第26話 錬金術師は日常を感じる
魔弾の製造を終えた私は、椅子に腰かけて小休憩を取る。
体力的な消耗は微々たるものだが、集中力を要する作業だった。
主に精神面が疲労している。
その甲斐はあって魔弾を増量できた。
拳銃用のものも揃えてある。
無駄遣いができる数ではないものの、出し惜しみするような場面はなくなるだろう。
逆に通常の弾が残り少ないので、この街で買い足した方がいいかもしれない。
盗賊達から奪ったので、金銭面には幾分か余裕がある。
いざという場面で弾切れに陥るのは不味い。
こうして街に滞在しているうちに準備を進めておくべきだろう。
今後について脳内で計画していると、部屋の扉がノックされた。
私は反射的に散弾銃を手に取り、狙いを扉へと向ける。
自宅で襲撃を受けた記憶が蘇る。
その痛みと恨みに顔を顰めた。
(もしや追っ手か?)
私の動きを知っている者はごく少数に限られる。
商会で騒ぎを起こしたが、素性は割れていないはずだ。
店長も殺害している。
遺骨を持った傭兵達も、私の生存には気付いていないはずだった。
したがって誰かが奇襲を仕掛けてくることなんてありえない。
それでも念のために散弾銃を手にしたまま、音を立てずに扉へと近付く。
警戒しながら開くと、そこに立つのは一人の少女だった。
確かこの宿で受付をしていた娘である。
「こんばんは。馬のお世話はどうしますか」
「ああ、頼む」
どうやら馬のことで相談に来たらしい。
奇襲はやはり考え過ぎだったようだ。
殺伐とした出来事が多すぎて、思考が偏りつつある。
これでは神経が参ってしまう。
気を緩めすぎるのも良くないが、冷静に頭が回る程度にはしておくべきだろう。
過度な警戒心は妄執を生み出すことになりかねない。
「お世話には追加料金がかかりますが……」
「問題ない」
私はその場で金額を確認して少女に支払った。
ついでに気持ちばかりの硬貨を追加して渡しておく。
少女は顔を輝かせて大喜びした。
そのままどこかへ行くのかと思いきや、彼女はさりげなく部屋に入ってきた。
荷物の置いていない場所を掃除し始める。
本来の目的はそれだったらしい。
あまり汚れていないというのに律儀なものである。
宿の主人から指示されたのだろうか。
私は少女の邪魔にならないように荷物をどけると、椅子に座ってその様子をなんとなしに眺める。
持っていた散弾銃は壁に立てかけておいた。
ほどなくして少女が掃除をしながら話題を振ってくる。
「冒険者さんですか?」
「いや、違う。ただの旅人だ」
「そうなんですね」
少女は私の荷物を一瞥すると、不思議そうに呟いた。
「たくさん銃を持っているんですね」
「持て余しているがな」
「それなら向かいのお店で売れますよ! 割と良い価格になったかと」
少女は嬉しそうに言う。
会話をするのが楽しいようだった。
私のような人間とのやり取りは退屈なのだと思うのだが。
「詳しいのだな」
「そこのお店でも働いているんですよ。父が店長をやっているので。人手不足の時はこっちでも働いてますが」
「そうか」
ただの善意かと思いきや、実家の宣伝活動らしい。
私は思わず苦笑しつつ、荷物を抱えて立ち上がった。
「銃を売ってくる。馬の世話を頼む」
「はい、分かりました!」
少女の元気な返事を受けて、私は部屋を退室する。
(穏やかな会話だったな)
久々の感覚だった。
最近は、復讐と殺人と吸血衝動に思考を支配されていた。
無邪気な少女との会話で、元気を貰えた気がした。




