双子を超えた後には
「お嬢様の為にも、ワタシも全力で頑張るのでございますッ!」
イルマが声を上げました。彼女の運転によって荷車を引く竜達を適度に叱咤し、先を走る竜車との差を少しずつ詰めていっております。
「"炎弾"ッ!」
「させっかよッ! "断魔一閃"ッ!!!」
向こうのメイが放ってくる魔法は野蛮人が斬り払い、
「早く潰れて欲しいよね、レイ……"炎弾"」
「"渾身"ッ!!!」
落石等の各種の妨害は変態ドワーフが打ち払います。
『"光弾"、"操作"ッ!』
「"炎弾"、"操作"ッ!」
「"守護壁"ッ! ……キリがないね、メイ」
もちろん守っているばかりだけではなく、オトハとウルリーカによって相手にも魔法を撃って牽制しておりますわ。そろそろ、わたくしも彼女らに加勢した方が良いでしょうか。
まだ何か来るかもしれないと構えておりましたが、相手にこれ以上の手がないのであればわたくしも魔法で……。
「……そうだ。あれやろうよ、メイ」
「……そうね、あれやろうか、レイ。"眷族召喚"」
しかし次にメイは、また違う魔法を展開してきました。魔法陣から現れるのは、牙、角、翼、蹄、尻尾を持った全身が紫色の悪魔です。あれは、一体……?
「あ、あれは……悪魔族が自身の魔力を使って分身を作る魔法でございますッ!」
それをみたイルマが叫びました。魔力を使って自分自身の分身を作る魔法、ですか。つまり、現れたあの魔族は、あのメイの力を持っているということですわ。
「行きなさい、アルファデーモン」
「シャーッ!!!」
アルファデーモンと呼ばれたそれは、メイの一言で翼をはためかせ、こちらへと向かってきました。その手にある長い爪で、こちらに向かって襲い掛かってきます。
「クッソッ! 俺が相手してや……」
「チャンスだねレイ、"炎弾"ッ!」
『エド君、お願いッ!』
「チィッ! "断魔一閃"ッ!」
迎え撃とうとした野蛮人ですが、飛んでくる魔法を斬り払わなければならず、対処に回れません。
「ハァ、ハァ、な、なら、ワイが……」
「いえここは、わたくしにお任せをッ!!!」
先ほどの巨石を相手にするのに体力を使ってしまった変態ドワーフの前に、わたくしが立ちましたわ。イルマは運転に集中しなければなりませんし、今あのアルファデーモンの相手ができるのは……。
「シャーッ!!!」
「ハァァァアアアアアアアアアッ!!!」
わたくししかおりませんでしてよッ! 長い爪をこちらに振るってきたアルファデーモンに対して、わたくしは細長い刀身を持つ剣を鞘から抜き、打ち合いました。鍔の部分に金色の魔法石が埋め込まれている、イルマが資料等と一緒に持ってきてくださったわたくしの……お父様の剣ですわッ!
「ケケケッ!」
しかし、アルファデーモンは打ち合いを続けず、翼で一度距離を取っていきます。ヒットアンドアウェイですわね。
「"炎弾"ッ!!!」
「ケケーッ!!!」
空中を逃げ回るアルファデーモンに向けてわたくしも魔法を放ちますが、ちょこまかと動く所為で狙いが定まりませんわ。
「ハァ、ハァ……つ、使いすぎた、かな……あ、頭が……」
『む、無理しないでウルちゃんッ! "操作"はオドやマナの配分が難しいから……』
「ま、まだまだこれから……ッ」
「ケケーッ!!!」
「な……ッ!?」
かといって、オトハ達と同じく"操作"等を使えば、たちまちこちらへと向かってくるでしょう。このように。
「させませんわッ!!!」
息が切れて座り込んだウルリーカを狙ってきたアルファデーモンに、わたくしは割り込む形で爪の一撃を防ぎます。アルファデーモンは防がれると、また少し離れた空中でこちらを伺いながら浮遊し始めました。
「あ、ありがとうマギーちゃん」
「いえ、ウルリーカも無理はしないでくださいましッ!」
彼女らが邪魔なく魔法で前を走る竜車を狙う為にも、わたくしは安易に動けなくなる魔法を使えません。全く、忌々しいこと。
(……こちらに来た瞬間に仕留めるか、魔法で撃ち落とすしかありませんわ)
しかし、下手に魔法を連打すれば、わたくしのオドが尽きてしまうかもしれません。そうなれば、先ほどのウルリーカのように疲労感と頭痛が伴い、まともに対峙することもできなくなるでしょう。
「……変わろうか、メイ? 魔法の連打に"眷族召喚"……それにその前やった幻影魔法の疲れも……」
「だ、大丈夫よ、レイ……バフォメット様の為なら、これ、くらい……ッ!」
有り難い事に、相手も余裕がなさそうですわ。あれだけの魔法を展開して、無事で済むとは思っておりませんもの。それに何故か、わたくし達と対峙する前から、疲れていらっしゃったような……?
「……さっさと片づけるわ、レイッ! やりなさい、アルファデーモンッ!」
すると。メイがそう叫んだ瞬間。空中を浮遊していたアルファデーモンが突如として光り出し、
「シャーッ!!!」
その身体を一回り大きく膨らませました。まるで水を得た魚と言わんばかりに勢いを増したそれは、一直線にこちらへと向かってきます。
「来なさいましッ! 人国の英雄が一人娘、マグノリア=ヴィクトリアがお相手致しますわッ!!!」
突撃してきたアルファデーモンを、わたくしは受け止めました。そのまま爪と細剣での打ち合いに発展し、わたくしはお父様の剣技を振るいます。
千日手になるかと思えば、向こうの都合で一気に短期決戦になった今。こちらにとっても望むところですわッ!
「ハァァァアアアアアアアアアッ!!!」
「シャーッ!!!」
爪の連撃を細剣で防ぎますが……この剣、なんと使い勝手が良いものなのでしょうか。流石はお父様の剣ですわ。
「ギャハーッ!!!」
「ク……ッ!?」
振りがぶった相手の一撃を、わたくしは受け止めます。おそらく、いつもの木刀であればへし折られていたであろう衝撃。しかし、腕に幾分かの余波が走ったものの、剣自体は全くの無傷でしたわ。
必要以上に重くなく、魔族の爪の一撃を受けてもビクともしない、非常に取り扱いやすいこの剣。初めての真剣での戦いですが……相手が魔力で構成された分身であるのなら、手加減は不要ですわね。
「"花は風をいなす(パリィ・フレクション)"ッ!!!」
「ギャッ!?」
再び大振りの一撃を見舞ってきたアルファデーモンの一撃を、円を描く形で受け流したわたくしは、無防備となった相手めがけて渾身の突きを放ちました。
「アアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
「くぅ……ッ!?」
アルファデーモンが悲鳴を上げると同時に、分身を操作していたメイの方も苦悶の表情を浮かべています。この隙を……逃しませんわッ!
「ハァァァアアアアアアアアアッ!!!」
狭い荷台では"花はここに散る(フォールアウト)"や"花は岩を穿つ(アパスブロー)"は使えませんが、それでもこのチャンスを逃す訳にはいきません。わたくしはお父様の剣を振るい、アルファデーモンの身体を滅多斬りにして差し上げました。
「これで……トドメですわッ!!!」
「アアアアアアアアアアアアアアァァァ……ッ」
「くあ……ッ!?」
「メイッ!!!」
「げ、幻影魔法の連打でオドを使いすぎてなければ……あんな、子どもなんかに……ッ!」
最後に心臓部分に渾身の一突きを入れました。するとアルファデーモンはだんだん小さくなっていく叫び声を上げながら、その身体を魔力へと戻して霧散させましたわ。それと同時に、向こうの竜車にいたメイが、倒れ込んでいます。
「ッシャァッ! ナイスだぜパツキンッ!」
「すげーッ! お姉さますげーわッ!」
『流石マギーさんッ!』
「マギーちゃん、お見事ッ!」
「流石でございますお嬢様ッ!」
「おーっほっほっほっほッ!!!」
皆さんの声援が心地よいですわーッ! さあ、これで相手の攻撃者を封じることができました。と言うことは。
「さあ、反撃ですわッ! 野蛮人、変態ドワーフッ! わたくし達も一緒に、相手の竜車を狙いますわよーッ!」
「おっしゃあッ!」
「ようやく回復してきたし……やったるでぇッ!」
『みんなお願いッ!』
「ぼ、ボクだってまだまだいけるよ~」
相手の妨害がなくなったという事はつまり、今まで防御に回っていた彼らも攻めに参加できるということですわ。剣を鞘にしまい、全員で頷き合うとわたくし達は魔法陣を展開しました。
「「「「"炎弾"ッ!!!!!」」」」
「でぃ、"守護壁"ッ!!!」
四名が放つ"炎弾"を、残されたレイが防御魔法を展開して防ごうとします。しかし、かかりましわッ!
『"光弾"、"操作"ッ!』
「しま……ッ!?」
レイが気が付いた時には、もう遅いですわ。時間差で展開したオトハの"光弾"が、展開された魔力の壁の横をすり抜けていきます。このまま向こうの竜車に直撃しようとして……。
「……"蒼炎壁"」
直後。青い炎の壁が、それを防ぎましたわ。




