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手遅れ……?


 強い。魔皇四帝バフォメットは、最早そうとしか表現できませんでしたわ。


 わたくし達六人がかりで寄ってたかって斬撃を、魔法を、針を、ハンマーを叩き込もうと、それら全てを防ぎ、かわし、そして無効化してしまいます。


 そして、その結果が……。


「あ、ああああ……」


「く、クソ、がァァァ……ッ!」


「な、なんやコイツ……ば、化けもん……」


「ハァ、ハァ、こ、これ程の力の差が、あるのでございますか……?」


『ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……』


「ぼ、ボク達の手が……何も、通用しないなんて……ッ!?」


 地面に倒れ伏しているわたくし達ですわ。わたくしと野蛮人は剣を支えに何とか立てている状態であり、ハンマーに寄りかかっている変態ドワーフ。オドとマナの使い過ぎで座り込んでしまったオトハ、ウルリーカ、そしてイルマですわ。


 誰一人として、ニヤニヤと笑って仁王立ちしているバフォメットと、同じ目線の高さを持てないでいました。


「ぁ……ぁぁぁ…………」


「……あら、もうすぐじゃない?」


 すると、少し離れている所で地面に横たわっているマサトが、小さく呻いたのが聞こえまして。視線をやると、胸元にある水晶の中がほとんど、黒い炎で埋め尽くされています。


 ま、不味いですわ、もう時間がッ!


『しゃ、"光弾シャインカノン"ッ!』


 それを見たオトハが、慌てて魔法を放ちます。光の弾は真っ直ぐにバフォメットへと飛んでいきましたが、


「"蒼炎剣サファイアソード"。そ~んな魔法じゃ、アタシの心に火は点かない、わ、よッ!」


「クッ……ソォォォッ! "流刃一閃"ッ!!!」


 再度真剣を構えて突撃する野蛮人。わたくしの静止も聞かず、鞘にしまった剣を抜刀しながらバフォメットへと刀身をぶつけようとして、


「はい、待った」


「ク……グアアアアッ!?」


「野蛮人ッ!」


 青い炎の剣であっさり受け止められてしまい、そのまま剣戟へと移行しますが、途中で挟まれた蹴りをモロに受けてしまい、野蛮人はこちらへと吹き飛ばされます。


「剣の方は筋が良いけど……まだまだねぇ、エドワルちゃん」


「こ、この、野郎……ッ!」


「……そ、し、て。時間よ」


 やがて、バフォメットがそんな事を言いましたわ。時間、とは……まさか、マサトの禁呪がッ!?


「それもあるけど……お迎えご苦労サ、マッ!」


 バフォメットがそう口にした直後。ルイナ川から爆破が起きましたわ。それが水中から何かが現れたのだと、嫌でも気づかされました。何故なら、


「グオオオオオオオオオッ!!!」


 黒く、縦に長い円柱状のそれは見上げる程の大きさで、巨大な船にも、そして孤島にも見えます。至る所に窓がついてはいますが、上部には目と口にも見える箇所があり、ゆっくりと口のような部分を開くと、まるで生きているかのような咆哮を上げています。


「そ、し、て……こっちも終わりねぇ……」


「…………」


『ま、マサトッ!』


「マサト~ッ!」


 突如現れたそれに気を取られていたら、オトハとウルリーカが叫びました。その言葉に急いで目をやると、ピクリとも動かなくなったマサトがおりました。胸元の水晶の中身全てが、黒い炎で満たされており、バフォメットがそれをゆっくりと手に取ります。


 ま、まさ、か…………ッ!?


「遂に、遂に手に入れたわッ! 黒炎のオドッ! 地獄の業火の力をこのアタシ、バフォメットが手に入れたのよォォォッ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


「「おめでとうございます、バフォメット様」」


 水晶を手に高笑いしているバフォメットを、双子の悪魔が讃えています。しかし、そんなことはどうでも良いのですわ。オドが全て抜き取られてしまったのであれば、マサトは……マサトはッ!?


「んじゃ、もうこの子も要らないわ。返してあ、げ、る」


 バフォメットはそう言うと、マサトの身体をヒョイっと担ぎ上げ、こちらへ投げて寄越しました。投げられた彼の身体が二回程、地面で転がって、わたくしの目の前に倒れます。


「マサトッ!」


『マサトッ!』


「マサト~ッ!」


「兄弟ッ!」


「兄さんッ!」


「マサト様ッ!」


 全員が、彼の周りに集まりましたが、魔族と化した彼の身体は、既に温かみを失いつつあります。胸に手を当てると、心臓の音も弱まっていきつつあり、彼が死に向かっているのがありありと解ってしまいましたわ。


「な、何とかならないのですか、イルマッ!?」


「お、オドが身体から抜き取られているなんて聞いたことがないのでございますッ! い、一体どうしたら……?」


『ッ!?』


 イルマに妙案がないかと聞いてみましたが、彼女も専門外である様子。どうしようとあたふたし始めたその時、オトハがマサトの胸に手を当てました。


「お、オトちゃん、何を……ッ!?」


『マサトに、わたしのオドをッ!』


 オトハの手が淡く光り出し、マサトへと移っていきます。それで彼の様子が戻れば良かったのですが……一向に彼の顔色が戻りません。


『だ、駄目……全然、全然足りない……違う、間に合わないのッ!? お願いみんな、手伝ってッ!』


「わかりましたわッ!」


「おうよッ!」


「待ってろや兄さんッ!」


「了解しましたでございますッ!」


「わかったッ! 具体的にどうしたら良いの、オトちゃんッ!?」


『まず魔法を使う要領で……』


「……あ~ら。アタシの事はもう無視なのか、し、ら?」


 みんなしてオトハの言葉に耳を傾けたその時。冷たい声が響き渡り、まるで冷水をかけられたかのような心地がしました。


 顔を上げてみると、黒炎の入った水晶を片手にしたバフォメットが、いつの間にか水面から現れたあれの上に乗って、こちらを見てニヤ~っと笑っています。


「せっかだ、か、ら。黒炎の試運転に付き合ってちょ~だいな。アタシも使うの、初めてなのよねぇ……」


 そう言ったバフォメットは空いている方の手を真っ直ぐとこちらに向け、片頬を吊り上げて笑いながら、魔法の呪文を唱えました。かつて魔族と化したマサトが使っていた、あの魔法を。


「……"黒炎弾(B.F.カノン)"」


 直後。水晶が黒く光り、バフォメットの手から漆黒の炎が放たれました。それは寸分の狂いもなく、わたくし達の元へと飛んできています。


 だ、駄目ですわ。このタイミングでは、防御魔法も回避も……。


「クッソ、ぶった斬ってやらァッ!!!」


「野蛮人ッ!」


 全員の前に立ったのは、野蛮人。飛んでくる黒い炎の塊に向かって、上段で構えた剣を振り下ろします。


「"断魔一閃"ッ!!!」


 魔力を帯びた彼の剣が黒炎とぶつかりましたが、


「グアアアアッ!?」


「ノッポォォォッ!!!」


 それを斬り裂く事はなく、彼は黒炎に飲まれました。変態ドワーフの叫びの中、身体を燃やされた野蛮人が膝から崩れ落ちます。


「クッ……ああああ……ッ!」


「ノッポッ!」


「エドワル様ッ!? しっかりしてくださいでございますッ!」


「ク、ソォォォ……ッ!」


「……う~ん、まだ威力が出ないわねぇ。消し炭にするつもりだったのに、ぜ~んぜんじゃないのぉ」


 変態ドワーフとイルマが彼を抱き起こす中、つまらなさそうにそう呟いているバフォメットです。野蛮人の意識は途切れたみたいですが、イルマ達の様子からまだ大丈夫なのでしょう。


『お願い、マサト……目を、開けてよ……ッ!』


「こんなとこで勝手に死ぬなんて、ボクは絶対に許さないよッ! 起きて、起きてよマサトッ!」


「しっかりなさいまし、マサトッ!」


 そしてわたくし達は、オトハの助言通りにマサトに自身のオドを分け与えます。しかし彼が回復していく様子がありません。


「……んじゃ、次はこうして見ようか、し、ら」


 わたくし達の必死の様子を気にもとめないまま、バフォメットが再度口を開いていました。


「これならそこそこ威力も出るんじゃな~い? "黒炎弾(B.F.カノン)"、"二連星ダブルス"」


 放たれたのは、二発の黒炎の塊。二つの黒い炎は同時にこちらへと向かってきています。今度こそ、もう、終わりで……。


「……"分割領域スプリット"」


 しかしそれは、わたくし達の前に現れたスキンヘッドの男性によって、散らされる事になりました。


 貴方、は……。

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