼントするという今回の建前のためにも、これに遅れる訳にはいきません。


 後をシマオとイルマさん、そしてウルさんにお願いして、私たちは行かなければならないのです。


「それでは、オトハさんとイベントに行ってきますので、後をお願いします」


「承知いたしました。マサト様、オトハ様、行ってらっしゃいませ」


「兄さん、ちゃんと勝ってこいよー」


「はいは~い。いってらっしゃ~い……また後で、ね」


 全員から見送られて、オトハさんと二人で歩きだします。ウルさんのウインク込みのその言葉は、後の約束も含めて、ということなのでしょう。


 はい、忘れておりませんとも。


『行こ、マサトっ』


「わわっ! オトハさん、いきなり腕を組まないでくださいよ、びっくりするじゃないですか」


『えへへ。だって恋人でしょ、わたしたち?』


「まあ、そうですが……」


「~~~~~~ッッッ!!!」


 並んで歩き出した私とオトハさんですが、何でしょうか。


 後ろから何か物凄いオーラが出ているようにも感じるのですが、気のせいでしょうか。そしてオトハさんが後ろを向いてべーっと舌を出しているように見えたのも、気のせいでしょうか。


 その後に背中に感じる黒いオーラが一層濃くなったのも気のせいでしょうか。気のせいですよね、うん。そう思いたい年頃です。


 なにはともあれ、私たちはイベントが開催されるお祭りの中央ステージに向かって歩いていきます。


 人混みが凄く、小さいオトハさんがはぐれたりしないか心配になりましたが、そう言えば腕を組んでいるので大丈夫でしたと自己解決しました。


 そうして歩いていった私たちの目の前に、まばゆく光るステージが見えてきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ