第36話 錬金術師は新たな能力に目覚める
頭を失った死体が重い音を立てて倒れた。
断続的に漏れ出す鮮血が足元を染め上げていく。
月光に照らされるそれは、とても魅力的な赤色だった。
「うおあっ」
そばに立つ傭兵が叫ぶ。
真横で仲間が無残に死んだので当然の反応だろう。
佇む私はそれを他人事のように見ていた。
「クソが!」
もう一人の傭兵はこちらに拳銃を向けようとしていた。
私はそれを反射的に手で払う。
刹那、鈍い抵抗と金属の摩擦音があった。
何だろう。指先に違和感もあった。
不思議に思いながら視線を動かす。
傭兵の拳銃が斜めに断ち切られていた。
それを握っていた傭兵の指も分割されている。
血を垂らしながらばらばらになって落ちた。
「ひえあああああっ!?」
片手を解体された傭兵が痛みと恐怖で尻餅をつく。
こちらのことなど目もくれず、自らの手を押さえて泣いている。
(どういうことだ)
私は思わぬ結果に首を傾げて、拳銃を払った片手を見やる。
死人のように青白い手は、爪が異様に妙に伸びていた。
先端が鋭利な形状になっており、まるで刃物のようである。
もう一方の手も同じような状態となっていた。
爪を手のひらに押し当てると皮膚が裂けてしまった。
(これも吸血鬼の能力なのだろうか?)
妻のサラはこのような爪ではなかった気がする。
しかし、こまめに手入れしていた記憶があった。
危なくないように切っていたのかもしれない。
だから私でも気付けなかったのか。
私は尻餅をついた傭兵の前に屈むと、その首に指を添えて軽く動かした。
たったそれだけの動きで皮膚と肉が破れて、鮮血が噴出する
私はそれを浴びないように避けて立つ。
白目を剥いた傭兵は静かに倒れて動かなくなった。
「ま、まま……待ってくれ」
残された傭兵は震えながら後ずさる。
もっともその先には壁が待っているので逃げられない。
おそらく恐怖のあまり気付いていないのだろう。
思考能力が低下しているようだった。
「…………」
私は無表情に歩み寄っていく。
心が冷え切っていくのを感じた。
同時に飢餓を覚える。
視界が赤く染まって狭まっていく。
ふと空を見上げると、月が柔らかな光を落としていた。
とても綺麗な光景だった。
地上はこれだけ醜いというのに。
自嘲気味な思考をよそに、私は傭兵を壁際まで追い詰める。
そして、懺悔する彼の胸部を爪で貫いた。




