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みんなのこれから


「……少しは、落ち着かれましたか?」


 涙も落ち着いた頃にマギーさんは私を離し、そう聞いてくださいました。マギーさんも顔をぐしゃぐしゃにされていましたので、やはり泣いていたみたいです。


「はい……本当に、ごめんなさい……」


「……もういいのですわ」


 再度謝った私に対して、マギーさんはそうおっしゃいました。


「不満なことはありました、悲しいこともありました……でも、それ以上に、貴方が可哀そうって、思いまして……だから、もう良いのですわ」


「マギー、さん……」


 ブレザーのポケットからハンカチを取り出した彼女は、それで顔を拭いました。そのまま鼻をかむと、スッキリした、と言わんばかりに声を上げます。


「……さあッ! これでもう、この話はおしまいですわッ! マサトも、よもやまだ隠していることなんかございませんでしょう?」


「え、えーっと……多分……い、良いん、ですか……?」


 流石にこれ以上何かあるかと言われても、出せるものはありません。


「良いも悪いもないですわ。わたくしの不満は、貴方へのビンタ一発に全部込めました。そして、貴方の境遇を可哀そうに思い、涙することもしましたし……あとはいつも通りでよろしいですわ」


「マギー、さん……」


「……それに。わたくしの初恋も、これで終わりですから……」


 最後に何かをボソッと言った彼女ですが、声が小さくて聞き取れませんでした。


「……何か、おっしゃいましたか?」


「……いーえ、何にもッ! あとは……皆さんッ! いつまで隠れているのですかッ!?」


 すると今度は、屋上の入り口の方を見てマギーさんが叫びました。次の瞬間、校内へと続く扉が開く音がして、えっ? っと思って顔を向けると、そこには屋上の扉から雪崩れてくるように折り重なった、オトハさん、ウルさん、兄貴、そしてシマオの姿がありました。


『き、気が付いてたの、マギーさん……』


「い、いや~……ぼ、ボクも流石に、気になっちゃってさ」


「……つーかおい、チンチクリン。テメーが声上げたから、バレたんじゃねーのか?」


「ん、んな訳あるかッ! お姉さまと兄さんが抱き合った時には、オトハちゃん達もびっくりしてたやろうがッ!?」


「み、皆さん……」


 互いに声を上げている皆さんですが、シマオの言葉から、私は背中に冷たいものを感じていました。まさか、先ほどの様子は、皆さんに……。


「……まあ、見られていたのでしょうね。わたくしの勘からは、逃げられませんわ」


「解っててやってたんですかッ!?」


 マギーさんの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまいます。えっ、なんですか、知ってたんですか、えっ?


「そうですわ。まあ、これでわたくしの用事は終わりましたし……オトハとウルリーカも、もう大丈夫ですわよ。わたくし、別にマサト本人がどうこうはございませんので」


「『な、何のことッ!?』」


 彼女の言葉に、オトハさんとウルさんが言葉と魔道手話を合わせています。一体、なんのお話でしょうか。


「……まあ。俺も気にしちゃいねーからよ、兄弟」


 女性陣がわいのわいのやっている中、兄貴が声をかけてきてくれました。


「話にくいことだったんだろ? ……なら、別にいーさ。ちゃんと、戻ってきてくれたしな」


「兄貴……私、兄貴には、世話になりっぱなしで……」


「気にすんなって。なあチンチクリンよ」


「……すまんかった兄さんッ!」


 すると、シマオが私に向かって頭を下げてきました。な、なんですか、急に……?


「……バフォメットに利用されて、ワイが兄さんとあいつを引き合わさんかったら、こないなことにならんかったかもしれへん……ホンマすまんかったッ!」


「い、いえ、そんな……元はと言えば、私が黙ってたのが悪いんですし……私の方こそ、すみませんでした」


「……ほ、ホンマか?」


 私も頭を下げると、おずおず、と言った様子でシマオが聞いてきます。


「わ、ワイ……流石に兄さんには、殴られるおもてたんやけど……?」


「……そんなことしませんよ。シマオも、私の友達じゃないですか」


「ッ! に、兄さーんッ!」


 すると、シマオが私に向かって抱き着いてきました。


「感謝……ホンマ、感謝やで……ワイ、ワイ……あん時兄さんに助けてもらえて……ホンマに……ッ!」


「……気にしないでください。私も、なんだかんだ言って、シマオと居られて楽しいですから」


 それは、私の偽りのない本心です。いつも賑やかにしてくれる彼。私の大切な友達の一人です。


 ただ、マギーさんの後にシマオなんかに抱き着かれると、先ほどまで残っていた筈の彼女のぬくもりや、あのやわらかいものの感触が失われていくことだけは解せませんが。


「なんかめっちゃ失礼なこと思われとる気がするでッ!?」


「気のせいですよ……あっ、そうだ。マギーさん」


 このタイミングで、私は一つ思い出したことがあります。目覚めたあの日に、ベルゲンさんから伝えてくれと頼まれていた、あの事を。


「なんですの、マサト?」


「ベルゲンさんから、マギーさんの言伝を預かってるんです」


 ピクっと、マギーさんの眉が動きました。オトハさん達と楽し気にお話していた雰囲気が一転し、先ほどのような真剣な表情を見せています。


「……あの方は、なんと……?」


「え、えーっと……知りたければ、私の元まで来てください、と」


 その剣幕に押されながらも、私はベルゲンさんがおっしゃっていた内容を、しっかりと彼女に伝えることができました。良かった、ちゃんと覚えてて。


「…………。……そう、ですか……」


 一方で。それを聞いたマギーさんは、何やら険しい表情です。一体、何だと言うのでしょうか。


「……まさかそれ、あん時の話やないか?」


「……多分、そうじゃないかな~」


 しかし、シマオとウルさんも、何やらご存じの様子。私は兄貴の方を見てみると、彼も首を傾げていました。


「……ああ。マサトは気を失っておりましたし、野蛮人も倒れていたのでしたわね。実は、わたくしのお父様の裏切りについて……あのベルゲンが関わっている可能性がありますの」


「ええッ!?」


 全く想定していなかった話に、飛び上がってしまいそうな心地がします。あのベルゲンさんが、マギーさんのお父さんの裏切りに関わっている……? そんな、まさか……。


「……ベルゲンが当時の魔国の大臣と密約を交わし、お父様と前魔王ルシファーを罠にかけた、と。先の戦いの際に、そういうお話があったのですわ……ただ。それをおっしゃっていたのは、あのバフォメットです。どこまで信憑性があるかも解りませんが……」


『……でも。マギーさんの勘は、そうだって言ってるんだよね?』


「……ええ」


 オトハさんの魔道手話に、マギーさんが頷かれました。的中率の半端ない勘が、それが真実だと告げている、と。


「……しかし、まだ物証も何もない状態です。わたくしは自身の勘を信頼しておりますが……ここからが勝負なのですわ。ようやく見つけた、お父様たちの真実の手がかり……知りたければ私の元へと来なさい、ですって……? 上等ですわッ!」


 そのまま勢いよく拳を振り上げたマギーさん。


「待っていなさい、ベルゲン=モリブデンッ! 貴方が隠した真実、このわたくしがキッチリ暴いて差し上げますわッ!!!」


「…………」


 私はそれを、何とも言えない気持ちで見ておりました。今回、私が学校に戻ってこられたのは、ベルゲンさんのお陰です。にも関わらず、彼はマギーさんのご両親の失墜に絡んでいると……不意に、魔族を滅ぼそうと、彼に誘われた時のあの顔が、脳裏をよぎりました。


「……大切なのは、考え続けること……」


『? マサト、何か言った?』


「……いえ、何にも」


 今は良くしてくださっているあの人ですが、今後は私も、考えていかなければなりません。一体あの人が、どういうつもりで、動いているのかを。


「……ま。よーやくパツキンも、目的が見えてきたってこった。良かったじゃねーの、今までのどこ行ったら良いかもわかんねー状態より何倍もマシになってよ……」


「そう、ですね……」


 そう言われてみれば、マギーさんは今までの状況からは、各段に進んだと言えます。自分のお父さんは裏切ってなんかいない、と決めつけていた時から、本当にそうじゃないかもしれないという可能性まで見えてきたのですから。そして、彼女が目指す先も。


「……とは言え。他の皆様もわたくしと同様に、進む先は決まっているのでしょう?」


「……当然だ。俺は、強くなるだけだ」


 そんなマギーさんの言葉に続いたのは、兄貴でした。腰に下げた木刀を握りながら、そうおっしゃっています。


「あいつは……キイロは、俺の想定してたよりも遥かに強くなってやがった……正直、勝てる未来なんざ、まだ見えもしねーが……俺には、ジジイの残した奥義書がある。それでもって、ジジイの目指した剣を、研ぎ澄ますだけだ」


「兄貴……」


 兄貴の、お爺さんの剣でもってキイロさんを超える、という目的。体育祭の際にはコテンパンにやられてしまいましたが、それでもお爺さんの残した奥義書を得ることができました。今後はそれによって、鍛錬を続けていくのでしょう。


「……みんな目標が明確で良いね~。ま、ボクもお母さんとは仲直りできたし……それにもう一つ、手がかりが見つかったしね~」


「ウルさん? 手がかり、とは一体……?」


 するとウルさんが、そんなことをおっしゃいました。彼女が得た手がかりとは、一体なんでしょうか。


「あ、マサト気になる~? 実はね……ボクのお父さん、まだ生きてるかもしれないんだ」


「えっ? ほ、ホントですかッ!?」 


 ウルさんの言葉に、私はびっくりしました。

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