こうして、世界は平和になりまししししししししししししししししししししししししししししし
「シキッ!!」
涙を浮かべた第三の魔王が、俺に抱きついてくる。
「ママ……病気、治ったって……もう元気なんだって……お医者さんがね『こんな不思議なこともあるのか』って驚いてたって……」
「……そうか」
お約束の効力によって征伐騎士団が引き上げて、安穏を取り戻したザンクト・ガレン魔法学園。校長に呼び出されていた第三の魔王は、母親の病の完治を聞き、心から喜んでいた。
「えっと、その、一件落着です、ね」
いつの間にか、横に並んでいたⅠ号がそっとつぶやく。
「前々からシエラ思ってましたが、やっぱり、シキさんが真の勇者だったんですか。驚きでした。我々の計画通り……クックックッ……ってヤツですか。正体を隠して善を為すなんて格好いいじゃないですか」
「俺は、ただの村人Aだ」
そっけなくⅡ号に言い放つと、ひょっこりと出てきたⅢ号が腕を組んでくる。
「でもでもぉ! やっぱり、シキって、誰でも助けちゃうのね! 私たちなんかよりも、よっぽど勇者らしいわ! 素敵! お約束の効力が切れたとしても、本当に真の勇者様のままなんじゃない!?」
「んなわけないだろ」
そんなことを言いつつ、俺は思い出している。
――だーいじょうぶ! 善い行いは神様もわたしも視てる! だから、シキは、立派な善人になりなさい!
もしかしたら、俺は、あのお約束を果たせたのかもしれない。
こんなダメな俺であろうとも、こんな能力をもった俺であろうとも、こんな諦めを抱いた俺であろうとも――善人になれるのかもしれない。
「か、帰ったら、ボードゲームをやりましょう。あの、その、学園の寮で、三人で夜中にこっそりプレイしてて」
「フッフッフッ、今のシエラたちを以前のシエラたちだとは思わないことですね」
「だーいぶ、私たち、強くなったんだから! もうシキなんて敵わないかもしれないわよ! もともと、敵ってなかったけどね!」
「なぁに、ボードゲームって? シキ、なにそれ? おしえて?」
勇者と魔王と並んで、夕暮れの中を歩く。
大魔王の復活という懸念要素さえなければ、これでお約束、ゆるやかでしあわせな世界が待っている。
――大魔王は、最期に現れる魔王である。魔王たちが役割を終えた後、この世に下り立つであろう。これ以降、世界に脅威が現れることはない
「……後は、大魔王だ」
そうだ。大魔王。大魔王さえ倒せば。
――だいじょうぶ! シキならなれる! ただの村人Aだって、勇者様の力になって、この世界を救えるんだよ!
俺は。
――勇者しか世界を救えないなんて、そんなお約束はありえないんだからっ!
もう一度。
もう一度、だけ。
もう一度だけ、やり直してみせ――紅色の世界に、魔王が立っていた。
「……大魔王?」
俺の発言に、勇者たちが武器を構えて応えた。
『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ《Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate》』と刻まれた学園の門の前、一切の表情を失くした第二の魔王は、スカートをはためかせながら佇立する。
闇が迫る。
夜の不穏、宵闇が世界を侵食していき、禍々しい赤がすべてを覆い尽くす。真っ赤に染まり上がった門前は、大口ひらいた赤口のようにしか視えなくて、地獄へと続く死路を思わせた。
「まさか……お前が……大魔王なのか……?」
一迅の風が吹き、髪をなびかせ――第二の魔王は微笑む。
「お迎えに上がりました」
「どういう意――」
ふらりと、誘われるかのようにして、第三の魔王は第二の魔王の元へと歩み寄る。
門の両脇、挟み込むようにして、ふたりの魔王は並び立つ。
そして、同時に言った。
「お迎えに」
彼女たちは、紅色の唇を割り開く。
「上がりました」
その瞬間――すべてが、はじけた。




