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女子会は恋バナで



「……酷い目にあった」


「誠に申し訳ありませんでしたわ」


 別荘に行ってまずわたくしがしたのは、気絶から復活したウルリーカへの謝罪ですわ。


 魔狼族とのハーフである彼女はわたくし達よりも耳が良い。それはつまり至近距離で大声を出せば、わたくし達よりも遥かに甚大なダメージを負ってしまうということですわ。


 本当にごめんなさい。


『そ、それで? あの反応ってことはマギーさん、本当に恋してるの!?』


 目を輝かせたオトハが少し興奮気味にそう聞いてきます。


 そう、そこですわ。わたくしが感じている彼へのこの感覚が、果たして彼女達が言う恋と同じものなのか。それを確かめなければなりません。


「……それがわたくしでは解らないから、貴女達を呼んだのですわ。わたくしのこの感覚が、本当に世間一般に言われているような感情なのか。それをお二人に聞いていただいて、真偽を確認したいのですわ」


「うんうん。そういう話ならさっきの件は水に流そうじゃないか。それでそれで? 詳細を聞く前に、まずは言うべきことがあるだろう?」


「言うべきこと、とは?」


 はて、ウルリーカの言葉の意味がイマイチ解りませんわ。言うべきこと、とは。


 既に話の主題は出ていると思うのですが、今さら何を話せというのでしょうか。


「も~、勿体ぶっちゃって! 相手だよ相手! マギーちゃんが気になる相手さ!」


『そうそう。まずはそこが聞きたいな。……まさか……身近にいたり、するの……?』


 テンションが上がっている二人ですが、何でしょうか。オトハが言葉の後半に行くにつれて、何故か真剣味が増しているようにも聞こえたのですが。と言うか顔は真剣そのものにしか見えませんわ。


「ど、どうなんだいマギーちゃん!?」


 ウルリーカも何故か心配そうに聞いてきますわ。そこ、そんなに大事なところなのでしょうか。


 まあ、身近にいるかどうかと聞かれたら、こう答えるしかありません。


「い、いえ……その……身近というか……正直、あまりお会いしたこともないのですが……」


「『ハァ~~~~…………』」


 わたくしの言葉と共に、二人が一斉に息を吐きます。そんなにリアクションをするようなことだったのでしょうか。


 と言うかものすごく、良かった~、っておっしゃっていいるようにも聞こえるのですが。


「うんうん。その様子だと、マサトとかエド君とかじゃなさそうだね。それこそ今日会ったシマオ君とかも」


「違いますわ。あんな子どもっぽい方々ではありません」


『うん。確かに子どもっぽいよね』


 わたくしの言葉にオトハが頷きます。そうですわ。同年代の男子というのは、どうにも馬鹿っぽいというか、幼く見えてしまいます。


 頼りがいがある男性となると、やはり年上の方が落ち着いていて素敵ですわ。かと言って、あまり年が離れすぎていてもアレですが。


「う~ん、なるほど。そういう意見もあるんだ。ボクとしては一緒に馬鹿やる方が好きだから、馬鹿っぽい同年代でもいいんだよね~」


 わたくしが放った持論に、ウルリーカが反論します。


「やっぱり頼るっていうよりかは、一緒になってはしゃいだ方が楽しくないかい? あんまりならこっちがフォローしてあげたらいいしさ」


「いいえ。自立できていない男性など、魅力的ではありませんわ。やはり大切なのは包容力です。自分を丸ごと包んで大事にしてくれるような、甘やかしてくれるような男性が良いですわ」


『わたしは同年代か、どっちかって言うと年下かな』


 わたくし達の持論とはまた別の意見がオトハから出てきました。まあ、世話焼きなオトハなら、そう言うかとも思っていましたが。


『馬鹿な男の子って、可愛いと思うな。わたしがキチンとお世話してあげなきゃ、って気になるから。ちゃんとお世話して、大きくなっていくのを側で見てるのって、凄く良いと思う』


「オトちゃんのそれはどっちかって言うと母性じゃないかな」


 お母様みたいな事を言い出したオトハに、すかさずウルリーカが突っ込みます。ええ、わたくしもそう思いますとも。


 オトハの口ぶりは、どっちかと言うと我が子を見守る母親視点にしか思えませんわ。まあ、彼女に子どもができたなら、溺愛しそうな感じはしますが。


「……とまあ、お互いのスタンスは解ったからさ。マギーちゃんの話に戻ろうよ。一体、誰が気になるんだい?」


「う……い、言わなきゃ駄目ですの……?」


『駄目だよ。自分でわたし達を連れてきたんだから』


 そっちが持ってきた話でしょ、と言われたらぐうの音も出ませんわ。解りました、ちゃんとお話しますから。


「っと、その前に飲み物でも飲もうか。はいこれ」


『ありがとうウルちゃん』


「ありがとうございますわ」


 そうしてウルリーカから受け取った飲み物で喉を潤し、一息ついたわたくしはゆっくりと口を開きます。


「あの、その……わ、笑わないでくださいまし?」


『笑ったりなんかしないよ。大丈夫大丈夫』


「そうそう。というか、年上好きなマギーちゃんが気になる人なんて、想像もつかないからさ。びっくりはすると思うけど」


「…………」


 びっくりはされるでしょうね。何せ、二回しか会っていないうえに、キチンと話したのは先ほどが初めてですもの。我ながら軽い女かもしれませんわ。


 でも、この気持ちが恋とは、まだ決まった訳ではありません。ただの憧れかもしれませんしね。


『……まーだー?』


「だんまりで引き延ばそうったってそうはいかないよ。話してくれるまでは、逃さないからね」


「ううう……わ、解りました、わ」


 足をパタパタさせながらこちらをじーっと見ているオトハと、飲み物を飲みながら長期戦の構えのウルリーカの前に、わたくしは観念して打ち明けることにしました。


 ええ、言いますわ。そうしないと話が先へ進みませんもの。


「えっと、その……あ、あれです、わ……」


『あれって?』


「ですから、その……お二人も見たことある、方で……」


「見たことある人なんて一杯いるさ。ほらほら、観念しろ~」


「うう、うううう…………その……あの……」


「『ほらほらほら~!』」






「…………………………………………………………………………………………………………………………………………その…………前にわたくし達を助けてくれた魔族の方……ですわ…………」


「「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」」






 心を決めたわたくしがおずおずとお話すると、お二人は飲んでいた飲み物を盛大に吹き出しましたわ。

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