第46話 錬金術師は衝動と戦う
数日後。
公都を目指して移動する私は、乾いた大地を踏み締めて歩いていた。
呼吸が少し苦しい。
垂れ落ちる汗が鬱陶しく、いくらでも流れ落ちてくる。
きつい日差しが容赦なく肌が焼く。
外套で隠していなければ耐えられないほどだった。
現在、私は耐え難い吸血衝動に襲われていた。
だいたい二日ほど前からだろうか。
唐突に再発したそれは、瞬く間に私を蝕んできた。
まるでそれが当然かのように理性を引き剥がしにかかってくる。
人間を見れば殺してしまいそうになるため、街には一切寄っていない。
地図だけを頼りに街道を外れた移動を続けている。
ふとした瞬間に意識が飛びそうになるので、ひたすら何かを考え続けた。
ほんの少しの油断が、私を怪物にしてしまうだろう。
(私は人間だ。吸血鬼では、ない。まだ違う……)
遺骨の入った袋を握りながら念じる。
かつての幸せな日々を思い出して精神を保つ。
それだけが、唯一の、拠り所であった。
この苦痛の晴らし方は知っている。
何も考えず、最寄りの街へ赴けばいい。
ただそれだけで解決するだろう。
自我が戻ってくるかは賭けになる。
もしかすると永遠に理性を失った怪物となってしまうかもしれない。
既に吸血鬼の特性はかなり進行しているようだった。
(いっそ、怪物になり果てた方が楽なのではないか……?)
脳裏を過ぎった考えをすぐに打ち消す。
それだけはいけない。
危険な誘惑だった。
今にも流されそうな自覚がある。
しかし、私は人間なのだ。
人間のままでいたい。
この苦痛から早く逃れたいが、怪物にはなりたくない。
妻に救われた命を、そのように変貌させたくなかった。
(復讐だ。まだ終わっていない)
遺骨は取り返したが、まだ使命はやり遂げていない。
私が怪物になったとしても、相手はまた奪おうとするのではないか。
怪物の遺品に気を留める者などいないだろう。
戦利品として堂々と入手することができる。
サラの遺骨どころか、私の骨まで有効活用されるかもしれない。
この身はもう人間ではなかった。
それは誰よりも知っている。
夫婦揃って価値の高い骨として回収されるのだ。
(馬鹿げている。そんなことは、絶対に阻止しなければ)
思考が若干ながら明瞭になる。
憤りが私の理性を呼び起こしていた。
そうだ、ここで倒れるわけにはいかない。
すべてを解決するその時まで、私は人間でいなければ。




