1STPAI
「受け入れろ、この力は貴様の中に燻るものなり……さすれば、オリオンの加護が貴様の行く末を定むるであろう…目醒めるのだ、世を統べる者よ……」
不思議な夢を見た気がした。手元も見えないような闇の中で誰かに呼びかけられて……確か、頭の中にこうちらついたのだけは覚えている。
【1-S-T-P-A-I】
あれは一体何だったんだろう……?
その夢から醒めた後、俺は浮くような感覚にしばし囚われた。
現と虚の境が分からなくなりながらもなんとか意識を取り戻す。
目を擦った先には平野が広がっていた。俺は外にいたのだ。
「たくっ、せっかくの休暇で日光浴できると思ったのにとんだプレゼントだぜ……!」
状況が理解できない俺の後ろで地を這うような低い轟声が響くと俺の体はその主に掴まれた。
「ふぇっ⁈ちょ、ちょっと離してくださいっ!」
「寝言言ってんじゃねぇ!テメェ、ゴーレムに追われてんだぞ!そこを大天才のオレ様が助けてやったのに礼もねぇなんて学なしかよ!」
抱えられたまま身動きが取れない俺に高圧的な態度をとる彼に俺は何も言えなかった。
でもこのまま延々とデカい声で罵倒され続けるのも癪だった。
「俺、ゴーレムなんか余裕ですし……!」
「ふっ……ははっ!マジでかぁ?……そんなヒョロい身体で?まぁ、できるってんなら見ててやるよ!」
出任せに吐いた自分の言葉と彼の言葉に顔は熱を失う。
(でも……これなんか行けそう……⁈)
そう不意な自信も巻き起こり、一歩前に踏みしめた。
『ハイラント・アロー』
「……双弓⁈」
俺も自分の発している言葉を理解はしていなかった。
何しろ口が勝手に動いていたのだ。
次に俺は双弓の矢尻を引き絞りながら、こう放っていた。
『アサルト・ヴァンミリオン……!』
上に飛ばした矢は見かけ上、大気圏まで行ったんじゃないか……
「どこ狙ってんのかなぁ?ゴーレム真ん前だろうがよ!って……⁈」
地上に還ってくる頃には1つの矢は概算でもミリオン:1億ぐらいに複製されてゴーレムを襲っていた。
「複製魔法だと……?あんなの降ってきたら避けられねぇし……不可抗力の暴挙じゃねーかよ……」
その頃、セミオート状態から解放されていた俺は目の前の幾万のクレーターとゴーレムの残骸を眺めていた。自分がやった感覚はある。なのに、俺は不敵でニヒルな笑みを浮かべていた……そうだ、黄金の目で。
「テメェ……」
気づいたら巨塔のようなソルジャーに凄まれていた。
「少し……バースト…しちゃ、いました……ねぇ……」
戦慄していい場面なのに変な意地が張ってそう言ってみたが、そこで俺の意識は途絶えた。
次に目を開けたときにはあのソルジャーに地面を引きずられていた。
「何すんですかぁ!」
「うっせぇ!……非力なフリしてあんな高等武器と魔法使いやがって……俺のギルドを潰しに来た回し者だろ!」
「回し者……?根拠もなしにそんなこと、だいたいさっきのアレだって体が勝手に……」
「もうちょいマシな嘘つけ!みっちりマスターにしごいてもらうからな……!」
こうして俺はモノ扱いされたままギルドなる場所に連れ込まれた。
「お前、名前は?」
建物内に入ってやたらと荘厳な雰囲気の人物の前に突き出されると、こう問われた。
名前……?頭に入ってこなかった。思いだそうとすると痛くなる。
「覚えて……ないです……」
「そんなわけ……」
「ミカエル、早まるな!記憶を覗けばすぐにわかる……」
そう言って男は俺の頭に手を当てる。
「どうやら、コイツの言葉に嘘偽りはないようだな……空っぽだ。」
「だ、だって!ペーペーにしては高等魔法使ってたし最近ギルドが狙われてたからぜってぇそうだって……」
「ないものはない!お前の思い過ごしなんだよ、いつものな!」
不満を口にしたミカエルだったがマスターに一蹴され口を噤んでしまった。
そして、俺の方に向き直り「よし、お前にプリュース・アザゼルの名を与えよう!そんで、アザゼル……お前をこのギルド【アーヴァンオリオン】に迎え入れる!」と高らかに言った。
その場がどよめくのがひしひしと伝わる。もちろんミカエルも表情の太々しさを濃くしていた。
「これからここがお前の家だ、気楽に過ごすといい。期待してるぞ、アザゼル!」
隊長はまるで子供に接するように俺を撫でた。その顔はとても満足げだった。
「ミカエル、お前も非難されっぱなしだと居た堪れんからアザゼルの相棒に任命する。お目付役だ、これなら好きなだけいびれるぞ。」
隊長はニヤついた。
「うぃーっす……」
「あのっ、ありがとうございます!」
「なに、気にすることじゃあない!お前の強さを見込んでのことだ、ミカエルの記憶で見てたぞ、アイツのことも、よろしく頼む。」
「はいっ!」
「何ボケっとしてんだよ、早く来い!」
「待ってくださいよ〜……」
「そのぉ〜、アレだ……決めつけて悪かった……」
ミカエルは不慣れでバツが悪そうに謝罪を口にする。
「いいです、しょうがないですから。でもどうしてまた?」
「俺ぁ、トチったら素直に認めんのだけは早ぇんだよ!しっかし、あんなもん見せつけられたらビビるわな…ガチで心当たりねぇの?」
「はい、なんとも……」
「それはよせ。敬語使われんのは慣れてねぇんだ、堅っ苦しいから。……タメでいい。」
「ありがとう……ミカエル。」
出会いこそ最悪だったけど、この人は根は悪くないんじゃないかと思えた。
「カフェ行こうぜ、腹減った。」
「うん……」
ゲートを潜ると、背の低い白衣を着た少年が駆け寄ってきた。
「まぁためんどくせぇのが……」
「これまたびっくり!マンモスサンド食べてたらうっかり新兵さんに会っちゃいました!」
「新兵って俺?」
「コイツ耳だけは早いんだよ、変人だから関わんねぇ方がいい……」
「ちょうど新しい筋肉創造役ができたんです、出血大サービスで新兵さんには2本あげちゃいます!いっくら強くてもその体じゃやってけませんからね!」
白衣の少年:バイラル(襟元に刺繍してあった)は聞く耳を持たず飛び跳ねていた。
「これを飲めば立ち所に筋肉量増えますよ〜!ひょっとしたらミカエルみたいな怪物になっちゃうかもですが……」
「うっせぇな、チビ!」
カウンターに出された赤い瓶をまじまじと見つめる。
確かにミカエルを見ればこの体で務まらないのは明白だった。
「痛い……!」
2本一気に飲んだせいだろうか、全身に鋭い痛みが走った。
「痛みは一瞬ですから♪」
「うわぁ……!」
痛みが収まって手を見ると以前の2倍ぐらいに張っていた。バイラルに姿見を出してもらい見てみると量こそ違えど体付きはミカエルに近いものになっており兄弟的な風貌になっていた。
「マジか……」
声も若干、いや誰かはわかるが大分低くなった気がする。
「おお、たまにはバイラルもいい仕事すんじゃねぇか見違えたな。」
「めちゃかっこいいです、アザゼルさん!」
「服破れてる……」
「あぁ、新しいの着なきゃですね……」
「オレの古でよかったらやる。」
「そうしてくれると助かる……」
しばらく談笑していると誰かがやってきた。
「何やら騒がしいと思ったら、ニューフェイスが来てたのね。少し遠征してる間に……」
現れた美麗な顔立ちの女性は俺の対極に座った。
「アネッタさん!アザゼルさんはすごいんですよ、ゴーレムの大群を一人でやっつけたんですって!」
「知ってる、さっきマスターに記憶見せてもらった。またミカエルが早とちりしたんでしょ?」
「うっせぇな……袋叩きにしやがって……」
「アザゼルくん、私はアネッタ。貴方と同じソルジャーよ、よろしく。」
「よろしく……」
「じゃあ、私行くとこあるから。」
そう言い残してアネッタはカフェを後にした。
「オレたちもそろそろ寝るかぁ……長居はよくねぇしな!」
そう言われてみれば窓の中には黄色い月が輝いていた。
「アザゼルは、オレと同じ部屋でいいよな。」
「うん。」
「それじゃ、おやすみなさいです!」
「色々あったけどこれからよろしくな、アザゼル!」
「もちろん。よろしく、ミカエル!」
寮へ続く道の中俺たち【兄弟】は硬く握手を交わした。
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「しかし、あれだけ強い逸材がいたとはなぁ、アネッタもそう思うだろう?」
「えぇ、これでこのギルドも栄えるでしょう。」
「なんの騒ぎかと思えば……で、用とは何です、マスター直々にとは珍しい。」
「あらゴーネン、帰って来てたなら連絡よこしなさいよ。」
「おれだって、お前が思うように暇じゃないんだ。察せ。」
「相変わらずクールねぇ。」
「でもって、ゴーネンとアネッタに頼みたいのはあの新兵ことだ。アイツは、1STPAIに見初められた可能性がある。」
「1STPAI……あのガネス・パーキンソンが宿したと言われる【闘神の加護】ですか。」
「そうだ、記憶が全忘している・戦い方を無意識に会得している・本人に発動した意思がない…これらはパーキンソンと全て合致する。まず、それと見て間違いはないだろう。」
「しかし、伝承とされたそれが何故……」
「問題はそこだ。アザゼルに誰が、あるいは何が1STPAIを宿らせたのか……パーキンソンの直筆の書によると先天性の加護ではないらしい。必ず、彼を受容者と見定めた奴がいる。アザゼルを支えながら、それを探って欲しい。」
「「了解」」
「何はともあれアザゼルは我がギルドの先引者になるぞ、これは楽しみだ!」
黄色い月が踊る中、夜は更けていった。
プリュース・アザゼル
High:176→187cm
Weight:63→102kg
ヴァンセーヌ・ミカエル
High:250cm
Weight:305kg