表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/48

三編みとメガネを外したら美少女

「「「大魔王の復活ぅ!?」」」


 手紙で校舎裏に呼び出されるというお約束を用いて、勇者たちを呼び出した俺は、絶対に誰の邪魔も入らない状況で報告する。


「正直言って、らちが明かない。このまま際限なく魔王が湧くようであれば、俺であろうともいつかは敗けかねないからな」

「あの、その、えっと、それって、どうすればいいんでしょうか……」

「今直ぐ、俺が隠居するのがベストだろうな」


 三人は顔を見合わせ、俺はため息をく。


「なぜ、そこまで俺に固執するんだよ。わけがわからない。所詮しょせん、金でつながった雇い主と労働者の関係性だろう?」

「逆にシエラからご質問を返却リターンしますが、なぜに、シエラたちを助けようなんて思ったんですか?」


 ――だーいじょうぶ! 善い行いは神様もわたしも視てる! だから、シキは、立派な善人になりなさい!


 ……いや、もう、あんな言葉を思い出す必要はない。神が善悪を判別するなんて戯言ざれごと、とうの昔に虚偽だと立証されている。


「あのね、シキ」


 会うなり、鼻血をだらだら流し続けていたⅢ号は、大真面目な顔でささやく。


「わたしたちは、あんたが真の勇者だっていうことを、皆に知らしめてやりたいのよ。その格好いい顔も含めて、わたしたちを助けてくれたあんたが、世界を救った善人だって言いふらしたいの」

「……善人、ね」


 思わず、鼻で笑う。


「俺がやってきたことを知れば、そんな戯言たわごと、ほざけなくなるさ」

「な、なんで、そんなに拒むんですか……」


 ぎゅっと拳を握り締めたⅠ号に対して、優しく微笑みかける。


「村人Aが、勇者の仲間になることなんてない――お約束だ」


 彼女は、震える足で、一歩踏み出して――


「で、でも、だとしても……」


 前髪の隙間から、蒼い瞳で俺を射抜く。


「ともだちには、なれるんじゃないですか……?」

「おしゃべりは終わりだ」


 手を打ち鳴らし、強制的に話の流れを変える。三人組はまだこの無駄な時間を過ごしたかったようだが、お約束の効力によって場の雰囲気が一変する。


第三の魔王(サード)には、戦闘の意思表示はない。戦闘能力に関しても、脅威には至らないだろう。

 だから、お前らが殺せ」

「いやです」


 Ⅱ号は、どこを視ているんだかわからない半目で言った。


「いやです」


 協調するかのように、Ⅰ号とⅢ号が頷く。


「状況を理解してるか? 大魔王の復活を目論んでいる以上、第二の魔王(セカンド)第三の魔王(サード)も生かしておくわけにはいかなくなった。女王蜂を殺すためには、巣を破壊して、そもそも生まれさせなければいいだけの話だ」

「お約束通りなら、殺したところで、大魔王は絶対に復活するわよ。あたし、そのパターンで、復活しなかった場合なんて視たことないもの」

「だとしても、みっつの魔王よりは、ひとつの大魔王だ。アイツらがいつまでも大人しくしている保証なんて、どこにも有りはしない」

「ですが――」


 俺は、反論しようとしたⅡ号の頭を掴む。


「魔王は勇者の手で倒される……この世界のお約束だ」


 『勇者様、魔王がこの学園で復活しました!!』とでも言って、この学園を魔王城に見立てれば、この三人は間違いなくお約束と誓約(フラグ・エンゲージ)によって、あの魔王ガキを殺すだろう。


 後は油断しきっている第二の魔王(セカンド)を無力化して、同じようにして首をねさせれば終わりだ。大魔王復活までの間の有力性アドバンテージを確保できる上、復活阻止のチャンスもある。


『…………』


 俺は正しい。俺は正しい筈だ。


『…………』


 俺は正しい筈なのに――なんで、コイツらは、信じ切ったような顔で間違ってるんだ。正反対が正解だと言わんばかりに、俺が言わないと思い込んでるみたいに、そんな風に笑ってられるんだ。


『…………』


 ――ココは、はじまりの村です……ココは、はじまりの村です……


 繰り返すな。


『…………っ』


 ――ココは、はじまりの村です……ココは、はじまりの村です……


 繰り返すなよ、シキ。


『…………っ!』


 ――ココは、はじまりの村です……ココは、はじまりの村です……


 俺は、早く、終わらせるべきなんだ。こんなところ、いちゃいけないんだ。


 なのに、なんで――俺が手を離すと、Ⅱ号はニッコリと微笑んだ。


 そして。


「よくできました」


 つま先立ちをして、俺の額にそっとキスをする。


「……殺すぞ」

「はいはい、よしよし」


 ぴょんぴょん跳ねながら頭を撫でてきて、その手を振り払った拍子に、三編みとメガネがとれて美しい顔立ちが露わになる。


「しまりました。シエラが美少女であることが、白日の下に露出プレイされました。いやん」

「ずるい!!」


 駆け寄ってきたⅢ号に足払いをかけると、三編みとメガネが吹き飛んで、太ももを晒した彼女は色気のある声で「あっ……」とささやく。


「こ、転んだせいで、実は美少女であることがバレてしまったわ!! 困ったわね!! シキがわたしに惚れちゃう!! 式場はどこでもいいから!!」

「あ、あの、えっと」


 お約束が、連鎖している……呆れながらもⅠ号に目線をやると、彼女はおずおずと三編みメガネを外す。


「……じ、じつは、び、美少女でしたぁ」


 首元まで真っ赤になった彼女を、じっと見つめる。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「あ、死にますね」


 躊躇ちゅうちょなく切腹しようとしたⅠ号を、Ⅱ号とⅢ号が羽交い締めにする。抜剣したⅠ号が戦闘モードになったせいか、二対一にも関わらず、なかなか良い勝負になっているようだ。


 見学していると、Ⅲ号が急に顔を上げる。


「あ、そうだった」


 彼女がなにかを思い出した瞬間、全員の目の色が変じて――


「「「ずっと前から、好きでした」」」


 手紙の内容通り、校舎裏で告白してくる。


「……今更、発動するのかよ」


 時間差で発動したお約束を受け止めた俺は、イケメン転校生らしく『ごめんね……僕、好きな人がいるから……』と断りを入れて歩き出す。


 大魔王の復活が阻止できないにせよ、やるべきことがひとつだけあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず不穏(笑) 伏線だらけのお話って好きですよ。 [一言] ついでに女性の扱いが悪いのも恒例の空気感。 かわいそう。(´・ω・`) ヤンデレメーカーの資質を感じますねぇ。
2019/11/07 16:03 退会済み
管理
[一言]  ――だーいじょうぶ! 善い行いは神様もわたしも視てる! だから、シキは、立派な善人になりなさい! ……不安しかない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ