第99話 錬金術師は自戒する
(なぜ私の身体は人間寄りに退化したのか)
ふと疑問が過ぎる。
あの夜からずっと考えてきたことだ。
何度も何度も己の中で問答を繰り返してきた。
退化。
私は今、退化と表現した。
きっと間違っていないだろう。
あの闇の身体は、それほどまでに凄まじい力を備えていた。
絶え間なく進み続けた変貌の終着点であり、本能を拒んだ吸血鬼の頂点だ。
半端者である私だからこそ到達できた極致であった。
存在そのものが闇に染まり、すべての害を寄せ付けない状態となった。
歴戦の英雄であった伯爵すらも羽虫のようにあしらえる。
実際に試したわけではないが、おそらく数万の軍勢すらも単独で屠れるのではないか。
きっと十二分に実現可能だったろうと確信している。
それに比べると現在の肉体は貧弱だった。
常人よりは強いものの、少しのことで怪我はする。
人間としての飢えや渇きは感じるし、身体能力も常識の範疇と言えよう。
大勢の人間が相手では不利となり、銃撃で頭部や心臓を破損すれば一時的に行動不能にとなる。
あの全能感を知った後だと、不安になるほどに脆い。
老いは無いが、ちょっとしたことで死んでしまうかもしれない。
誰かに殺される恐れだってある。
しかし、私はそれでいいと思っていた。
悪化の一途を辿っていた変貌が逆行したのは、私の選択によるものだった。
執念深く追い求めた復讐の瞬間を捨てたからに違いない。
確たる証拠や根拠はないが、私は心で理解している。
あの時、葛藤を経て導き出した答えは、紛うことなき人間だった。
もしあそこで伯爵親子を殺害していたら。
復讐を完遂していれば、私が元に戻ることはなかったはずだ。
闇の怪物として自我が崩壊し、いつか誰かに討伐されるその時まで、破壊の限りを尽くしたのではないか。
だからこれで良かったのだと思っている。
人生とは常に最適解を選べるわけでない。
そういう意味では、私は最悪の末路を避けられた幸運を喜ぶべきだろう。
(完全なる人間に戻れないのは、この身に背負う罪が影響している)
私はこの手で多くの人間を殺害してきた。
たとえ怪物に成り果てる過程だったろうと言い訳にはならず、絶対に潔白ではない。
復讐鬼として、自らの意志を持って命を奪い取ってきた。
幸いにも寿命に縛られない種族となったのだ。
長い人生で罪を償っていこうと思う。
それが私にできること――いや、私がすべきことだ。
血に染まったこの手でも、きっと誰かを救えるのだから。




