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言い訳を聞こう



『……で、何か言い訳はあるかなマサト?』


「今回のことはちょーーーっとボクも怒ってるんだ。ホントにちょーーーっとだよ?」


 その日の夜。お昼ご飯中に急にいなくなった女子らの分まで後片付けを終え、へとへとになって別荘に戻った私。


 シマオとイルマさんの用意してくださった夕飯を終え、夜の課題の時間も何とか乗り切り、ようやく一息ついた時でした。


 用意された私の部屋にオトハさんとウルさんがやってきて、ちょっとお話があるの、と言われた次の瞬間。


 オトハさんがどこからか持ってきたロープで私の身体をグルグル巻きにし、呆気に取られている内にウルさんに足払いを食らって地面に倒され、強かに打ち付けた鼻の頭の痛みを感じる暇もないままに逆さ吊りにされて今に至ります。いきなりミノムシの気分。


 あ、あと余談ですが、この別荘にはシマオも泊まることになりました。


 なんと彼はぶらり一人旅と称してここまで来たのはいいんですが、残金的に帰りの竜車分くらいしか残っておらず、宿を取ることができなかったのです。


 だったらさっさと帰ったらいいのかもしれませんが、日が暮れるまで私たちと一緒に遊んでいたら竜車の最終便を逃す始末。挙げ句。


「実家にはしばらく男の一人旅を満喫させてくれってカッコつけて出てきてしもたんやッ! 今のこのこ帰ったらワイはいい笑いもんやッ! 後生ッ! 後生やからワイをしばらく泊めてくださいッ! パシリでも便所掃除でもなんでもするから、どうかワイに宿を~~~ッ!!!」


 と泣きついてきました。幸い部屋は余っていましたので、イルマさんのお手伝いをする見返りに、しばらく泊めることに。


 まあ、あの野郎なら見捨てても良かったのかもしれませんが、そこは少し良心が咎めました。本当に少し、ですが。


 そうしてお手伝いをするとなったところ、やたらと料理が得意なシマオに驚きました。先の夕飯も美味しかったですし、誰にでも得意なことはあるんですねぇ。


『マサト? だんまりじゃ駄目だよ?』


「ボク達も手荒なことはしたくないんだけど、マサトが望むならためらいは……」


「話し合いましょう。私たちには言葉があります」


 シマオの事を思い出していましたが、時間稼ぎにもなりませんでした。おのれ、どこまで使えないんだお前は。


 それよりも今は目の前の彼女達についてです。


 言い訳はあるかなと、今回のことはと、お二人が言っていました。えーっと、つまり、お二人に関係することで私がお二人に謝らなければならないことで、最近というか直近で思い当たることと言えば……。


「……もしかして、マギーさんから聞きましたか?」


『うん、全部。全部だよ全部……』


「もう聞きたくないところまで、隅々と……」


 そう言う彼女達が何処か遠い目をしているのは気のせいでしょうか。と言うか、そこまで話を聞いているのなら、そもそも私が話すことなどないのでは。


 と、そういう訳にもいかず、今なら笑顔で刺せる気がすると言わんばかりの雰囲気を醸し出す彼女達を見て観念した私は、一つずつお話しました。


 あの時に起こったこと、起きてしまったことを順番に。


『……一度、わたしが呪いの状態を診るね。多分来てるアイリスさん達にも連絡を取って、帰ったらゲールノートさんの所に行こう』


 突然発症した呪いの効果で意図せずに黒炎を解放してしまったことに対して、オトハさんがそう提案しました。


 そうです。今までは黒炎を解放しなければ進まなかった呪いが、ここに来て勝手に動き出すようになってしまっているのです。これは、呪いの進行が次の段階に入ってしまったのかもしれません。


 あとアイリスさん達も、こちらに来ているみたいです、何でも他のお手伝いにも丁度良いし、ついでに海にも行きたかったの、とかおっしゃっていました。


「それで、黒炎を解放したら症状が治ったと……明日からはゲールノートさんからもらってる薬、絶対飲むようにしようよ。症状が悪化した時って話だったけど、これはそうも言っていられないよ。薬はいつでも携帯しておくことだね」


 ウルさんは今後の対策について考えてくれています。それもそうですね。今回は薬を遠くに置いてきてしまっていたが故に、全く役に立ちませんでした。


 水着の際には持ち歩けないとしても、せめてすぐ取りに行けるところには置いておくべきでしょう。また飲めないという状況が一番不味い訳ですから。


 それはいいのです、それは。


「……それで。話すことは話しましたので、できれば下ろしてくれませんか?」


 逆さ吊りのまま話すこと幾分か。いい加減頭に血が上ってきていて、なんか意識が朦朧というかクラクラし始めたのですが。


『うん、解ってるよマサト。まあマギーさんに色々聞かれて、頑張って受け答えしたのは解ったよ。それに加えてもう一つ、聞きたいことがあるんだ』


「……何でしょうか?」


 できれば早く終わる感じでお願いします。あっ、目眩が。


『マギーさんに話してた時の声色。一度わたしにも聞かせて』


「あっ、それボクも聞きたい。いつもの調子で喋ってた訳じゃないんでしょ?」


「……ああ、それくらいなら」


 良かった、さっさと終わりそうなことです。


 えーっとあの時は確か、自分に出せる範囲でなおかつ普段よりも低めにして私だと解らないように、そしてなんか王様的な、尊大な感じをイメージして……。


「……こんな感じだ」


「「ッ!?」」


 よし、出せました。もう良いですよね。早く私を下に……。


『も、もう一回! もう一回お願い! できればわたしを呼ぶ感じで、ね? ね?』


「……オトハ。もういいか?」


『キャー!』


「あっ、ズルいよオトちゃん! ボクも! マサト、ボクのことも呼び捨てにして! できれば熟年夫婦の夫が不意に妻を呼ぶ感じで!」


 何ですかその注文は。いいですよやればいいんでしょう。やったら早く降ろしてくださいね。


「……おい、ウルリーカ。いるか?」


「キャー! キャー!」


 何を盛り上がっているのかは知りませんが、私は頭に上った血が許容量を超えそうで、徹底的に盛り下がっています。


 早く、早く頭の血を下ろさないと、目の前の景色もだんだん朧に……。


『つ、次はどうしようか。マサトにこんな特技があるなんて知らなかった。いつもの馬鹿っぽいマサトもいいけど、こんな大人な雰囲気のマサトもいいかも……』


 いつもの馬鹿っぽいマサトとかかなり失礼な単語が聞こえた気がしたのですが、気のせいでしょうか。気のせいですよね?


「そうだなぁ、次は何を頼もうかなぁ。普段は絶対言わなさそうな言葉が良いよね! 例えばそうだなぁ……お前のこと、滅茶苦茶にしてやる……的な!」


『ウルちゃん良いねそれ! なんて言うかこう、俺様タイプ、みたいな感じのやつ?』


「そうそうそんな感じ! 普段のマサトじゃ絶対ナシじゃん? そのギャップがたまらないよね!」


 あの、ちょっと。


 もう色々とかなりキテて、目に見える景色どころか遂には耳にまできてて、お二人が何を言っているのかも若干解らなくなってきているのですが、それは。


『ちょっと待ってね、マサト。今その声色を存分に使える良いシチュエーション考えるから』


「やっぱり俺様っていうからにはいいトコの出身は定番だよね。そこから背景とストーリーを考えて……」


『いつもは偉そうにしてるけど、一つ弱点があるとまた映えるよね。例えば部屋がどうしても散らかっちゃう的なズボラな一面が……』


「いいねえ、そ~ゆ~ギャップ! ギャップは大事だよね。ただ偉そうなだけだと、キャラクターとして単調になっちゃうし……」


『ズボラさか、他には虫が苦手的のもあるね。でもこれは失敗すると、そんなのが怖いなんてダサいなぁってなっちゃうから、弱点はなるべく理解を得やすいもので……』


「そして、そんな彼に近寄るのはボク達二人。舞台は無難に学校かな。この場合の関係性は幼馴染とか同じクラス、委員会で一緒的なのが一般的だけど……」


『あとは転校生っていうのも鉄板だよね。転校してきたばかりで俺様のこと知らなくて、ちょっと偉そうな彼に意地になって張り合っちゃったりして……』


「あっ、転校生はいいかも! ボクも転校生みたいなものだしね。そうなるとオトちゃんは、昔から一緒だった幼馴染ってことで、お互いによく知ってはいるけどまだ……」


 ふたりが、なにをいってるのか、わたし、わからない、わかるのは、ただ、いしき、とびそう、きもちわるい、あたま、ぞわぞわしてきた、きつい、くるしい。


『定番は転校生紹介からスタートか。それともその前の登校の段階でバッタリ会っちゃって、紹介時に「あー! あの時のッ!」をやってもいいかも……』


「個人的には紹介前にバッタリ会っちゃう方が、なんか運命的でいいなあ。でも正直、ありきたり感はあるよね……」


『そうなるとそこに変化を求める必要があるけど、あんまりやり過ぎるとわたしの立場が……』


「出会い方は大事だからね。もちろん、オトちゃんの立ち位置も考えて、むしろボク達二人が先に出会って仲良くなってから、遅れて彼が登場する展開も……」


『そうして仲良くなった二人が一人の男を巡って争い始める。三角関係は定番だけど、昔からみんなを引きつけてきた王道の流れで……』


「最終的に彼がどちらを選ぶのか、それともどちらも選ばずにボク達の恋愛はこれからだ的な終わり方もあるけど、やっぱり本編では決着をつけてくれた方が……」


『でも下手に選んじゃうと、もう片方を応援してた人達からクレームが来ることもあるから、やっぱり選ばずに終わっておいて、続きはみんなの中で、的な方が無難……』


「それをすると今度は物語のキモであるどっちを選ぶの、が終わらないままだから、それはそれでクレーム来たりもしそうだけど。まあどっちか言われたら……」


 げんかい。

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