練習で痛い
そうして翌日から、通常の時間割の中に体育祭の練習の時間が加わりました。
普段の授業とは違う時間割の為か、皆さん笑顔で体操服に着替え、グラウンドに集まっています。
競技種目は全部で八つ。当日の順番で行くと、障害物リレー、魔法射的戦、二人三脚、騎竜戦、フォークダンス、借り物競争、模擬剣術戦、そして選抜リレーです。
この中から一人当たり三つの種目に出場し、我々白組対赤組で競い合って勝敗を分ける、というものでした。後は応援合戦なんかもありますが、まあこれは全員参加のものなので除外しましょう。
中でも注目なのは、元の世界では聞いたことなかった模擬剣術戦と魔法射的戦でしょうか。
騎竜戦は二人で組んだ上に一人が乗り、その一人がハチマキを奪い合うという、つまり元の世界で言う騎馬戦のことでした。
この世界には馬が居ませんので、そう呼ばれているみたいですね。食べられたり上に乗られたりと、この世界の竜は八面六臂の活躍です。
そして模擬剣術戦は、以前行ったクラス対抗白兵戦の決勝ラウンドのルールと同じで、多人数での予選の後に一対一で互いのハチマキを奪い合う白兵戦です。
対して魔法射的戦は、決められたフィールド内で攻撃側と回避側に分かれ、攻撃側の時に魔法を放ち、逃げ回る回避側の相手にどれだけ当てられるかを競う種目でした。
こちらの世界では割と知られているっぽいのですが、私からしたら初めての競技。
是非参加してみたいと思ったのですが……残念ながら落選しました。
結果私は、二人三脚、フォークダンス、借り物競走に出場する予定です。
まあ、当日までに互いの合意があれば出場種目の交換をしても良いらしいのですが、そこまではしなくても良いかな、と思いました。来年もあるでしょうし。
「じゃ、マサト。二人三脚の練習しよっか!」
「はい、ウルさん」
そう言って笑顔で私の元に来たのは、ウルさんでした。
なんだかんだありましたが、結局私はウルさんと二人三脚に出ることになりました。
パートナーはくじ引きで決めた筈なのですが、何故かウルさんと組むことに。
「へへ~ん、頑張った甲斐があったよ」
ウルさんにまさか一緒になるとは思いませんでしたよ、と言ったらそんな返事をされました。
気になった私が更に話を聞いてみたのですが、彼女曰く、不正はなかった、との事だったので、私はそれ以上の追求を諦めました。多分、何をどう聞いてものらりくらりと躱されそうでしたので。
ちなみに彼女は、障害物リレー、二人三脚、騎竜戦に出場予定です。
「……………………」
「助けて兄さん! オトハちゃんめっちゃ怖い顔しとるんさッ! 魔法もめっちゃ荒ぶってるッ! ヘルプ! ヘルーーープッ!!!」
なお外野から怖い顔でジトーっとした視線を送ってくるオトハさんと、一緒に魔法射的戦の練習をしている筈のシマオの嘆きが聞こえてきている気がします。
向こう側から他の方々の悲鳴も上がっているみたいですが、多分気のせいでしょう。
オトハさんの魔法が荒ぶってエラい事になってる様子なんて見えない見えない。見えなければ、まだ私の中では事実とは確定されませんからね。
なおオトハさんは、魔法射的戦、借り物競走、フォークダンス。シマオは障害物リレー、魔法射的戦、騎竜戦に出る予定です。
「ヌルいですわッ! もっと攻めて来なさいなッ! そんなんで勝てると思ってるんですのッ!?」
「うるっせーなパツキンッ! 今はまだ慣らしだっつってんだろうがッ!」
また別の場所では、兄貴とマギーさんが戦っています。彼らは模擬剣術戦の練習中ですね。
この種目を聞いて彼らが出ない訳がないとは思っていましたが、まあ、案の定でしたね。
兄貴は模擬剣術戦、騎竜戦、選抜リレー。マギーさんは障害物リレー、模擬剣術戦、選抜リレーに出場予定です。
「ってぇッ! やりやがったなこのパツキンがァッ!!!」
「ったあッ! れ、レディーに何するんですのッ!? タダじゃ置きませんわッ!!!」
と言うか、あの二人の打ち込み合いが凄まじく、こちらまで木刀のぶつかる音と彼らの怒号がここまで聞こえてくるのですが、あれ、大丈夫なんでしょうか?
周囲の生徒達もざわついてる様子ですが、白兵戦の鬼である二人のやり合いに割って入る輩はいないのでしょう。
練習と言うか本気の打ち合いに発展してそうですが、まあ、本気でヤバくなったら鬼面先生とかが止めに入ってくれると思います。いつものように。
「……よし、縛れましたね」
「んじゃ、早速やろっか!」
周りの様子を見つつ、私はウルさんの右足と自分の左足をハチマキで縛って合わせました。
これで、二人三脚の用意はバッチリですね。
そのまま立ち上がろうとしたら、足が縛られてる所為で少しよろけてしまいます。
「おっ……と」
「うわっ」
弾みでウルさんにもたれ掛かる感じになってしまいました。彼女の顔の近くに、自分の顔を持っていってしまいます。
あっ、彼女の良い香りが、私の鼻腔をくすぐる……。
「す、すみません……」
「ま、全く。き、気をつけてよ……?」
「~~~~~~~~ッ!!!」
「ギャァァァアアアアアアッ!!!」
私たちのやり取りの後、魔法射的戦の練習をしている方からシマオの悲鳴がまた上がったような気がしますが、気のせいでしょうか。
まあ、他所は他所という事で、私たちも練習を始めることにしました。気を取り直して、お互いの肩に手を回します。ウルさんが近いなぁ。
「いくよ。じゃあまずは右足から」
「了解です」
彼女から提案があり、私がそれを了承して、走り出す用意をします。右足からですね、わかりました。
「いくよ! せーのッ!」
「「ふぎゃぁッ!!!」」
そして私とウルさんは、二人で同時にそれぞれの右足を出そうとして、顔面から思いっきり転びました。
い、痛い。強かに地面に打ち付けた鼻の頭が特に痛い。う、ウルさんが右足からって言ったのに……。
「いたた……な、なんでマサトまで右足出してるのさッ!?」
「い、いや、ウルさんが右足からって言ったんじゃないですかッ!」
起き上がりながら文句を言われたので、私も反論します。聞いた話は間違ってなかった筈。
「ボクが右足からってことは、ボクが出す足が右からって意味だったんだよッ!」
「ならそうやって言ってくださいってッ!」
話を聞いてみると、私の勘違いでした。いや、悪いのは私かもしれませんが、ああ言われたら勘違いもしますって。
「全く、バカなんだから……じゃ、もう一回。ボクが右足からだから、君は左足からだよ。わかった?」
「わかりましたって……」
ブツブツ文句言われるのがイマイチ納得できませんが、まあ良いでしょう。
私は左足から。今度は間違えませんとも。
「いくよッ! せーの!」
「「イッチニ! イッチニ! イッチニ! イッチニ!」」
次は上手く走り出すことができました。二人で声を合わせて互いに違う足を前に出し、走る事に成功します。
(ゆ、揺れてるッ!)
チラリ、とウルさんの方を見た時、彼女の形の良いおっぱいが規則正しく揺れているのが目に入りました。
掛け声と共にユッサユッサと動くお胸様に、目を奪われてしまいます。
「って、うわァッ!」
「あっ! しまっ……」
そんな事をしていたら、いつの間にかグラウンドのトラックのカーブ地点に差し掛かっていました。
曲がろうとしたウルさんに対して、お胸様に目がいってそのまま真っ直ぐ走ろうとしていた私。
当然行き違いが発生し、私たちは離れようとしましたが、互いの足を縛っているハチマキがそれを許すまいとした結果。
「ギャァァァアアアアアアッ!!!」
「うわァァァアアアアアアッ!!!」
再び、私たちはズッコケました。しかも、また顔面から地面へ。
もう一度ぶつけた鼻の頭を押さえつつ顔を上げてみると、うわ、またコケてるよ、と言う周囲からの視線が。
は、恥ずかしいッ!
「イタタタタ……も~ッ! このバカマサトォォォッ!!!」
「す、すみませーんッ!!!」
自身の痛みと周囲からの視線をウルさんも感じ、そんな彼女の絶叫がグラウンドに響き渡りました。
私は今後こそ本気で謝りました。はい、なんかもう、ホントにすみませんでした……。




