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半分の友達の友達


「……ってことがあったんですよ」


「……マジか。なんで兄弟だけ帰ってこなかったのかと思ったら」


『……マサトだけ何かあったのかって、心配したんだよ?』


「だと言うのに、実際はマサトだけができていなかったとか。全く、情けないですこと」


 一人ぼっちの延長タイムを終え、私は久しぶりに学校に戻ってきました。ここ三日は鬼面先生と一対一のお昼ご飯だったので、兄貴、オトハさん、そしてマギーさんと一緒に食べられる幸せを、肌で感じています。


「そうそう。マサトったらボクがちょっと声をかけたくらいで、もうダメダメだったもんね~」


「そしてこの方はどこのどなたで!?」


 マギーさんが声を上げたのも無理はありません。素知らぬ顔で私の隣へ来て、一緒にご飯を食べているウルさんがいるのですから。しかし、ブレザー姿の彼女は何だか新鮮です。合宿で体操服姿しか見ていなかったので。


『……マサト。この女の人は誰? わたしの知らない人だけど』


 何故かオトハさんからまた黒いオーラが出ているような気がしますが、気のせいでしょうか。おそらくは気のせいでしょう。気のせい、ですよね……?


「やあ、はじめまして。オトハちゃんにマグノリアちゃん。ボクは隣のクラスのウルリーカ=ダイア。合宿でマサトと一緒だったんだ。その縁で来たんだけど、良かったらお昼をご一緒させてくれないかい? もし迷惑だったらそう言ってね」


『ど、どうも。いや、別に迷惑とかは……』


「えっ? あっ、ええ、構いませんけど……」


「じゃ、よろしくねオトちゃんにマギーちゃん」


 マイペースを崩さないウルさんに持っていかれて、押され気味のお二人です。ほぼ初対面の相手に物怖じしないというのは、彼女のゴーイングマイウェイさに感心してしまいます。


「そして、君が噂の悪鬼羅刹さん?」


「エドワルだよ、魔狼のねーちゃん」


 そのままの流れで、ウルさんは兄貴にも声をかけました。


「魔狼って言っても半分だけどね~。じゃあエド君。ボクもご一緒してもいいかい?」


「いーんじゃねーの? 兄弟のツレなら、俺からは何も言うことはねーよ」


「じゃあ遠慮なく」


 あっさりと承諾した兄貴が、私の方に顔を寄せてきます。


「……しかし兄弟よぉ。鬼面の合宿で女引っ掛けてくるたぁ、やるじゃねえか。兄弟はこういう女が好みなのか……」


「……いえ、その、別に引っ掛けた訳では……」


「……んだよ。向こうから声かけてきたってのか?」


「……最初はそうでしたけど、結局は私から一緒にやろうって言いまして……」


「……やっぱ引っ掛けたんじゃねえかよ」


「……いえ別にそういうつもりでは……」


 兄貴とこそこそ話していたら、ウルさんがニヤリと笑ってこちらを見てきます。しまった。彼女は耳が良いんだった。


「マサトがボクと一緒がいいって言ってくれたんだ」


 ウルさんが両手を両頬にあてて、顔を赤らめながら話し出します。


「合宿で二人組みを組む時に、別のクラスなのにわざわざボクのところまで来て君が欲しいって……も~情熱的だったよ」


「あら! マサトにしては積極的ですわね」


『…………へぇ……』


「待って! 私そんなこと言ってませんよ!?」


 酷い拡大解釈を見た。私は確かに貴女と組みたいとは言いましたが、貴女が欲しいなんて一言も言ってません。決して、断じて、絶対に。


「え~? でもマサトって変わってるじゃん」


「そこは関係無いでしょう!? どうして私が告白したみたいになってるんですか!?」


「でもマサト、合宿の最初の時にボクの手を取ってくれたよね?」


 そう言われて思い出されるのが、ウルさんと組むことになったあの日、手招きされた後に差し出された手を握ったことを思い出します。特に変わったことはなかったと思いますが、あれが何か?


「人間はどうか知らないけどさ。魔狼族には差し出した手を握り返してくれたら、それはあなたが好きですって好意を受け取ってくれた証なのさ。ボクに好意を向けてくれたから、マサトは応えてくれるのかな~と思って試してみたら……マサトは情熱的に握り返してくれたんだよね~……」


「えっ……? ……えっ!?」


「つまり。魔狼族流での告白に、マサトは応えてくれたのさ。これって相思相愛ってことだよね! きゃ~、恥ずかし~!」


「待ってよしてもっかい待って! えっ? なに!? あれってそんな深い意味があったんですか!?」


 初耳過ぎて私の動揺が加速しっぱなしです。差し出された手を握り返したら告白成功? そんな文化があったなんて知りませんよ!? あのジルゼミでも種族についての講座はありましたが、そんなこと一言も……。


「……兄弟。オメーにも春が来たんだな……」


「なんでそんな感慨深そうに言うんですか!?」


 兄貴は兄貴で、腕を組んだままうんうんと頷いています。何をそんなに納得しているのでしょうか。


「まあ、おめでたい話ではありませんの! わたくしは応援しますわ!」


「違います! 違うんですマギーさん!」


「大丈夫ですわ。解っておりますとも」


「ウインクしながら渾身の勘違いをしないでください!」


 マギーさんはマギーさんで、もうお祝いムードです。以前見たような綺麗なウインクですが、生憎全力で間違っています。一体、何を解ったというのでしょうか。


「…………」


「? お、オトハさん何をイテテテテテテテテテッ!!!」


 そして、静かにしていたオトハさんでしたが、急に立ち上がると、私の耳を掴んで歩き出しました。やだ、力強すぎる。あの小さな身体のどこにこんなパワーが?


『マサト。今から大切なお話があるの。来てくれるよね……?』


「行きます! 行きますから耳を離してください! なんか千切れそうな感覚がぁぁぁ……」


 そのままオトハさんとは思えない力で引っ張られていく私は、いつの間にか食堂から外の人気のない所へと連れ出されて行きました。

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