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適正試験の日


「さあて、新入生の諸君。魔法の適正試験の日が来た」


 私、マサトが今日も勉強頑張るぞとノートを取っていたある日。魔法学の授業の際に、グッドマン先生がこんなことを言い出しました。


 グッドマン先生は見た目実技実習担当のようで、実は魔法学の先生だったりします。


 初めての授業の日には「お前らは人を見た目で判断してるかもしれんが、魔法学の担当は私だ」と挨拶した際にはなかなかクラスがざわついたものです。


「既に基礎の勉強でやったが、魔法はマナあるいはオドと呼ばれる魔法元素を用いる。マナは空気中に漂っている自然発生しているもの。オドは生物の体内で生成されるものだ」


 先生の話を聞きつつ、私も頭の中で復習がてら思い出します。


 オドは全ての生物で生成されていると言われています。一説には、これが生物の寿命にも関係しているかもしれないのだとか。


 全ての生物の体内で確認されているオドですが、体内のオドを魔力に変換して魔法として体外に放つためには、適正があるみたいです。これについて我々人間は、一部の人しか適正を持っていません。


 対して、人間以外のエルフ族や魔族なんかは、ほとんど全ての方々がオドを用いて魔法を放っているそうです。


 その為、適正のない人間は、自然界にあるマナを用いて魔法を放つ必要があります。


 周囲のマナを魔力に変換する回路は、種族に関係なく誰もが頭の中に持っているらしいのですが、通常は使わない機能のために普段は眠っています。


 それを起こしてマナを扱うためには、何でもマナの豊富な場所で修行しなければならないのだとか。


「……つまり今回の適正試験は、オドを扱うクラスとマナを扱うクラスに分けるためのものだ。試験という名前になっているが、この結果で成績が変わったりはしないから、安心していいぞ。

 ただし、マナを扱うクラスになった者は……」


 少し間を溜めて、グッドマン先生は言葉を続けました。


「……私が監修する地獄の二週間強化合宿に参加してもらう」


「「「えええーっ!!?」」」


 にっこりと笑いながらそう話したグッドマン先生に対して、クラス中からブーイングの声が上がりました。に、二週間の強化合宿とは……?


「ええいやかましい。適正がない人間でも修行すれば、同じように魔法が使えるようになるんだぞ? ないものねだりで贅沢を言うな」


 言っていることは解るのですが、それはそれとしてグッドマン先生監修の二週間の強化合宿というのは、字面的に素直に首を縦に振れないのです。


「普段ならもう少しゆったりした期間を取るのだが、停戦中とはいえ戦時の警戒はまだ解かれていない。

 その為、戦時中と同様に、最短でマナを扱えるようになるカリキュラムを使用することになった。今の内に覚悟を決めておくか、オドの適正があることを祈っておくんだな」


「ゲェ……二週間とか、マジかよ……」


 隣の席の兄貴ことエドワルさんも、声を濁していました。赤い短髪を指先でいじりながら、見るからに嫌そうな顔をしています。


 私がこの人を兄貴と呼び、彼も私を兄弟と呼んでくれるのには理由があります。それは肌色満載の素晴らしい書籍(エロ本)によるもの。


 漢なら誰だって、この書籍についての討論を行い、そしてその後には友情が芽生えるでしょう。間違いありません。


「ヤバいっすね兄貴。でも逆に言えば、二週間耐えたら魔法が使えるようになるんですよ?」


「そうは言うがな兄弟よ。これ適正がなかったら、あの鬼面と二週間も顔突き合わすことになるんだぜ? マナより先に嫌悪感を感じそうだ……」


「それはそうかもしれませんが……」


「何か言ったかお前達?」


 いつの間にか私たちの近くに来ていたグッドマンこと鬼面先生が、腕を組んで口元に笑みを浮かべたまま傍らに立っていました。


 私たちはビクッと身体を震わせつつも、お返事します。


「な、なんでもありませんよ……ね、兄貴?」


「お、おお、そうだな兄弟。何も言ってねーよなー?」


「そうかそうか。なら、早速適正試験の会場へ向かうぞ。あと、合宿に来たら覚えておけよ。マサト、エドワル」


「……聞いてたんですか。意地の悪い……」


「……しっかり聞いてんじゃねーかよ鬼面が」


 私たち二人の頭にゲンコツが落とされた後、私たちは教室移動を始めました。何でも、一年生全員がこの適正試験を受けるために、体育館に移動するのだとか。


『だ、大丈夫、マサト……?』


 移動中。私と兄貴に向かって、エルフのオトハさんが魔導手話で話しかけてきました。彼女は私と共に魔国から逃げてきた、私の初めてのお友達です。


 緑色の髪の毛にとんがった耳、そして右目の下には魔族の奴隷であった証、コードが刻まれています。身長は小学校高学年くらいなのですが、エルフという種族は長命な種族。もしかしたら私よりも年上かもしれませんが、深くは聞いていません。


 そして彼女は声を出すことができません。そのために手話を用いて会話しているのですが、彼女が何故声を出せないのか、これについてもまだ深くは知りせん。聞いてもはぐらかされてしまったこともあります。


「全く。マサト、野蛮人なんかと生活してる内に、品性が同列になってしまったのではありませんか?」


 そしてもう一人、私たちの元に寄ってきたのが、マギーさんことマグノリア=ヴィクトリアさんです。


 魔国から逃げてきた私とオトハさんを拾ってくださった、元貴族の方です。オトハさんと、いつか恩を返そうと決めています。腰まで続く金色の髪の毛に、グラマラスなボディーを持った、非常に魅力的な女性です。


 そして人国の英雄であり、そして今は裏切り者の烙印を押されてしまったヴィクトリア家の一人娘。彼女はかつての名誉を挽回するために、一人前の兵士になることを目標にしています。


「んだよパツキン? 俺の悪いってのか?」


「そうですわ。元々マサトは、貴方みたいな野蛮人とは関わりのなかった人のはずです。変なこと吹き込まないでくださいまし」


「まあまあ。私は兄貴と出会えたことは、本当に良かったと思っていますよ。私に変化があったとしても、それは嬉しい変化です」


「ほら、兄弟もこー言ってるし、ワリーことなんてねーって。なー、パツキン?」


「誰がパツキンですか、誰が! マサトも野蛮人に対して甘すぎですわ!」


『お、落ち着いてマギーさん。マギーさんは本当に金髪なんだし……』


 そんなやり取りをしつつ体育館に到着すると、私たちはクラスごとに一列に並びました。前にはグッドマン先生の他に、お手伝いで来ている先生方が何名かいらっしゃいます。


 彼らの近くには机があり、その上には大きな水晶のような青い球体が台座の上に置いてありました。数的に一クラスに一つ、といったところでしょうか。


「全員揃ったな。今から順番に、この魔水晶に手を当てていってもらう。オドの適正がある奴には反応し、ない奴には反応しない。反応のある無しでこのオド組とマナ組のカードを配る。

 終わった奴から昼休みに行って良し。午後の授業からオド組とマナ組に別れるから、一緒に配る資料も読んでおくこと。それじゃあ前から順番に来い」


 サッと説明を終えたグッドマン先生の声で、生徒が順番に水晶に触り始めました。生徒が順番に手を当てていくと、青白く光る人と何にも反応がない人で分かれていきます。


 反応がなかった人はグッドマン先生監修の地獄の強化合宿が確定するので、なかなかな盛り上がりを見せています。


「わ、わたくしはあの英雄ヴィクトリアの娘でしてよ!? だ、だだだ大丈夫に決まって……」


「声震えてんぞパツキン?」


 私たちの前で兄貴とマギーさんがあーだこーだとやり取りしています。


 その様子を見つつ周りの生徒はどうなっているのかと見渡そうとしたところ、隣にいたオトハさんが私のブレザーの裾を引っ張ってきました。


『マサト、気をつけてね』


「えっ? 気をつけてとは、何を……?」


『……あの力がバレないように、だよ』


 オトハさんのそう言われて、私はハッとしました。そうです。私には一つ、大きな隠し事があります。


 それは、私の中に敵国である魔国の長、魔王の力が宿っている現魔王であることです。


 実際は、私は三年以上前に異世界からこの世界に無理やり連れて来られ、魔王に身体を乗っ取られていました。


 それが少し前に魔王が亡くなり、私は再び目覚めました。魔王だけが操れる唯一の力、黒炎を操れるオドを身体に残したまま。


 そのまま魔王としてやっていく為に英才教育という名の拷問を受けていましたが、オトハさんとの出会いで自分どうしたいのかを考えて、一緒になって魔国から逃げ出してきたのです。


 今私がいる人国は、魔国と停戦中ではあるものの、水面下ではいつ戦争が再開してもおかしくはない状態であることは、魔国にいる間に学ばされました。その魔王であるはずの私が、今はこの人国に逃げ込んでいる。


 魔国にとっても人国にとっても、私という存在が上の方の人たちにバレてしまえば、どうなってしまうのかは解らない。


 なので私は、自分のその身分と力を隠して行かなければならないのです。


 しかし最終的には、私は人国でのし上がって、戦争を終わらせたいと考えています。人と魔族の争いを、人であり魔王である私が。


 私は魔国から逃げる際に、力を貸してくれた人を守れませんでした。そしてその怒りのまま、追ってきた幾人もの魔族を殺しました。私が、殺したんです。


 だからこそ、私は争いを終わらせたい。争いを、命が奪われることを終わらせることで、殺してしまった彼らに報いたいと、そう思ったからです。


 その為にも士官学校で学び、軍に入ってのし上がる必要があります。今はその第一歩目。


 こんなところで力をバラしてしまい、最悪、私の存在が魔国等に見つかってしまう訳にはいかないのです。


「……解っています。でも気をつけるとはいえ、具体的にはどうしたらいいのでしょうか? あの魔水晶、勝手に反応しているみたいなのですが」


『うーん……』


 そしてこの秘密と目的は、オトハさんだけが知っています。彼女は生まれ故郷であるエルフの里に帰りたくないらしく、私のお手伝いをしたいと言ってくれました。


 帰りたくない理由はまだ詳しく聞いていないのですが、この世界に来て初めての友達である彼女を私は信用しています。


 彼女がいなければ、そもそも魔国から逃げ出そうとすら考えなかったでしょうから。


『……そうだ。あれをやってみる。マサトは普通に触れてくれて大丈夫だよ』


 少し目を閉じて考え事をしていた彼女でしたが、やがて何かを思いついたかのように手をポンっと叩き、私に手話でそう伝えてくれました。


「あれとは。何をされるつもりなんですか?」


『ちょっと魔法使ってみるだけ。大丈夫、わたしに任せて』


 オトハさんはそう言うとウインクして見せました。何か策あり、とのことですか。よし、任せてみましょう。


 そんなこんなで私たちの番になりました。

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