誘ってくれたのは
「……おい、この店とかいーんじゃねーか?」
「……おおおっ。コスプレありか。ええのう」
私が回想から帰ってくると、窓の外の景色には目もくれず、隅っこの方でこっそりと紙の切れ端を見ながら話している男子二人がいました。
片方は兄貴ことエドワル。赤い短髪と目をランランに輝かせながら、手に持つ切れ端を見入っています。
その隣にいるのがシマオ。小さい背丈とすんぐりした体型を持つ、ドワーフという種族の男性です。
さて。では、私もそちらに合流しなければ。
「……どうですか? 良さそうなものは見つかりましたか?」
「……おお、兄弟よ。オメーにピッタリなとこあったぜ」
「……せやせや。この店っすよ兄さん」
「……おおおっ、これは……ッ!」
私たちがこっそりと見ているのは、風紀を乱す俗な欲望についてまとめられている雑誌。ぶっちゃけて言うと風俗情報誌の切れ端です。
何故なら、今から行くユラヒという街は温泉街として有名である一方、夜の街としても有名だからです。これは一人の漢として見過ごせません。
事前にその情報を掴んだ私たちは、同級生である金髪でそばかすを持ったM氏に兄貴コレクションの一部を贈呈することで、この切れ端を手に入れることに成功しました。
戦の前に、情報を手に入れることは必須ですからね。あれは必要経費でした。お渡しした『突撃! 素人50連発!』が無くなってしまったのは少し惜しかったですが。
この為に日雇いバイトを増やして、軍資金も調達してきたのです。後は情報を精査して、どこのお店で肌色を楽しむかだけ……。
「……先ほどから男性陣は、なんのチラシを見ているのでございますか?」
「「「うおわぁあおッ!!!」」」
私たちが密談をしていると、不意に何処か丁寧語を間違えたような声をかけられました。
背中で切れ端を隠すようにして振り向くと、そこには、マギーさんの家に仕えるメイドのイルマさんがいました。
ピンク色の髪の毛を揺らしてかけているメガネを直しながら、こちらを不思議そうに見ています。
「ななななんでもありませんよッ! ねえ二人ともッ!?」
「そそそそうだなッ! なんでもねーよなぁッ!?」
「ななななーんもあらへんでッ! ワイら観光パンフレット見てただけやし! マジでッ!」
「? そうなのでございますか?」
声が上ずっているような気もしますが、ええ、何でもありませんとも。シマオの言う観光パンフレットというのも、広義で見れば間違いありませんし。
「承知いたしましたでございます。今回の旅行は、観光地も多いでございますからね。しかしエドワル様、困ったことがありましたら、ちゃんとママに言うのでございますよ?」
「まだ続いてたんかその設定はァッ!?」
あと何故か、イルマさんは兄貴がお気に入りみたいで、お母さんプレイをしたがっています。
以前、何故兄貴がお気に入りなのかを聞いてみたところ、「ああいう勝ち気な男の子をドロドロの甘々にとかして、ママー、ママーと可愛くすり寄ってくる男の子にしてみたいのでございます」と曇り無き綺麗な瞳でそうおっしゃっていましたので、私は華麗に理解を放棄しました。はい、人の趣味に口出しはしませんとも。
そしてイルマさんがおっしゃっていましたが、私たちは全員揃って連休を利用し、秘境の温泉街ユラヒに旅行に行くことになりました。
以前、夏祭りのイベントで勝ち取って女性陣にプレゼントした温泉旅行券に加えて、私たち男性陣、そしてイルマさんも入っています。
それと言うのも、私たちをこの旅行に混ぜてくださった方がいるからです。竜車の室内にいるのはこの七人なのですが、竜車の運転をしてくれている御者の方ともう一人。
私はその方に声をかけました。
「えーっと、バフォさん。今回は私たちまでお誘いいただきまして、ありがとうございました」
私は切れ端を隠しながら、竜車の運転席の隣にいる人に呼びかけました。
「あんらぁ! お礼なんていっぱいもらったって言うのに、まだくれるのかしら? ホント可愛い子ねぇ」
そうして振り返ったのは、綺麗に整えられたヒゲを持っている長身の男性、バフォさんでした。
この方はシマオの実家で、彼のお父さんと一緒に住んでいる方なのですが。
「顔立ちも将来有望そうだし……どうかしら? アタシと一緒に新しい世界に踏み入れてみ、な、い?」
「え、遠慮しておきます……」
どうも、その、バフォさんは同性である男性が好きな方みたいです。元の世界と比べて、こちらの世界では割と同性愛に対しても寛容みたいなので、皆さんそこまで気にしていないみたいなのですが。
自分がどうかと誘われると、その、私はどちらかというと女性の方が好みなので……。
「んもう、い、け、ず。それに何度も言ったけど、お礼なんて良いのよ。たまたま仕事の飲み会で当たった旅行券を、シマオちゃんに渡しただけなんだから」
そうです。このバフォさんが旅行券を手に入れてきてくれ、それをシマオにプレゼントしてくれたのです。
旅行券の使用期限的にも、オトハさん達と一緒に行けるものでしたので、それならとご一緒させてもらうことになりました。
「でも良かったの? みんなで楽しい中にアタシなんかが混ざっちゃって。何せ今日初めて会ったばかりでしょ?」
「な、なーにゆーとるんやバフォさん!」
その言葉に反応したのは、シマオです。




