……バカ
……寝ちゃったかな?
うん、寝てるね。ほっぺたツンツンしても起きない起きない。
全く。言っても無茶するなんて、ホントに男の子ってバカなんだな~。どうせ夜も寝ないで、一人で探しに行ってたとかそんなんでしょ?
寝顔は可愛いのになぁ。こんな無防備な顔しちゃってさ。
……うん、ちゃんと寝てくれてる。良かったぁ。ボクも歌った甲斐があったよ。
だって、オトちゃんの膝枕で寝てくれるのに、ボクの子守唄じゃ寝られないなんて悔しいもんね。
前にマサトがオトちゃんの膝の上でグースカ寝てた時さ、ボク、羨ましかったんだよ?
マサトはボクの前では見せてくれない、全ての気を許したような顔してて。オトちゃんもそれを優しく見守ってて。まるで二人だけの世界ができてるみたいで……すごく、羨ましかった。
だから、今日はボクの番だよ、オトちゃん。いなくなっちゃった時を見計らうなんてズルい気もするけど、オトちゃんはボクがマサトを知る前から二人で一緒にいる。
そのどうしようもない時間分、ボクは不利なんだ。だからこういう時でもないと、その差は埋められない。
無理やり連れていかれたオトちゃんは、もちろん可愛そうだと思うよ。助けて、また一緒に遊んだり、マサトを取り合ったりしたいと思う。
でも、ボクってズルい性格だからさ。少しくらい、抜け駆けさせてね。後で文句なら聞くからさ。
そうは言ってもマサト、ずっとオトちゃんオトちゃんって、全然ボクの事なんか見てくれてないんだけどね……悔しいなぁ。
だいたい、夜に女の子が男の子の部屋を訪ねてくるなんて、普通は自分に気があるんじゃないかって、もっと意識してくれてもいいと思うんだ。
それこそ一緒にベッドで寝転がってるんだよ? 根がスケベな君なら、飛び上がって喜ぶものじゃないのかい?
それなのにマサトはいつも通りで、口を開けばオトちゃんの事ばっかり……。
……ボクじゃまだ、足りないのかな。結構、頑張ってるつもりなんだけど。
「…………zzz」
「…………」
そんなボクは、寝息を立てている無防備な君の唇に目が行く。あそこに触れたのは、たった一回。ボクの初めてを上げた、あの唇。
「……少し、だけ」
その唇を、人差し指でなぞる。君は少しピクッと反応した。
起きちゃったかな、とも思ったけどそんなことはなくて。安心したボクはまた、君の唇をなぞった。
「……少し、だけだから……」
ふにふにと柔らかいそれに、いつの間にかボクは顔を近づけていく。まるで、吸い込まれるみたいに。
「…………バカ」
それが誰に向けた言葉だったのかは、ボクにも解らなかった。
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一方、その頃シマオは自室のベッドの上で、
「や、やめて……親父……バフォさん…………め、目の前で始められると息子的にトラウマ……」
悪夢にうなされていた。




