表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/48

まさか、こんなところで、お目にかかれるとはな

「さぁ、今日、ここで最も優秀な魔法使いが決まる!! ザンクト・ガレン魔法学園が主催する魔法大会!! 栄華を誇る美しき武闘が、幕を開けようとしているぞっ!!」

 

 やかましい司会者の拡張された声量を受けて、学園生たちの歓声が上がる。


 どうやら、『声よ、響き渡れ』の現術書素ワードレターを書き込んで、学園中にまで響き渡るほどの大音声を実現しているらしい。


 学園の中に設置された円形闘技場アンティアトルム(なんで、こんなものが、学園の中に?)には、大勢の学生や教員たちが押しかけ、菓子や飲み物を片手に選手たちを見下ろしている。


 階段上に構築された観客席……取り巻きの男たちに囲まれた第三の魔王(サード)は、妖艶ようえんと微笑んでいた。


「ルールは簡単!! 32人のトーナメント戦で、一対一だ!! 魔法で相手をぶちのめせば勝利!! さすがに殺しはダメだが、この闘技バトルに教義も理念もいらない!! 暴力の陶酔に浸りきり、勝利の美酒に酔いしれろ!!」


 正気とは思えない、学園主催の武闘会。これもまた、お約束だな。大抵は、主人公の独壇場で終わる(ラノベ方式)。


「さぁ、早速、始めよう!!

 第一回戦!! イケメン転校生シキ(VS)糸目のセロだーっ!!」

 

 お約束の効力によって参加を余儀なくされた俺の前、異様なくらいに目を細めた男子生徒が現れる。


「やれやれ、僕は、あまり暴力は好まないんですがね」


 糸目のセロは、ぽりぽりと頬を掻きながら言った。


「ですが、仕方ありません……解放、させて頂きますよ」

『解放、だと……!?』

「ハァア……!」


 目を見開いた彼は、現術書素ワードレターを書き込んで、オリジナル魔法らしき謎の毒々しい魔力の塊を作り上げる。


「これが、僕のチカラ……地獄の門番(ゲート・キーパー)


 見届けた俺は観客席によじ登って、メイド服姿の第二の魔王(セカンド)を見つける。腕を組んだ後に横に立ち、そっとささやきかけた。


地獄の門番(ゲート・キーパー)……聞いたことがあるな』

「えっ!? 知っているんですか!?」

『あぁ、アレは、かつて封印され禁則処理された伝説の魔法。魔法を発動させた主の命に従って、まるで地獄の門番のように、敵対者の悪を嗅ぎ取り業火の罰則を与える』


 俺は、目を細める。


『まさか、こんなところで、お目にかかれるとはな……あの少年、シキとか言ったか……まず、勝ち目はない……』

「そ、そんな……師匠……!」


 俺がシキを語っている。とんでもない自作自演マッチポンプであるが、お約束と誓約(フラグ・エンゲージ)の力によって違和感は消失していた。


 仕込みは終わったので、闘技場に下り立って適当に構える。


「覚悟はできましたか? 行きますよ、喰らえっ!!」


 放たれる魔法、引き寄せてからつぶやく。


『……後ろだ』


 視界がブレる――と同時、セロの背後に俺は立っていた。


「なっ……!」


 振り向いた瞬間、頸動脈を指先で押さえ込み失神させる。


 数秒の静寂――爆発的、巻き起こる大歓声。俺は、イケメン転校生らしく振る舞い、愛想よく、笑顔で手を振って応える。


 一度、控室に戻ろうとして廊下に出ると、謎の覆面をかぶった三人組がこちらを見据えていた。


「…………」

「…………」

「…………」


 少年漫画のお約束、謎の覆面選手枠だったが、三編みとメガネがはみ出ているので、誰なのかはひと目で丸わかりだった。


「……Ⅰ号からⅢ号、なんで、お前ら参加してる?」

「ハッハッハッハッ!! 誰のことを言っているのか、まったくもって、さっぱりわからないな! 君の愉快な勘違いだ!!」


 Ⅰ号のヤツ、戦闘モードに入ってるな。本気とは、正気か?


「フッフッフッ。果たして、この謎のシエラに勝てますかね。フッフッフッ」


 名前、言っちゃってるし。


「バカ! シエラ、なんで自分の名前、言っちゃうのよ! エフィは『謎の覆面Ⅰ号』、シエラは『謎の覆面Ⅱ号』、わたしことレイラは『謎の覆面Ⅲ号』って呼び合うことにしようって言ったでしょ!!」


 全部、答え合わせしてくれるな……なんなんだ、コイツら……謎の覆面選手の正体は、終盤まで明かされないのがお約束だぞ……


「ハーハッハッハッ! 先程の戦いぶりは、見事だったねシキとやら! だが、我々、謎の覆面三人組には及ばない!!」

「フッフッフッ。この謎のシエラとの胸躍る戦いに震えるといいですよ。フッフッフッ」

「オーホッホッホ! 本当にイケメンね、目が潰れそう!! でも、顔がいいからって、手加減してもらえるとは思ってもいいわよ!! オーホッホッホ!!」


 せめて、笑い方を統一しろ。


 あまりにもムカついたので、勇者三人組は秒で撃破してトーナメント戦を勝ち進み、決勝戦で前回優勝者と戦うことになった。


「よく勝ち進んだな、転校生……だが、オマエに勝ち目はないぞ……?」

『果たして、そうかな?』


 俺は、適当にかき集めた勝利者の証(バッチ)を見せつける。


 その瞬間、会場がざわついて『は、はや……!?』で加速した俺は、会場に『アレは、魔法大会優勝者の証!?』とか『一、二、三……か、数え切れねぇ!? 何者だアイツは!?』とかささやきかける。


 数秒後、前回優勝者は、見事なまでのかませとなっていた。


『改めて自己紹介しようか……僕は、優勝者チャンピオンのシキ……前年度に引っ越ししたせいで、去年だけは参加できなくてね』

「な、う、嘘をつく――」

『……小指かな?』

「な、なに?」


 不敵に微笑んだ俺は、自身の小指を見せつける。


ハンデだよ。君は弱そうだから、小指だけで戦ってあげるね』

「なっ……き、貴様ぁ……!」


 激昂げっこうした前回優勝者は、にべもなく襲いかかってくる。


 正鵠無比せいこくむひな一撃、俺の胸の中心を捉え、彼はニヤリとした笑いを浮かべ――あくびをすると、彼の表情筋が凍りつく。


『……季節外れのか?』


 薬指で、彼の胸の中心をく。


 観客席にまで吹き飛んだ彼は、座席を破壊しながら突き進み、至るところで悲鳴が上がって、もうもうと巻き起こった砂煙が晴れ渡り――倒れ伏した、敗北者が現れる。


 呆然と、観客たちは俺を見つめた。


『困ったな』


 俺は、肩を竦める。


『間違えて、薬指を使っちゃいました』


 過剰なお約束成分の摂取ドーピングによって、見物客たちの興奮は熱を帯び、大いに盛り上がって喝采を叫んだ。


 こうして、唐突に始まった魔法大会は、あっという間に、俺の勝利で幕を下ろした(俺は、魔法なんて、一度も使ってないのに)。イケメン転校生としての俺の株は、この出来事を契機に異常なまでの暴騰ぼうとうを見せて、“俺の価値(シキ)”は最大限にまで高まる。


「シキ様」


 そして――


第三の魔王(サード)様がお呼びです」


 獲物サードが、猟師オレを呼び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ