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魔弾の錬金術師は復讐に生きる ~亡き最愛の妻は吸血鬼だった~  作者: 結城 からく


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第91話 錬金術師は執念を燃やす

 伯爵の殴打が顔面に直撃する。

 肉の弾ける音がして、首が後ろに持っていかれた。

 可動域を超えて真後ろまで折れ曲がる。

 間違いなく首の骨が割れただろう。

 残る眼球も損傷したのか、視界が一気にぼやける。


 その状態で私は両手を前に突き出した。

 手探りで伯爵の肩を掴むと、指に力を込めて握り潰していく。

 指が肉に食い込んで引き裂き、さらには骨を砕かんばかりに圧迫する。


 刹那、胴体に伯爵の膝蹴りが浴びせられる。

 散々に掻き乱された体内がさらに損壊した。

 もはや無事な臓器は残っていないだろう。


 私は前のめりに身体を折る。

 弾みで掴んだ手を離してしまい、首の角度が戻る。

 それによって伯爵の顔を目の当たりにした。


 死力を尽くす獣の気迫があった。

 己の欲ではない。

 誰かのために戦う者の眼である。

 不滅の執念が私を抹殺しようとしている。


(なぜ……誰のためだ)


 疑問を解く間もなく、伯爵の蹴りが飛んでくる。

 負傷をものともしない加速だった。


 それは私の腰に突き刺さり、踏ん張れずに吹き飛ばされる。

 顔と床が衝突してそのまま削るようにして滑った。


 うつ伏せから起き上がろうとしたところ、背中に伯爵が圧し掛かる。

 鋭い痛みを伴って、何かを削って引き千切るような音がした。


 振り向くと、伯爵が羽を根元から切断していた。

 ちょうど右側の一方が投げ捨てられたところだった。


(機動力を奪うつもりか)


 私は周囲を染め上げた鮮血を操り、小さな粒にして浮遊させる。

 それを無数の散弾となって伯爵に炸裂させた。


「ぐっ」


 伯爵は全身各所を穿たれながら、もう一方の羽を切断してみせる。

 そこから短剣を逆手に握ると、私を滅多刺しにし始めた。


 筋骨隆々な体格と人並み外れた膂力だけを駆使した、技術も何もない暴力だった。

 原始的な破壊が私の肉体を蹂躙していく。


 身体が先ほどからずっと軽い。

 もう失う血液や肉が残っていないのだ。


 服の隙間からは骨格が露出している。

 致命傷の連続で再生能力にも限界が近付いていた。

 際限のない変貌が辛うじて命を繋ぎ止めている状態である。


(ここで死ぬわけには……)


 私は痙攣する右手を動かすと、握っていた物体を親指で弾く。

 聞き慣れた銃声と共に放たれたのは、貫通の魔弾だった。

 指で打つ力で炸裂させたのだ。


 魔弾は伯爵の腰を貫いて、彼の動きを鈍らせる。

 その隙に起き上がった私は、左手で同じように魔弾を発射する。


 燃える魔弾はしかし、今度は伯爵によって回避される。

 反撃とばかりに飛んできた殴打を片腕で受けた私は、さらに別の魔弾を放った。

 脇腹への被弾を代償に、伯爵の肘打ちが私の首を砕く。

 そこにまた魔弾を撃ち込む。


 ――佳境に達した殺し合いは、壮絶な消耗戦に突入した。

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