怒りの理由とは
「ま、まあいいや。き、気になるなら教えてあげるよ。か、彼はね、ぼ、僕の弟弟子なのさ」
そう切り出したキイロさんは、兄貴との関わりについて話し始めました。
「か、彼のお爺さんが代々伝わっていた一刀一閃流の剣術道場をやってたことは、し、知っているかな? ぼ、僕はその道場の弟子の一人だったのさ。じ、自慢じゃないけど弟子の中じゃ最強って言われるくらいだったんだよ」
本当だとしたら、それはかなり凄いことです。
確か兄貴のお爺さんの剣術は、軍の指南を任される程のものであった筈。そんな道場で最強ということは、キイロさんはその中で一番強い方だったということです。
はえー。これは本当に失礼なんですが、見た目や喋り方ではとてもそうは見えませんでした。人は見かけによらないものなんですね。
そして、兄貴の使っている剣術の名称が一刀一閃流という名の流派であることも、初めて知りました。そう言えば、流派名までは聞いていなかったような気がします。
「で、でも。じ、時代は剣術から魔法に変わっていって、け、剣術なんて見向きもされなくなっていった。い、いくら上手に剣が振るえたからって、み、見向きもされなくなっちゃったのさ」
そうしてお話されたのは、かつて兄貴から聞いた話に似た内容でした。
「そ、そんな中で道場のお師匠さん、か、彼のお爺さんだね。お、お師匠さんは魔法にも対抗できる剣術を編み出した。す、凄い人だったよ本当に。い、一代の内にそこまで至れるなんて、ま、紛れもなく天才だと思ったよ」
「……その話は、野蛮人から聞いたことがありますわね」
「はー。そんなことがあったんか……」
かつての内容を思い返しているマギーさんと、初めて聞いたわーというシマオ。
そう言えばシマオは、まだ兄貴やマギーさん、そしてウルさんについての事情も、あまり詳しくないかもしれませんね。
ウルさんは前に話を聞いたみたいなのですがシマオはまだでしたので、この話が終わった後、彼には個別で皆さんのお話をしておきました。
「で、でも、お、お師匠さんは亡くなってしまった。あ、編み出した剣術を売り込みに行く途中でね。そ、その時はエドワル君も一緒だったみたいだけど……ほ、本当に悲しかったよ。お、お師匠さん程の人が、な、亡くなってしまったなんてね」
「……それで。そのお話とエド君が貴方を敵視していることは、どう繋がってくるんだい?」
ウルさんが問いかけます。ここまでの話は、私たちも聞いていることです。
兄貴はその時に軍の関係者に尊敬していたお爺さんの剣を馬鹿にされたからこそ、それを見返してやるために士官学校で腕を磨いています。
と、そこまで思い出したところで、不意に、私は兄貴がかつてお話していたことを思い出しました。
確かあれは、兄貴がキイロさんと同じ内容を話していた時のこと。
『……後は、落とし前をつけなきゃならねえ野郎もいるんだが……』
そうです。兄貴は確かにそう言っていました。落とし前をつけなければならない人がいる、と。もしかして、それに関係するのが……。
「そ、そうだね。え、エドワル君が僕を目の敵にしてるのは、ぼ、僕がお爺さんの奥義書を受け継いだからだね」
私の推測はキイロさんの言葉で肯定されました。やはり、兄貴が言っていた落とし前をつけなければならない相手、というのはこの方、キイロさんでした。
「お、お師匠さんの遺言状に、け、剣術の全てをまとめた奥義書については僕に伝承するっていう記述があってね。だ、だから僕は遺産にあったそれを受け取ったんだけど、ど、どうもエドワル君はそれが気に入らなかったみたいでね」
なるほど。お爺さんの剣を自分で受け継ぎたい兄貴としては、その剣についてがまとめられている奥義書を受け継げなかったということが気に入らないと、そういうお話ですか。
確かに兄貴なら、突っかかってもおかしくない内容です。納得もできますね。それにしては、先ほどの兄貴はいささか怒り過ぎていたような気もしますが。
「そんなことがあったんですか……」
「あ~、なるほど。エド君はお爺さんから、受け継げなかったんだね~……」
「なるほどなー。まー、自分でやりたいって思ってるノッポなら、突っかかっていくやろなぁ……」
「…………」
しかし、何でしょうか。私としては何となく納得できる話で、他の皆さんもなるほど、と頷いています。
そんな中、何故かマギーさんだけは眉をしかめる表情をされています。
お得意の勘か、それとも何か気になることでもあったんでしょうか。
「ま、まあ彼についてはオーメンに任せてるし。こ、これは個人的な内容だしね。え、エルフの子を助ける時に妨げになってもいけないから、ぼ、僕は今後なるべく彼の前には現れないようにするよ。
じ、じゃあ早速、し、調べてきた内容をお話するね。じ、実は君たちにも手伝って欲しいことがあってさ……」
この話はもう終わり、としてキイロさんはオトハさんについて調査された内容をお話してくれました。そうです。
兄貴の事も気になりますが、私たちはいなくなってしまったオトハさんを探すためにここまで来たんです。
手伝って欲しいこともあるということで、私たちも何かしらできることがあるみたいですし、私は一字一句も聞き逃さないようにと、キイロさんの話に耳を傾けました。
「……本当に、それだけなんですの……?」
そんな中、マギーさんだけは何故か、顔をしかめたままでした。




