同期との語らい
「お疲れ様であります、ベルゲン殿ッ!」
「おや、ノルシュタインさん。もう大丈夫なのですか?」
「はい! よく寝たので元気なのであります!」
先ほどの飛球大会の後、全員で夕食を食べる大部屋に行き、そのまま宴会となった。
大人達は酒を飲み交わし、子ども達は酒モドキを飲み交わして、どんちゃん騒ぎとなった。
その際に元々お酒にあまり強くないノルシュタインは、マサト達からのお酌もあっていつも以上に呑んでしまい、早々に寝入っていたのだ。
飲ませすぎたかとマサト達がオロオロしていたが、ベルゲンは「この人はいつもこんな感じなので、気にしなくて良いですよ」とフォローを入れていた。
現在は宴会が終わって死屍累々。そこら中に食べかけの料理やコップが転がり、酒モドキを飲みすぎた子ども達は雑魚寝をしており、他の大人達は気分を変えるためお風呂に向かっていた。
今起きて部屋に残っているのは、ベルゲンとノルシュタインだけである。
「……と言うか、子ども達も寝ているのですよ。ちゃんと"無音"はかけましたか?」
「はい! 私が話すと何故か皆さん起きてしまうらしいので、その辺りは抜かり無いのであります!」
以前、"無音"をかけ忘れて上司にうるさいと怒鳴られた経験があるためか、ノルシュタインはしっかりと音が漏れない魔法を使っていたみたいだ。
本当に原因が解っているのかと少し首を傾げたベルゲンだったが、まあこの人はこれでいいだろうと思い直し、呑んでいたお酒の瓶をノルシュタインの方に向ける。
「流石ですね。では、こちらのお酒はいかがですか? この地方の名産らしいですよ」
「ありがたく頂くのであります!」
そうしてお酒をお猪口に注いでもらったノルシュタインが返杯をし、二人は小さく乾杯をした。
口当たりのよいお酒が喉を通っていくのを感じた後、ノルシュタインはおもむろに口を開く。
「……ベルゲン殿! このまま、という訳にはいかないでありますか!?」
「……このまま、とは?」
それを聞いたベルゲンは、少し間を空けた後に、そう聞き返す。彼には内容が何となく、解っていたが、それでも聞き返さずにはいられなかった。
「現状の停戦の状況であります! 現在我が人国は、戦争後の再建で武器や人員等も不足しており、再度戦いに臨めるような状態ではありません! 更に、戦争が終わったことで、国民達も復興に注力している時期であります!」
「…………」
ノルシュタインの言葉を、ベルゲンは時折お酒を口につけながら、静かに聞いている。
「そして、先の戦いで私たちは同期を含め、多くのものを失ったのであります! しかし! 新たに得たものもありました! 私はそれが、この宴会であったと思います!」
「……この宴会、ですか」
「はい! この宴会、ひいてはあそこで寝ている子ども達であります!」
視線を雑魚寝している子ども達に向けたノルシュタインに合わせて、ベルゲンも目をやった。
そこには酒モドキをたらふく呑んで爆睡しているマサト、オトハ、マグノリア、エドワル、ウルリーカ、シマオの姿がある。
「……彼らは人間、エルフ、ドワーフ、そして魔族と人間のハーフの子であります! 他種族であるにも関わらず、彼らの間には友情のようなものが芽生えております! それは今日の飛球大会や宴会でも、良く解ったと思うのであります!」
「…………」
ベルゲンはノルシュタインの言葉を聞きながら、一人一人に目をやった。人間、エルフ、ドワーフ。そして、魔族と人間のハーフ。
「私が今後目指すべき姿は、このような光景が当たり前のように広がっていることだと考えております! いがみ合うことを終え、解り合い、手を取り合い、そしてこうして一緒になって笑い合う! そんな未来を望む私は、間違っているのでしょうか!?」
「…………」
その問いかけに、ベルゲンは答えない。
「私はベルゲン殿が協力してくだされば! 目の前に広がるような光景を作り出せていけると信じております! 私は本気なのであります! ベルゲン殿! どうか今一度……」
「……全く。貴方という人は、本当に……」
勢いを落とさないままに話し続け、遂には頭を垂れ始めたノルシュタインを、ベルゲンは静かな声で遮った。
この男は本当に、真っ直ぐな男だ。自分が信じる道を何処までも進み続け、その為に頭を下げることを厭わない。本当に、自分にとっては、眩しすぎる人間だと、ベルゲンは思った。
「……この私をここまでド直球に勧誘してくる方なんて、貴方くらいのものですよ、ノルシュタインさん。本当、昔から変わらない方だ……」
再度、お猪口に口をつけてお酒を飲みつつ、ベルゲンはため息をついた。
互いに裏をかき合い、それぞれの思惑通りに事を進めていくのかと思いきや、ここに来て協力しようというのだ。
確かに、とベルゲンは思った。この真っ直ぐな男と協力することができれば、事は本当に簡単に進んでいくのだろう。
人国陸軍内でも屈指の行動力を持つノルシュタインを表に出して進めさせ、足りない部分を自分が補う。それができれば、もしかしたら敵なしなのかもしれない。
戦意だけが非常に高い人国王も、停滞するばかりのエルフ族も、今を楽しみ、先を見据えているのかも怪しいドワーフ族も。
それこそ敵対関係の魔族でさえ、怯むことなく渡り合っていくことができるだろう。
「……でも駄目ですよ、ノルシュタインさん」




