第61話 錬金術師は提案を受ける
それから暫し沈黙が続いた。
私は何をするということもなく脱力し、思考だけをひたすら巡らせる。
枷の感触が鬱陶しい。
肌に擦れるのが妙に気になった。
今すぐにでも外したいが、生憎とそれは叶わない。
無理に壊せるのだとしても、まだその時ではなかった。
それより心配なのは吸血衝動だ。
だんだんと悪化しているのは明白であった。
直前の衝動ではとうとう気絶している。
さらには右腕が変貌し、背中には羽が生えてしまった。
(次の衝動では果たして一体どうなってしまうのか)
しかも身動きの取れない状態である。
もたらされる渇きと苦痛は計り知れない。
今度こそ気が狂ってしまうのではないか。
まず確かなのは、私の肉体が怪物へ近付くことだろう。
(ここでは血も飲めない……)
拘束を壊して目の前の男に喰らい付ければ、さぞ気持ちが良いはずだ。
しかし実際にそのようなことになった場合、為す術もなく負けるのではないか。
この暗殺者の男からは底知れない強さを感じる。
なんとなく人間であるのは分かるが、完全に怪物と化した私ですら撃退できそうな予感があった。
魔弾すらも見切って対処するのだ。
別に何ら不思議なことではなかった。
きっと真の強者なのだろう。
私のように後付けの能力で慢心するような者とは格が違う。
長年に渡って殺し合いの世界に身を置いてきた玄人である。
だからこそ血の味も極上だろうが……。
「おい、聞いているのか。大丈夫か」
男の言葉で我に返る。
どうやら思考に没頭していたらしい。
呼びかけられていることに気付けなかった。
「何だ」
「やはり上の空だったんだな。あんたが吸血鬼になった経緯だよ。さっき聞きそびれた」
「そんなに知りたいのか?」
「暇なんだよ。減るもんでもないし教えてくれよ。商会の連中には黙っておくぜ」
男が手を合わせて拝んでくる。
彼の考えがよく分からない。
嘘や誤魔化しが含まれているようには見えなかった。
本当にただの好奇心からの質問のようだ。
(……別に構わないか)
妻が吸血鬼であることは知られている。
調べ上げられれば、いずれ判明するはずだ。
ここで男に伝えたとしても不利益は無いに等しい。
私自身、何でもいいので話したい気分だった。
そうやって頭を回さないと、吸血鬼の本能に支配されそうだった。
喉のざらつきを覚えつつ、私は男に経緯を話し始める。




