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魔弾の錬金術師は復讐に生きる ~亡き最愛の妻は吸血鬼だった~  作者: 結城 からく


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第32話 錬金術師は予期せぬ出会いを果たす

 定食を食べ終えたところで、店員が駆け足気味に入口へ向かった。


「いらっしゃいませー」


 どうやら新しい客が来たらしい。

 夜もまだこれからだ。

 さらに混雑する時間帯かもしれなかった。

 食事を終えたら、さっさと退店すべきだろう。


 なんとなしに新たな客を見やった私だが、次の瞬間には固まる。

 さりげなく外套のフードを被り、気付かれないように意識しながら客に注目する。


 新たな客は集団で計四人だった。

 不揃いの格好をしており、腰や背中に銃を所持している。

 独特の粗暴な雰囲気は傭兵だろう。


 彼らの顔に見覚えはない。

 しかし、その容姿は尋問で得た情報と一致していた。

 つまり私を銃殺し、遺骨を奪った傭兵達の身体的特徴である。

 あの時と服装は異なるものの、まったくの他人とは思えない。


 加えてそのうち一人は、腰の布袋に特殊な魔力を隠し持っていた。

 魔力の正体は不明であるが、おそらくは妻の遺骨なのではないか。

 確証はないものの、私は直感的に理解していた。


(落ち着け。ここですぐに動くべきではない)


 私は両手を握って自分に言い聞かせる。

 ともすれば動き出しそうな身体を抑え込む。


 ここで襲撃を仕掛けると、店に余計な迷惑をかけてしまう。

 強烈な復讐心を前に、私は第三者を気遣える余裕を持っていた。

 そのことに一人で安堵する。

 私はまだ人間なのだ。まだ。


 傭兵達は店内中央のテーブルへ案内された。

 私からは背後にあたる位置だ。

 振り返って様子を確かめたいものの、さすがに不審がられるだろう。


 私は背中を向けたまま、彼らの会話を盗み聞きする。

 店内の喧騒のせいで、本来は内容など分からないだろう。

 しかし吸血鬼の優れた聴覚は、彼らの言葉だけを切り取っていた。


「公都までどれくらいだっけな」


「五日もあれば着く。遅くなっても七日だろう」


「近いな。この仕事もあと少しで終わりか」


 仕事の話をしているらしい。

 しかも行き先は公都のようだ。


「報酬の割には楽な仕事だったぜ。普段からこれだけ簡単だと助かるんだが」


「おい。間違っても店長の前でそれを言うなよ。こき使われることになる」


「分かっている。あの野郎、何かと理由を付けて値切ろうとしやがるからな」


 傭兵達は愚痴る。

 店長とは、公都にあるレドナリア商会の店長ではないか。

 件の傭兵達はそこの所属だと聞いていた。


「この骨にそんな価値があるとは思えんがね。ただの収集癖か?」


「あまり興味を持つな。どうなっても知らんぞ」


「少し気になっただけだ。深入りするつもりはないさ」


 骨。

 奴らは確かに骨と言った。

 やはり間違いない。

 彼らこそ、私を襲撃した者達であった。


 その後、傭兵達は料理と酒を注文した。

 やけに贅沢なのは、金がある証拠か。

 或いはこれから大金を得られるが故の行動しれない。

 今回は後者だと思う。


 私も長居できるように追加の注文を頼み、彼らの食事が終わるのを待つ。

 酔えない酒を口にしながら、彼らの会話に集中する。

 あれだけ美味かった酒の味は、すっかり分からなくなっていた。

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