第24話 錬金術師は悲観を重ねる
十数日の移動を経て、私はこの国の最北端の街に到着した。
さらに北上するとナリア公国の領土となる。
入国する前に準備を整えようと思ったのだった。
目的地である公都まではまだ少しかかるので、馬の餌も買っておきたい。
街に入ろうとした際、門番に止められる。
血みどろの衣服を怪しまれたらしい。
私は盗賊との一件について伝えた。
ただし、戦闘で受けた傷は回復魔術で治癒したことにする。
まさか再生能力を有しているとは明かせない。
信頼を得るために盗賊達の遺品を見せると、あっさりと信じてもらえた。
遺品の中に揃いの紋章があったからだ。
私は知らなかったが、広域で活動する有名な盗賊団の印らしい。
彼らはその末端だったわけである。
各所に拠点があり、旅人や商人を襲っていたのだそうだ。
逃げ足の速さのせいで捕まえられないと兵士が嘆いた。
だから盗賊達を一掃した私は、門番から感謝の言葉を受けた。
去り際に「盗賊を倒せるような男には見えない」と言われたが、私は曖昧に笑うだけで済ませた。
その指摘は正しいものの、深い事情まで説明する義理もない。
門番との話を終えた私は街の中へと入った。
そこでようやく安堵する。
盗賊の遺品の中から割れた手鏡を取り出して、自分の顔を見た。
両目は暗い茶色だ。
時折、深みのある赤が混ざる。
まるで血の色のようだった。
肌色は少し青白いものの、不健康かと心配される程度だろう。
口内を確認すると、一対の牙が生えていた。
しかし、これも少し尖った歯と主張しても信じてもらえそうだ。
(門番に見つからなかったのは幸運だったな)
私の容姿は着々と吸血鬼に寄りつつあった。
心が落ち着いていたり、衝動が小さい間は変化も控えめだが、逆に強烈な本能に襲われた際は悪化する。
両目は真紅に染まり切り、肌は死人のように青白くなるのだ。
その姿なら間違いなく門番に正体を悟られたろう。
事前に確認は怠らなかったが、違和感を持たれずに通過できて良かった。
この身は完全な吸血鬼に変貌したかと思っていたが、まだ境界線を彷徨っているのかもしれない。
意外と粘っている。
果たして喜ばしいことなのか。
(無駄なあがきではないか?)
私はふと考える。
衝動を拒み続けるほどに、吸血鬼としての特性が強まっていく。
そうして真性の怪物へと至るのだ。
かと言って吸血の味を知れば、それはもう人間ではない。
さらなる獲物を求めるようになる。
そして吸血鬼として人々から忌避される存在へと達する。
やはり怪物が出来上がるわけだ。
(手詰まりだな。どうすることもできない)
悲観的な思考とは裏腹に、私は馬と共に街を散策していた。
周囲に上手く溶け込んで歩いている。
この悩みと葛藤は移動中に何度となく繰り返してきた。
自己嫌悪と絶望にも、もはや飽きた。
それに対して何も感じないわけではないが、頭を切り替えて行動できるようになった。
私には確固たる目的がある。
どれだけ苦悩しようと揺るぐことのない目的だ。
己の運命は不明瞭だ。
きっと悲惨な最期が待っている。
しかし、今はどうでもいい。
関係ないことであろう。
妻の遺骨を取り返す。
それだけを見据えて歩み続けるしかない。




