第6話 錬金術師は商会へ赴く
室内の机に立った私は、通りの店で購入した調合道具といくつかの素材を広げる。
椅子に座り、軽い伸びをしてから作業を開始した。
「さて……」
背嚢を漁り、散弾銃の弾を器具で分解していく。
部品ごとに分けて、その構造を理解した。
(こんな風になっているのか)
銃を使ったことなんて数えるほどしかない。
ましてや弾の仕組みを調べるのは初めてだった。
素人の私でも把握できる範疇だったのが幸いである。
これでも錬金術師になるにあたって様々な分野の勉強をしている。
そこに銃火器に関する知識はなかったが、まったく役に立たないわけではなかった。
私は散弾に細工を凝らしていく。
己の血を滴らせて塗布し、薬莢に術式を刻み込んだ。
私が作っているのは、魔術を付与した弾丸だ。
俗に言う魔弾である。
復讐には準備が必要だった。
たった一人で戦うためには、強力な武器が必要であった。
魔弾自体は別に珍しいものでもない。
ただし、ほとんどが高価で、様々な力が付与された魔弾が流通している。
銃の弾にする関係上、使い捨てになるのが欠点だろう。
傷の入った魔弾は効果を失うので、基本的に使い回しができない。
よって一般人が魔弾を頻繁に購入することはなかった。
今回、私は自分の血――すなわち吸血鬼の血液を使用している。
魔術触媒として十分な効果を発揮するからだ。
(巷で売買すれば、かなりの価値になるのではないか?)
レドナリア商会が妻の遺骨を狙うのも分かる。
しかし、だからと言って許せることではなかった。
必ず報いを受けさせなくてはならない。
「…………」
私は無言で魔弾を製造していく。
精密な動作を必要とする作業だが、そこまで難しいことではなかった。
そして夕方頃、私は手を止める。
大きく息を吐き出して机上を見た。
そこには十数発の魔弾が並んでいた。
購入した素材を使い切るまで製造したのだ。
魔弾の効果は三種類ほど用意した。
命中した生物を燃やすもの。
命中した生物の身体能力を一時的に強化するもの。
魔術の貫通と破壊に特化したもの。
既存の魔術を流用して付与している。
弾数が少なめなので乱用はできないため、ここぞという場面で使おうと思う。
(これでやれることは完了した)
私は外套を羽織り、背中と腰にそれぞれ散弾銃を吊るす。
いつでも引き抜けるように角度を調整した。
二挺ある散弾銃のうち、一方の銃口は短く切り詰めてある。
宿屋に赴く途中、鍛冶師に加工してもらったのだ。
取り回しを優先した代償に、射程は短くなっている。
未加工の銃と使い分けることになりそうだ。
そして日没が訪れた。
私は去りゆく夕闇に紛れるように宿屋を出る。
レドナリア商会の支店へと向かう。
街の中央部に近い大きな建物は、夜の時間帯でも人の出入りが活発している。
揃いの制服を着た店員が見事な手際で接客していた。
私は何気ない風を装って入店し、陳列された商品を見回っていく。
当たり前だが吸血鬼の骨は置いていない。
非常に稀少なものなので、さすがに出回っていないようだ。
(どこか別の場所に保管されているのだろう)
既に別の支店に運ばれている最中かもしれない。
少なくとも客として購入するのは不可能であった。
どうにかして遺骨の行方を調べなければならなかった。
暗い顔で商品棚を眺めていると、エルフの女性店員が駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ! 何かお探しでしょうか」
善意の笑顔に慇懃な態度。
店員はこちらの要望に応えようとしている。
その姿に罪悪感を覚えながら、私は腰の散弾銃を引き抜いた。
周りに見えないように意識しながら、それを目の前の職員に突き付ける。
「騒がないでくれ。少し質問がある」