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オトハの過去


 私、マサトは夢を見ていました。それは、あの日の夢。病院でノルシュタインさんとゲールノートさんに私の真実を話した、あの日。


「……事情は解ったのであります!」


 ひとしきり話を終えた後、ノルシュタインさんがいつもの調子で口を開きました。その時の私は、呆然としていたと思います。


 それは自分自身やノルシュタインさん達の反応からではなく、オトハさんの事情を聞いてしまったから。


「マサト殿、オトハ殿! お辛い境遇の中、我々を信じてお話いただき、ありがとうございました、であります!」


「……話してくれてありがとう。まだ事の衝撃に、頭が整理できていない部分もあるが……まあ、辛いのは君たちの方に違いない」


 オトハさんを拘束していたノルシュタインさんは、話しをする過程で彼女を離していました。自由になった彼女は真っ先に私の元に来てくれましたが、私はそんな彼女に良い言葉をかけてあげられませんでした。


「オトハさん……あなたも、辛い思いを……」


『ううん、いいの。マサトがそんな顔しなくても。わたしはもう、大丈夫だから……今まで話せなくて、ごめんね』


「そ、そんなこと……」


 そんなやり取りをしている横で、ノルシュタインさんとゲールノートさんは二人で何やら話をしています。


「……まさかこんな子どもが異なる世界から拉致されてきて、なおかつ魔王の力を持っているとは……それに、おそらくは人を魔族に変えてしまう禁呪がかけられている……」


「……それに加えて、エルフの里の話であります! まさかエルフの里が、オトハ殿を使って第二神の復活を企んでいたとは……ッ!」


 ノルシュタインさんの話にあった、エルフの里がオトハさんを使って第二神を復活させようとしていた。そうです。これが、彼女が故郷であるエルフの里に帰りたがらなかった理由です。


 彼女はエルフの里で監禁され、一部以外の誰にも知られないまま、第二神と呼ばれる神の封印を解くためだけに様々は呪いや魔法の解除を学ばせられ続けていました。


 挙句の果てには神の封印を解く巫女は言葉を失っていなければならないという条件を満たすためだけに、儀式を行って彼女から言葉を奪い取り、最終的には生贄として呪いと共に死ななければならないというのです。


 自分自身が何も望んでいないにも関わらず、そうしなければならないとかいう誰かの都合だけで、彼女は喋ることができなくなってしまいました。


 加えて、やれるだけのことを限界までさせて、終いには死んでしまえと。なんという理不尽でしょうか。


 幸いというかは解りませんが、エルフの里は戦争中に魔族軍隊による攻撃を受け、その際にオトハさんも見つかって奴隷として魔国へ連れ去られてしまいました。それが結果として、彼女はエルフの里から抜け出すことができたのです。


 しかし抜け出した先の魔国でも奴隷として扱われ、過酷な環境下で辛い思いをしていました。その中で虎視眈々と隙を伺い、機を見つけて逃げ出し、そして私に出会ったと。彼女の今までの経緯はそのようなものでした。


『だから……わたしはエルフの里には、帰りたくありません。このままみんなと……マサトと一緒に、いたいんです……』


 一通り話し終わった後、オトハさんはそう言っていました。それは当然でしょう。エルフの里に戻ってしまえばまた監禁されて、第二神だかの封印を解く生贄になってしまうというのですから。


 帰りたくなくなるのも当然でしょう。私みたいな、ただのワガママで帰りたくないという事情とは雲泥の差です。


「……私は、オトハさんそう言っていただけて、嬉しいです」


 上手く紡げない言葉を、何とか頑張ってひねり出します。


「一緒にいたいと言ってくださるなら、一緒にいます。私なんか、何ができる訳もありませんが、こんな私でも一緒にいるくらいはできますので」


『……ありがとう、マサト。これからもずっと、わたしと一緒にいてね』


 優しげに微笑んでいるオトハさんです。思わず頷きそうになりますが、しかし何故かその言葉の先に墓場のようなものが見えたので、ギリギリで踏みとどまりました。何でしょうか、今のは。


「……しかしそうなりますと、マサト殿とオトハ殿は、お二方とも今の生活のままが良いということになります! 私としても! 可能な限りそうしていただきたいと思うであります!」


「……うむ。しばらくは今まで通りの生活をしてもらう方がいいだろう。こちらとしても、すぐにどうこうと考えが浮かぶ訳でもない。幸いなことに、この事実は今のところ私と君、そしてこの子達とあのハーフの女の子だけが知っているということになっている。後日もう一度集まり、今後について話し合おう。あと、マサト君には呪いへの抵抗力を高める薬を出しておこう。症状が酷い時に飲めば、少しはマシになるはずだ」


「……ありがとうございます。ノルシュタインさん、ゲールノートさん」


『ありがとうございます。ウルちゃんには、わたしからお話させていただきます』


 やがてノルシュタインさん達から話を振られ、この日はこれでお開きとなりました。私も気を張っていたのか、この後すぐに寝てしまった気がします。


 後日、ウルさんも含めて話し合いが行われ、そこで私たちとすぐ連絡が取れるノルシュタインさんの部下が近くにいてくれることになりました。ノルシュタインさん達は私たちを守るためとおっしゃっていましたが、まあおそらくは監視も兼ねているのでしょう。


「話は聞かせてもらったわ。私、アイリス=イングリッシュ。よろしくね、マサト君、オトハちゃん、ウルリーカちゃん」


「その旦那のオーメン=サイファーだ。俺たちが近くにいるからにゃ、もう大丈夫だぜ」


 そうして私たちのすぐ近くに、金色で短髪、顔にそばかすがあるスレンダーな女性のアイリスさんと、黒髪を真ん中で分け、外側にはねる形の天然パーマを持つ背の高い男性のオーメンさんが引っ越してきました。


 何でもこの二人は夫婦でノルシュタインさんに仕えており、明日もしれない戦争中に恋を育んで、停戦とともに籍を入れたそうです。


 表向きは結婚後の新居に引っ越しを行ったとなっているらしいのですが、実際は私たちの警護(そして明言はされてませんが、おそらく監視も)が主任務だそうな。


 彼らは私たちの生活を少し遠くから見守ってくれているそうで、普通に生活している分にはあまり会うこともありません。ただ連絡先はいただいているので、遠話石でお話することはできます。


 兄貴とマギーさんにも顔合わせを済ませており、近くに引っ越してきた新婚夫婦で、たまたま引っ越しの手伝いを私がして知り合った、という形になっています。


 そうして私たちは、一応元の生活に戻ることになりました。やがて私も退院し、兄貴がいる元の男子寮に戻ってきたのですが、この辺からどうも眠くなって……。

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