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魔弾の錬金術師は復讐に生きる ~亡き最愛の妻は吸血鬼だった~  作者: 結城 からく


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第97話 錬金術師は選択する

(私は、一体どうしたいのか)


 漠然とした疑問が浮かぶ。

 狂気に呑まれていれば、止まらずに動くことができたろう。

 半端に引き戻された理性がこの状況で悩んでいる。


 テッドは煙草に夢中だった。

 たまに私に視線を投げてくるが、あれ以上の発言をするつもりはないようだ。


 伯爵は依然として私の前に立ちはだかる。

 隙を突いて攻撃してくるような兆しはない。

 いや、正確にはできないのだ。


 彼の生命力は尽きる寸前であった。

 こうして意識を保って行動していること自体がおかしい。

 それでも娘を守りたい一心で、満身創痍の肉体を酷使している。


 少女はどこか悟った面持ちで私を見つめていた。

 きっと事情を察しているのだ。

 おそらく何も知らされていないはずだが、端々の会話から事情を理解したに違いない。


 少女からは際立った感情が見受けられなかった。

 どこか達観しており、絶望すら越えた先に心を置いている。


 彼女は難病で余命僅かだ。

 自らの死はとっくに受け入れているのだろう。

 その覚悟ができなかったのは、父親である伯爵だけだったのかもしれない。


 私は己の手を見る。

 中身を伴わない闇だけの手だ。

 濃密な魔力を内包している。

 一応、触覚らしき機能はあるものの、もはや人間とは呼べない状態だった。


(選択肢は私に委ねられた。誰も逆らうことはできない。その気になれば皆殺しにだってできる)


 右肩が膨張し、新たな腕が生えてきそうな感覚が走る。

 それを意識的に抑制した。

 膨張は鎮まって波打つだけに留まる。


 現在の私は暴力の化身だった。

 ほとんど不死の存在である。

 物理攻撃が効かず、理性を犠牲すれば巨大化も可能だ。


 吸血鬼としての変貌が進み切って、深淵の領域に達した。

 私の決断は、力を以て強行できる。

 故に慎重な判断が必要だった。


(娘を殺せば、伯爵は深く絶望するだろう。己の過ちに気が付くはずだ)


 伯爵にとって娘の命がすべてだ。

 ようやく吸血鬼の骨を入手し、病を治せる手段が整った。


 その希望を完膚なきまでに打ち砕くのは容易い。

 きっと伯爵の心は壊れる。

 復讐としては上々であろう。


(私は何を望んでいる? この状況で何がしたい?)


 己の精神を振り返る。

 復讐心を支えにここまでやって来た。

 根源的には何を望んでいるのか。


 このまますべてを殺してしまうのが一番なのか。

 私はそれで納得できるのか。

 妻に顔向けできるのか。


(……余計なことを考えるな。これは復讐の終点だ。為すべきことに集中しろ)


 闇の身体が崩れそうになり、何とか持ち直す。

 心がどんどん張り詰めていく。

 呼吸を要さない身体だというのに息苦しい。


 私の異変を見かねたのかテッドが煙草を壁に押し付けた。


「どうした。随分と調子が悪そうだぜ。俺が代わりにやってやろうか」


「待って、くれ。私がやる」


「そうかい。じゃあ頑張りな」


 テッドは投げやりに言って二本目を吸い始める。

 残された私は苦悩する。


 巡る葛藤に苛まれながら伯爵を押し退ける。

 そして、死にかけの少女に向けて手を差し伸べた。

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[気になる点] >巡る葛藤に苛まれながら伯爵を押し退ける。 >そして、死にかけの少女に向けて手を差し伸べた。 さて……どうする? [一言] 続きを静かに待ちます。
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