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注意を受けて


「どうぞ、お食べください。ここのランチは、私の一押しですよ」


「は、はあ……」


 あれ? 私、連行されたんではありませんでしたっけ。


 どうして小洒落たレストランでおじさんに言われるがままにランチを頼み、目の前に美味しそうな食事がズラリと並んでいるのでしょうか。


「お金なら心配いりませんよ。ここは私の奢りです。遠慮なく食べてください」


「い、いえ、でも……」


「……ああ、飲み物を忘れていましたね。私としたことが、これは失敬。誰か」


 別に飲み物がないことに不満を覚えたのではないのですが。すみません、これって道路交通法違反を犯した私の取り調べとかではないのでしょうか。


 何故それが、こんな優雅なランチタイムになってしまっているのでしょうか。


 そんな私の疑問を察したのか、おじさんがもう一度食事を促しました。


「……まずは、食べましょう。お話は、後で聞かせていただきます。貴方、顔色があまり良くありませんよ? お昼もそうですが、その様子ではもしかしてあまり寝られていなかったり、朝ご飯も食べていなかったりしませんか?

 必死になるのも良いですが、まずはご自分の体調を整えてからにしましょうね」


「う……」


 そう言われた私は、言葉に詰まってしまいました。確かにこのおじさんの言う通り、私はお昼ご飯どころか、今日は朝食すら取っていません。


 昨日も遅くまで皆さんでポスター作りをしていたため、寝不足であることも確かです。


 それに昨夜の作業中にみんなでつまめるものをいくらか口に運んだ記憶はあるのですが、それ以降は水も飲んでいませんでした。


 運ばれてきた飲み物に口をつけると、身体に染み渡っていくような感覚を覚えます。ああ、私、喉乾いてたんだ。


 そうして喉が潤って気持ちが落ち着くと、今度はお腹が空っぽだぞと鳴り出しました。そんな私の目の前には、美味しそうなご飯がズラリ。


「……いただきます」


「どうぞ」


 おじさんのその言葉を受け取るや否や、私は次々に口に運んでいきました。ご飯にお肉にお野菜にスープにと、空っぽのお腹に急かされるかのように食べていきます。


 こんなにお腹が空いていたとは。自分では全く気づきませんでした。


 やがてテーブルの上の食べ物も一通り無くなった頃、もう一度飲み物を飲んで一息ついた私は、目の前に座っているおじさんに改めてお礼を言うことにしました。


 ちゃんとご飯を食べたためか、先ほどよりも活力が出てきたような気もします。


「……ごちそうさまでした。ありがとうございました」


「いえいえ。なかなかの食べっぷりでしたよ、坊っちゃん」


 私のお礼に対して、おじさんはそう返してくれました。言われる程がっついていたのかと思うと、少し恥ずかしさがこみ上げてきます。


「食後のデザートはまた後にして……そろそろ、お話をさせていたたきましょうか」


「……はい」


 そんな私を他所に、おじさんはお話しようかと言いました。そうです、すっかり忘れてました。これは一応、無断でポスター配りをしていた私に対する取り調べとか事情聴取的なことでしたよね。


 普通にご飯食べてて、時折おじさんと談笑していたので、そんな感じが全然しなかったのですが。はい、本筋に戻りましょう。


「ああ、申し遅れましたね。私は、ベルゲン=モリブデン。見ての通り、人国軍の軍人なんかをさせていただいております。坊っちゃん、お名前は?」


「マサト、です」


「ではマサト君。君が許可を取らないまま、ポスター配りをしていたのは間違いないですね? まずは、あそこでポスターを配っていた理由をお聞かせいただけませんか」


「えーっと……」


 そうして、食べるものを食べて少し元気になった私は、このおじさん――ベルゲンさんに今までの経緯をお話しました。


 一緒に学校に通っていたオトハさんが、ある日急にいなくなってしまったこと。それを見つけようと他の友達と一緒にポスターを作り、探していたことを。


 ゆっくりと話を聞いていたベルゲンさんは、取り出したメモ帳に私の話した内容を順番に書いていきます。


「ほう……一緒に配っていた、そのお友達というのは?」


「えーっと、兄貴……じゃなくて、エドワルさん、マグノリアさん、あとドワーフのシマオさんと魔狼とのハーフのウルリーカさんです」


「…………ああ、あの半人か……」


「えっ……?」


「いえ、何でもありませんよ」


 ボソッと何かをおっしゃったような気がしたのですが、私が聞き返すとベルゲンさんは何でもないと首を振りました。


 よく聞こえなかったのですが、一体何だったのでしょうか。


「しかし……そうですか。そのエルフのオトハさんという方が行方不明に……」


「……そうなんです」


「警察には連絡されましたかな?」


「はい、もうしています。でも、まだ行方はつかめていないらしくて……居ても立っても居られずに……」


「なるほどなるほど。よく解りました」


 一通り話し終えた後、ベルゲンさんはメモ帳を閉じました。


 それと同時くらいにちょうどデザートをお茶が運ばれてきたので、「喋り続けてお疲れでしょう。召し上がってください」と彼に促された私は、ケーキに口をつけます。


 美味しいなあ、ジュージュー入りのこのケーキ。こんなもの、元の世界でも食べたことなかったかもしれません。


「……とりあえず、マサト君。君の処断については、ここでのお叱りで済ませておきます」


 ケーキを食べ終わった頃に、ベルゲンさんが話し始めました。


「初犯ですし、お友達を助けたいという気持ちも考慮すべき内容です。今回はその気持ちが先走って、やるべきことを見落としていたと、そういうことなのでしょう。お友達まで呼びつけるつもりはありませんので、貴方の方からしっかりとお話しておいてください」


「あ、ありがとうございます……」


「ただし。もし今後同じようなことがあれば、その時は容赦しませんのでご注意を」


「は、はい!」


 少し強めの口調で言われたその言葉に、私は反射的に返事をしました。許してもらえそうではありますが、今後もう一度やったら容赦はしないぞと、そういうことですね。


 名前と今の住んでいる学生寮の部屋番号まで控えられましたので、再犯があればすぐに捕まってしまうことでしょう。


 はい、すみませんでした。以後気をつけます。


「よろしい。良い返事ですね。……そしてマサト君。私実は、君を助けたいとも思っているのですよ」


「……はい?」

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