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弁解をさせてください


(な、な、なんでこんな時に限って、勘の良いマギーさんがッ!?)


 私の内心での動揺が止まりません。以前見つかった事も合わせて、更に動揺が倍プッシュ。今なら冷や汗もセットでついてきます。わーお得だー。


(も、も、もう見つかる訳にはいかない……ッ!)


 冗談は置いておいて、心の中で私はそう決心します。何故かって? 次に見つかったらキチンと誤魔化せる気がしないからです。


 前はまだ体調も大丈夫だったので、さっさと逃げることができましたが、今は呪いの進行で身動きも怪しい状況。


 こんな時に見つかってしまえば、そりゃあもう面倒なことになりますよね、絶対。


(幸いここは茂みの奥の木の向こう側。よっぽどの事がなければ、そう簡単には見にこないでしょう。息を潜めてやり過ごせれば……)


「……全く、マサトにも困ったことですこと」


 そう思っていたらマギーさんが何やら話し始めたので、聞き耳を立てます。


「わたくしの勘からは逃げられませんことよ!? さあ! 何処に隠れたかは知りませんが、見つけてみせますわッ!」


(あの人かくれんぼか何かと勘違いしてませんかッ!?)


 何故か張り切り出したマギーさんの声を聞いて、不穏指数が鰻登りです。どうしてやる気を出しているんでしょうかあの人は。


 的中率の半端ない勘まで使おうとしていますが、まあ、所詮は勘ですからね。


 誰かが何処にいるなんてことが早々に解ってたまるもんですか。大丈夫に決まっています。


「ふむ……こっちですわねッ!」


(一直線にこっちに向かってるーッ!?)


 不味い不味い不味い不味い。マギーさんが迷いない足取りで、こちらにズンズンと歩いてきています。


 何で解るのッ!? 何なのこの人ッ!?


 い、いやまだ解りません。諦めなければ、思わぬ道が見つかる筈。


 意外と手前くらいで引き返してくれたりする可能性も微粒子レベルで存在するかも……。


「ここですわねマサ……あ、貴方はッ!?」


 ありませんでした、そんな可能性は。見つからない未来なんて無かったんだ。あはは、どうしましょう。


「な、何故貴方がこんな所に……い、いえ、それよりも! お、お身体が悪そうですが……」


「……お前か。気にするな。少し、気分が悪いだけだ……」


 咄嗟にこの前出した低い声色で適当ぶっこけたのは、自分でも褒めてあげたいくらいです。


 まあ、気分が悪いのは事実ですし。


「い、いけませんわそんなの! だ、誰かを呼んでこないと……」


「ッ!?」


 私は踵を返そうとしたマギーさんの手を取りました。


 誰かを呼んでくるとか冗談じゃありません。巻き込む人を増やさない為にも、この姿をこれ以上他の人に見られる訳にはいかないのです。


 手を取られたマギーさんが、驚きの表情でこちらを見ていました。


「……すまん。気持ちは嬉しいが、あまり人間に見られたくはないのだ。解るだろう?」


「ま、まあ、その、そう、ですわよね……」


 段々声が小さくなっていくマギーさん。本当に解ってもらえているのでしょうか。顔も真っ赤になっていますが。


「……何、少し経ったら落ち着く。今は、そっとしておいてくれ」


「わ、わかりましたわ」


 とりあえず、誰かを呼ばれに行かないことが決まったっぽいので、私は掴んでいた手を離しました。「あっ……」っとマギーさんが、何やら声を上げます。


「……どうかしたか?」


「い、いえ! な、な、なんでもありませんわッ!」


 何故か動揺しているマギーさんに、そうか、とお返事しました。


 よし、ここまでは大丈夫そうですね。後はこのままマギーさんがいなくなってくれれば……。


「…………」


「…………」


 あれれー、おかしいぞー。どうしてマギーさんはここを動こうとしないのでしょうか。


 彼女はモジモジしながら時折りチラリとこちらを見ているのですが、早くどこかに行ってくれませんかね。


「……どうした? 私なら大丈夫だ。友人を探していたのではないのか?」


「ッ! え、えっと、その、あの……」


 堪らず声をかけてみたら、上ずったような返事が返ってきました。


 しかし不思議ですね。この姿でいる時のマギーさん、なんかいつもと違います。どうしてでしょうか。


「あ、あの、その……こ、今夜空いてませんことッ!?」


「は?」


 唐突なマギーさんのお言葉に、思わず素で聞き返してしまいました。


 私は慌てて咳払いをすると、再度、彼女に言葉の意味を聞き返してみます。


「……何を言っている?」


「い、いえ、その! も、もしですわ! もしご体調が良くなって、今晩お暇なのであれば……わ、わ、わ、わ……」


「わ?」


 そして次の言葉に、私は声を失くしてしまいました。


「わ、わ……わたくしとデートしていただけませんことッ!?」


「        」


 うん。脳みそが理解を放棄した気がします。もう一度、言葉を頭に入れて、再度理解に努めましょう。


 えっーと、マギーさんは今私に向かって、今日の夜デートしてくれ、と言いました。


 うん、間違ってない。いや、むしろ間違ってて欲しい。


「は……ッ」


 予想外過ぎるその提案に危うく素っ頓狂な声を出しかけましたが、私は意地でそれを飲み込みます。


「……何の、冗談だ?」


「じ、冗談なんかじゃありませんわッ!!!」


 改めて聞き返してみましたが、マギーさんから本気だというリターンエースをもらいました。冗談であって欲しかったです。


「で、で、デートと言うと大袈裟かもしれませんが、わわわわたくしはそんな軽い気持ちでお誘いした訳ではありませんでしてよッ!」


「……じゃあ何だと言うのだ。私が誰か、知らない訳ではあるまい」


「そ、そんなことは存じておりますわッ!」


 知ってるのかー、そうかー、どうして人国の英雄の娘であるマギーさんが敵対している敵国の長の魔王をデートに誘ってくるんだろー、私わかんなーい。


「わ、わたくしはただ! あ、あ、貴方との理解を深めたいだけなのです! 貴方は以前、人間を憎んでいる訳ではないとおっしゃいましたわよねッ!?」


 確かそんなことを言った気もします。


「わたくしあのお話を聞いて……少し、考え直しましたの。人間と……そして魔族の事を」


 そうなのですか。


「それで、その……いがみ合うだけではなく、他の道も探せるのではないかと……思いまして……だ、だから!」


 そう口にしたマギーさんは、真剣な表情でこちらを見てきます。その視線が、目から離せません。


「貴方様と、キチンとお話したいのですわ! 時刻は夕刻の鐘が鳴る時。こちらの滝へ至る登り道の入り口でお待ちしておりま……」


 マギーさんがそこまで話した時にいきなり、フッと上を向いたかと思うと、彼女は意識を失いました。


 倒れそうになる彼女を支える影が、後ろから現れます。


 それはマギーさんを片腕で支えつつ、もう片方の手に飲み物を持っているオーメンさんでした。


「……何でマギーちゃんがいるんだい? そして何でお話してたんだい? マサト君」


「……弁解をさせてください」


 なんか怒ってる感じに見えるオーメンさんですが、今回についても私に非があるとは思えないのです。


 なのでまずは話を聞いてくださいお願いします。

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