第30話 錬金術師は捜索する
その後、私は街中を巡り、遺骨を奪った傭兵達を探した。
焼け落ちた家で実行犯の一人を尋問して、他の襲撃者の素性を聞き出している。
身体的特徴も知っているため、見れば分かるはずだった。
入念に変装されると気付けないかもしれないが、その際は遺骨を頼りに探すことができる。
精霊銃の特徴を識別できたことから分かるように、吸血鬼となった私は魔力的な感覚が鋭くなった。
他人の魔力の差もなんとなく区別できる。
ここ最近になって気付いた特徴なので、いつの間にか習得したらしい。
吸血鬼としての深度が深まったとも考えられるが。
妻は吸血鬼だった。
そして、彼女の遺骨は特殊な魔力を内包している。
遠くから位置が分かることはないものの、近くにあれば一目瞭然だろう。
傭兵達が所持していればすぐ分かるに違いない。
そう意気込んで行動を始めたものの、結果は芳しくなかった。
日没まで街の各所を散策したが、件の傭兵達は見つからなかった。
そう簡単に出会えるものではないと分かっていた。
しかし、行動が徒労に終わると焦りが生まれる。
(明日には出発するか)
長居したところで収穫はない可能性が高い。
それなら公都に乗り込んで先回りした方が建設的だろう。
いっそ遺骨が引き渡される予定のレドナリア商会を襲撃してしまうか。
責任者を人質にして、到着した遺骨を奪うのが手っ取り早い。
いや駄目だ。きっと無関係な人間にまで被害が及ぶ。
私はそのような展開を望んでいない。
諦めて宿に戻ろうとした私は空腹を覚える。
何も食べずに歩きまわったのが原因だと思う。
この身体になってから、そういった習慣が疎かになっている気がした。
(……一応、食べておこう)
万が一にも餓死しては困るので、私は通りかかった店に入る。
すぐに店員が駆け寄ってきて席に案内してくれた。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
「この定食で頼む」
「ご一緒に地酒はいかがでしょう」
「ふむ……」
私はあまり酒に強くない。
ワイン一杯だけでも眠たくなってしまうほどだ。
そもそも味も美味いと感じたことがなかった。
断ろうとした私に対し、店員は笑顔で言葉を重ねる。
「定食にすごく合いますよ。ぜひぜひ!」
「……なら地酒も頼む」
少し考えた末、私は素直に注文した。
たまには飲んでみようと思ったのである。
確かに酒には弱いが、今は少し酔いたい気分だった。
傭兵捜索が上手くいかなかったせいかもしれない。
酒に溺れるのは良くないと思いつつも、つい楽しんでしまった。
店内は盛況のようだった。
大半の客は赤い顔で食事を楽しんでいる。
彼らは揃って定食と酒を頼んでいるようだった。
たまたま入ったが名物店なのだろうか。
私はなんとなしに客達の様子を眺める。
幸せそうな彼らを見て、嫉妬を覚えるようなことはない。
ただ、自分が場違いな印象だけは拭えなかった。
人間ではなくなったこともきっと関係しているだろう。




