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魔弾の錬金術師は復讐に生きる ~亡き最愛の妻は吸血鬼だった~  作者: 結城 からく


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第16話 錬金術師は反撃を受ける

 店長は勝利を確信しているようだった。

 撃鉄を起こして、引き金にゆっくりと指をかける。

 少しでも力が込められれば、弾が発射されて私の頭部を破壊するだろう。


(吸血鬼はどこまでの傷で死ぬのだろう)


 脳裏に素朴な疑問が過ぎる。

 全身に弾丸を受けても復活できたが、至近距離からの銃撃も大丈夫なのか。

 行動不能にはなりそうだ。

 動けない間に誰かを呼ばれると、少々厄介なことになるかもしれない。


(見逃したというのに、報復を企てるのか)


 私は胸中で嘆く。


 店長は私の腹を勢いよく踏み付けてきた。

 内臓が潰れる痛みに加えて、肋骨に圧力がかかる。

 軋むような音が聞こえた気がした。


「調子に、乗るな! わしを、誰だと、思っているッ!」


 店長が執拗に蹴りを浴びせてくる。

 よほど怒り狂っているらしい。


 私は表情を変えずに店長の動きを観察する。

 蹴りを繰り返しながらも銃口は、こちらを捉えていた。

 いつでも撃たれるようにしている。


(さすがにそこまで油断はしていないか)


 何度目かの蹴りを受けた瞬間、私は店長の持つ拳銃に手を伸ばした。

 銃口を正面から掴み、上にずらして射線から逃れようとする。


「ぐ、この……っ!」


 驚いた店長が発砲する。


 銃口を掴む私の人差し指と中指が吹き飛んだ。

 ほぼ同時に額の端に衝撃が走る。

 視界の半分ほどが闇に染まった。


 弾が当たったのだ。

 銃口をずらしたのに命中してしまったらしい。


(指を失った上に頭を撃ち抜かれるとは……)


 私は苦い顔になる。

 どれだけの損傷なのか確かめたいが、悠長にやっている暇はない。

 目の前に立つ店長は、既に二発目を撃とうとしていた。


 素早く腰を上げた私は、指の減った手で銃口を掴む。

 即座に発砲されるも、今度は耳の横を掠めていっただけだ。

 頭部の破損で感覚が鈍っているが、たぶんきっとそうだろう。


 私は掴んだ銃口を天井へと持ち上げる。

 店長は拳銃を放そうとしない。

 奪い返されるのは不味いと思ったようだ。


「ぐ、ぬおおおおお……っ」


 店長の抵抗は些細なものであった。

 互いの膂力に絶大な差が存在しており、指を失った状態でも負ける気がしなかった。


 私はもう一方の手で店長の首を掴む。

 店長は血走った目で発砲するが、天井に穴を開けただけだった。

 私は銃口の向きに気を付けながら首を絞め続ける。


「お、ごばあぁ、ああああ……っ」


 店長が涙を流して唸る。

 私の指が首の皮膚に食い込んでいた。

 やがて爪が肉を抉り始める。


 血が。

 真っ赤な血が。

 一息に啜ると、さぞ美味そうな――。


 気が付けば店長を蹴飛ばしていた。

 肉の引き千切れる音がして、眼前で血飛沫が跳ねる。


 店長は仰向けに転がった。

 喉は大きく裂けて、肉がもぎ取られている。

 そこから噴水のように血が溢れていた。


「…………」


 私は血に染まった自分の手を見る。

 皮膚の張り付いた肉を鷲掴みにしていた。

 蹴りを入れた際にもぎ取ってしまったようだ。


「ぅお、ごご、が、あっ……」


 店長は血を吐きながら苦しんでいた。

 恐怖と痛みを怨嗟を訴えるその目は、だんだんと光を失っていく。

 やがて力尽きて完全に動かなくなった。


(結局、殺してしまったな)


 私は何も見えない片目に手を当てる。

 細かい状態は分からない。

 ただ、眼窩にあたる部分が損壊しているのは確かだ。

 破れた眼球の破片がへばり付いており、小さな穴が開いている。


 後頭部に手を回すと、それより二回りほど大きな穴があった。

 弾丸によって穿たれたらしい。

 傷口からは絶えず血が流れており、顔の半分を濡らしている。


 私は店長から剥いだ喉の肉を捨てると、床に落ちた拳銃を拾った。

 それをホルスターに戻し、倒れていた椅子を戻して腰かける。


 ふと片手を見る。

 二本の指は失われたままだった。

 視界も半分ほどが闇に染まっている。


「……災難だな」


 疲労感を拭えずに呟く。

 壁の隙間から注ぐ光に目を細める。

 私の凶行など露知らず、今日も朝が訪れようとしていた。

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