第83話 錬金術師は強襲を仕掛ける
伯爵の言葉を聞いた私は、気が付けば前に飛び出していた。
床を蹴り進んで加速して接近を試みる。
手には精霊銃を握っていた。
どうしても我慢ならなかったのだ。
ほとんど反射的な行動だった。
挑発行為でないのは雰囲気から分かったが、抑え切れなかった。
「ちょ、待てって! おい、くそ!」
テッドの悪態が聞こえたが、気にするだけの余裕はない。
私は疾走しながら精霊銃を連射する。
装填していたのはすべてが燃える魔弾だ。
命中すれば炎上する必殺の弾である。
銃撃を前に伯爵が躍動した。
霞むような速度で背中の大剣を引き抜くと、振り抜く動きで魔弾を防御する。
刃に弾かれた弾が床や天井に炸裂した。
炎を発するも、燃え広がることなく消えた。
もちろん伯爵自身に怪我はない。
(耐火加工が為されているのか)
伯爵が膝を曲げる。
次の瞬間には眼前にまで迫っていた。
大剣を振り上げた姿勢で殺気を放出している。
(――速い)
驚嘆を示す暇もない。
破滅的な斬撃が降ってくる。
私は床を踏み抜く勢いで横に転がって回避した。
右足の爪先を削られたのが見えたが、何も困りはしない。
どうせすぐに再生する。
私は床を跳ねて回転し、空中で姿勢を修正した。
弾切れとなった精霊銃の代わりに拳銃を構えると、伯爵の顔面に向けて発砲する。
着地までに六発を撃ち切るが、伯爵は残らず大剣で防御してみせた。
それどころか再び斬撃を放つために近付いてくる。
一瞬にして私を大剣の間合いに捉えていた。
「その程度か」
伯爵が蔑んだ眼差しと共に呟き、大剣を叩き込もうとする。
その直後、横合いから黒い影が滑り込んできた。
無音で駆けるのはテッドだ。
彼は気配を感じさせずに伯爵の背後に回り込み、ナイフを首に添わせる。
その腕が引かれる前に伯爵が大剣を回転させた。
宙返りで回避したテッドは、斬撃の間合いから外れた地点に着地する。
私も背中の翼で素早く後退した。
弾切れとなった拳銃を捨てて、両手の爪を伸ばす。
精霊銃の再装填を行う余裕まではなかった。
前後を私達に挟まれた伯爵は、これといった反応も見せずに首を撫でる。
手のひらは真っ赤な血で濡れていた。
首に当たったナイフで浅く切れたのだろうが、致命傷には至っていない。
伯爵はテッドを見ると、手に付着した血を振り払う。
「毒は効かんぞ。それくらいは対策している」
「だろうな。期待していないさ」
テッドはナイフを振りながら笑う。
刃に猛毒でも塗っていたらしい。
その作戦は失敗したようだ。




