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何とかしなくちゃ


「……対象が通う士官学校が、あれか……」


 遠巻きにマサト達が通う南士官学校を見ている魔狼、カラキ。


 人国軍の拘束から逃れた彼は、たった一人で目標を確保しようと、躍起になっていた。


「……だが、目標には人国軍の監視がついていた。もしや、既にこちらの内情が知られているのか……? いや、それにしては人国内が静か過ぎる……となると、あの時の人国軍は一体何故……?」


 士官学校の裏手にある山の雑木林にて、彼は考え込む。敵の状況を想定し、予測を立てることは大事だ。


 向こうの状況をある程度予想できれば、自ずとこちらが取るべき手段も見えてくる。


 そんな風に考え込む彼の背後には、一人の男が迫っていた。


 物音を立てず、ゆっくりと思考に没頭する彼に近づいていき、そして。


「……ッ」


 振り上げた拳を彼に叩き込もうとしたその時。


「甘めーよ」


「な……ッ!」


 まるでその動きが見えていたかのようにカラキは振り返り、その拳を腕で受け止めて見せた。


 そのまま連続して、反対の拳で反撃を入れる。


「グハ……ッ!」


「……同じ手が通用するおれだとでも思ったか。甘めーよ」


 殴られて身を引いたのは、オーメンだった。


 ボディに入れられた一撃を片手でさすりつつ、再度カラキへと視線を向ける。


「……よく気付いたな。前はこの一撃で終わりだったのによ」


「前は前だ。以前はよくもやってくれたな」


「ワリーが謝りはしねーぜ? これも任務の内でな」


「そうか。おれも別に謝ってもらおうとは思っていない。おれはただ……」


 そう言いつつ、カラキは手を真っ直ぐ前に伸ばした。オーメンは何かを察し、咄嗟に動き出す。


「やられたこと、そしてアラキのお返しをするだけだ! "炎弾ファイアーカノン"ッ!」


「チィ……ッ!」


 先に動けていた為に直撃することはなかったが、彼の元いた場所に炎の塊が直撃し、爆発する。


「逃がすかッ! "炎弾ファイアーカノン"ッ!」


「"守護壁ディフェンスウォール"ッ!」


 次の動きの先目掛けて撃たれた炎は避けられないと思い、オーメンは防御魔法を展開する。


 魔力で構成された壁が立ち、炎の塊を防いだ。


「やるな人国軍ッ! だがおれもやられる訳にはいかないんだよッ! "体質強化アップグレード"ッ!」


 するとカラキが魔法を唱え、その身体が淡い光に包まれた。その直後から、彼の動きが加速する。


 速さに任せるまま、彼は一気にオーメンへと肉薄して行った。それを見たオーメンが舌を打つ。


「チィ! 魔狼族特有の身体強化も使えんのかよッ!」


「おれはこー見えて才能があるんだよ」


 そのまま白兵戦へと突入する。互いに獲物は持たず、拳と拳での肉弾戦だ。


 殴り、防ぎ、反撃しと殴る蹴るの応酬が続くが、それは徐々に、カラキの優勢へと傾いていった。直前に発動された強化魔法が、彼の攻めを後押ししている。


「クソ……ッ! これだから魔狼族は……ッ!」


「非力な人間め……これで終いだッ!」


 いつの間にか守り一辺倒になってしまったオーメンに対し、カラキは飛び上がって蹴りを放つ。


 自分を守るように両腕でそれを受け止めたオーメンだったが、その勢いに耐える事ができず、身体ごと吹っ飛ばされた。


「ガハ……ッ!」


 そのまま近くに生えていた木の一本に背中から激突し、苦悶の声を上げる。


 後頭部までも強かに打ちつけた所為か、彼は意識を失った。


「トドメだッ!」


 そんなオーメンにカラキが迫ろうとしたその瞬間、


「"炎弾ファイアーカノン"ッ!」


「な……ッ!」


 彼の視界外から魔法が飛んできた。全く予見していなかった彼は、それをモロに喰らってしまう。


「ぐああああッ!」


「ウチの旦那に何してんのよアンタッ!」


 現れたのはアイリスだった。意識のないオーメンを見て、顔に憤怒の感情を露わにしている。


「く、クソ……まだいやがったのか……ッ!」


 一方でカラキは、"炎弾"の直撃を受けてフラついていた。幸い身につけているものに引火はしなかったが、受けた衝撃で視界がイマイチ定まらず、ぼんやりとしか周囲を把握できない。


「落とし前をつけさせてもらうわッ! 大人しくしなさいッ!」


「さ、させるかッ! "炎弾ファイアーカノン"ッ!」


 そんなアイリスの警告に対して、カラキは魔法を放った。それは彼女とは全く違う方に飛んだが。


「ッ! さ、させないわッ! "守護壁ディフェンスウォール"ッ!」


 アイリスは急いで防御魔法を唱えた。炎の塊は、動けなくなったオーメンへと飛んで行っていたからだ。


 倒れている彼に直撃する前に魔法の展開が間に合い、魔力の壁が炎を受け止める。


「っぶなかった……あ、アイツはッ!?」


 安心したのも束の間、アイリスが周囲を見渡した時には、カラキの姿は消えていた。


「に、逃しちゃった……そうだ! オーメン、オーメンッ!」


 まだ周囲にいるかもしれないという考えもあったが、それ以上に倒れている自分の夫が心配であった。


 彼女は彼の元へ行って抱き起すと、脈等で身体の状態を確認する。パッと見た限り、死んではいなさそうだった。


「……まだ、死んではいないわね。良かった……全く。一人で突っ込むからそんなことになるのよ、このバカは……私より先に死ぬなんて許さないわ……でも」


 遠話石で応援を呼ぶと、彼女は深刻な面持ちとなった。懸念されることはもちろん、逃してしまったカラキの事だ。


「あの魔狼……せっかく逃げたのに、仲間と合流しようとしていなかったわね……一体何故?」


 通常、捕らえられていたところから脱出できたのであれば、まず他の仲間と合流しようとするのが鉄板だ。にも関わらず、あの魔狼は単身でうろついていた。


 それが逃げた本人の性格が故に、という事が解らない為に、彼女の思考はドツボにハマる。


「……んもう! 明日は各士官学校での体育祭で、ノルシュタインさんもいないってのに! 何で倒れてんのよ、この馬鹿! やられてんじゃないわよ!」


 アイリスは愚痴を吐くと、倒れているオーメンの頭を軽く小突いた。彼女の言う通り、明日は各士官学校にて体育祭が行われる。


 総務部である彼の上司は、来賓として別の学校に呼ばれており、しかもその関係で自分の部署は大忙しだ。


 ただでさえ極秘任務であるが故に人手が足りないと言うのに、ここに来てオーメンの脱落。


 以前は自分が脱落していたこともあったが、だからって交代はないだろうと、彼女は苦く笑った。


「……何とか、しなきゃ……ッ!」


 倒れたオーメンを介抱しながら、アイリスは決意した。今は自分が何とかするしかない、と。

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