第49話 錬金術師は怪物として乖離する
(どういうことだ)
私は黒い腕を凝視する。
幻などではなく、明らかに変質していた。
軽く動かしてみるも違和感はない。
次に触れてみるが以前までの感覚と違いはなかった。
変わったのは色合いと質感だけである。
ちなみに左手には包帯が巻かれておらず、特に異常は見当たらなかった。
(気を失っていた間に吸血鬼の特性が進行したのか?)
思い付く原因はそれしかない。
外見的な変化は前々から生じていたが、ここまで劇的なことになるとは完全に予想外だった。
いくらなんでも唐突すぎる。
変貌の間隔と症状が悪化しているのではないか。
しかし、気になることがある。
(……これは、本当に吸血鬼なのか?)
私の知る吸血鬼は、もっと人間に酷似した容姿だった。
死人のような青白い肌や真紅の瞳、牙や爪といった特徴はあるが、このような変貌は聞いたことがない。
一般的な吸血鬼から乖離しつつあった。
この身に何が起きているか自分でも分からない。
呆然と右腕を眺めていると、肩から背中にかけて違和感を覚える。
(まさか)
嫌な予感と共に上着を脱ぐ。
首をひねって確認すると、そこには蝙蝠のような羽があった。
折り畳まれていたそれらが開いて、羽ばたくようにして上下する。
肩や背中の一部が黒くなって、そこから生えているようだった。
大きな変貌は右腕だけではなかったのだ。
冒険者の少女は、伏し目がちになって言う。
「あなたは、その、人間ではないのですね」
「…………」
「村人達には見せていません。安心してください」
その気遣いは、人間ではない存在に向けたものだろう。
心が痛んだ気がするが、却って私は冷静になった。
この変貌には確かに驚いたものの、それも既に過去の感情である。
周りの反応で冷める心を自覚していた。
私は三人の冒険者に尋ねる。
「どうして、私を助けたんだ。人間ではないというのに」
「恩返しをするのに、相手の種族なんて関係ない」
男の一人が答える。
こちらを真っ直ぐに見る目には、確かな信念が窺えた。
彼は善人だ。
悪く言えばお人好しである。
他の二人もきっとそうなのだろう。
「何か困っているのなら力を貸すが」
「大丈夫だ。自分で片付けなければならない」
私は上着を着ながら答える。
羽が少し邪魔だが気にするほどではない。
背中が不自然に膨らまないように注意しなければ。
私は背嚢に手を突っ込み、何か言いたげな冒険者達に金を差し出した。
「助けてくれてありがとう。これは少しだが礼だ」
「あ、あの……」
「私にはもう関わらない方がいい。再会しないことを祈っている」
本心からそう告げた私は、謝礼を押し付けて部屋を出た。




