みんなをどう見てる?
「こちら、オードブルになります」
「あ、ありがとうございますわ……」
わたくし達がやってきたのは、ユラヒの温泉街でも有名な高級レストランですわ。
当日予約なんて無理だと思っていましたが、ダメ元で連絡してみたらなんとキャンセルが入ったらしく、入れてもらう事ができました。
ただし、料理のコースは決められてしまいましたが、そこは大丈夫でしょう。
「……人間の作法には、そこまで詳しくはないのだが……」
「だ、大丈夫ですわッ!」
しかし席につき、料理が運ばれ始めた辺りで、彼がそう口にします。それはそうでしょう。
魔国という違う国の出身の方。わたくしも全てを知っている訳ではありませんが、礼儀作法にも違いがあって当然ですもの。
「出された順に食べていただければ、特に失礼はありません……あっ! な、何か苦手なものなどありましたでしょうかッ!?」
話している途中で、わたくしはハッとしました。思わずその場で立ち上がってしまいます。
しまった、この方の嫌いなものや食べ物アレルギー等を伺っていませんでした。
事前に連絡しておけばお店も対応してくれたのでしょうが、これはわたくしの確認不足です。
もし苦手な物等があって、嫌な思いをさせてしまったとしたら……。
「……いや。特に嫌いなものはない。すまない、私も事前に言っておけば良かったか」
「い、いいえそんなことッ! わた、わたくしが確認しておけば良かっただけの話でして……」
「気遣いはありがたいが、席について、少し静かにしよう。元気なのは良い事だが、あまり声を出すと周りにも迷惑がかかる」
彼にそう言われて、自分が思った以上に声が大きかった事に気がついたわたくしは、周囲を見渡してみました。
他のお客様達がこちらをチラリと見ているのが解ります。
「も、申し訳ございません、でしたわ……」
「いや。気にかけてくれたのは知っている。その気持ちは、ちゃんと解っているとも」
顔を赤くしつつゆっくり席についたわたくしに、彼は優しく声をかけてくださいましたわ。
やらかしてしまったこちらをフォローまでしていただき、恥ずかしさで顔を上げられませんわ……。
「あー、その……お前の友人らは、どんな人物なのだ?」
そのまま静かに食事をしていた際に、不意に、彼が口を開きました。
「友人、ですか……?」
「ああ。お前がどんな人間に囲まれているのか、興味がある……話したくないのであれば、別に構わんが……」
彼が、気持ちの落ちてしまったわたくしを気遣ってくれたのだと。話しやすい話題を探してくれたのだと言う事が、何となく解りました。
そうですよね。せっかくのデートですもの。こちらから誘っておいて沈んでいては、申し訳がありませんわ。
「……そうですね。では少し、お話させていただきます。わたくしの周りの、皆さんのお話を」
「ああ、頼む」
そうして、わたくしは普段接している皆さんについて、話し始めました。
・
・
・
「……まずは同性の友人からでしょうか。わたくしは人国の士官学校に通っておりますが、その女子寮で一緒なのが、オトハというエルフの女の子ですわ」
良かったー。マギーさん、何とか調子を取り戻してくれたみたいです。私は内心で安堵しました。
嫌いなもの等を聞き忘れていたと気付いた時の彼女は、まるでこの世の終わりかのような顔をされていましたので。
まあ、アレルギーとかあったら大変ですし、誘った方で気が利かなかったと言えばそうですが、何もそこまで落ち込まなくても……と私の方が焦ってしまいました。
何とか話題をと脳みそに汗をかいて捻り出したのが、私達についての話題でした。
私に至っては当人なのですが、一応今は魔王と言う立ち位置。知らない体で話を聞いていきましょう。
それに、マギーさんが私達の事をどう思っているのか、それもちょっと気になります。
「彼女については、まあ、色々ありまして……言葉を話すことができませんわ。それでも、彼女は素敵な方です。それは決して、見た目とかだけではありません」
オトハさんの背景については、あまり人には言えませんよね。私はまあ、当事者なので知っていますが。
「彼女は頭が良く、魔法の腕も立ちます。更には世話好きで、掃除に洗濯、炊事と……おおよそ家事全般が得意な女の子です。わたくしのお嫁さんに欲しいくらいですわ」
「ふふ……」
思わず、私は笑ってしまいました。確かに、オトハさんがお嫁さんなら、色々と甲斐甲斐しくお世話してくれそうですもんね。
なんか、それに甘えてしまうと、駄目人間になってしまいそうな気もしますが。
「つ、次に! ウルリーカですわ!」
私が笑った事がマギーさんも嬉しかったのか、先ほどよりも嬉しそうな顔で話を続けます。




