×××の
「僕はひとごろしなんです。
この世界に必要のない存在だと、両親は教えてくれました。
必要とされる人間は、人を殺さずに憎まず愛し愛され続けた人だよ
と。
それ以外は人間じゃないんだよ
と。
なので僕は死ぬべきなんです。」
子供はそう言い、下を向いた
「……それが君の証言でいいんだね?」
三角座りをした子供にスーツ姿の男は尋ねる
子供の応答はない
いかにも興味がないことをみせつけ、何も無い床をみつめる
「そうか、わかった。」
諦めがついたのか、男は床につけていた右膝を浮かせ、すっとたちあがった
「あいつにまわしてくれ。」
男はサラサラとA 4のコピー用紙に文字を書き、
部下に渡す
「え……は、はい」
なよなよとした部下は戸惑いの表情を一瞬見せたが、すぐ受け取り部屋から出ていった
というのも、この部屋には同じ警官が10人はいるためだ
出ていく時、重厚な扉がアンティーク特有の深みを光で見せつけながら
ぎぃいぃぃいい
と音を立てて閉じていく
「さて、×××くん。」
男はもう一度座り直したが、さっきとは違い子供のように三角座りをした
それを見た警官達は、すっと部屋をあとにした
まもなく、さっきの部下がまたこの部屋に戻ってきて
なにかプレートのようなものを彼に渡し、すたすたと出ていったので、
スーツ姿の男と子供だけになった
人の減った部屋はさっきよりも涼しく、
しんと沈まり返った部屋は、どこか別世界のように感じる
「私は朝霧一茂だ。」
「そうですか。」
朝霧は鉄の棒の隙間をぬって子供に手を差し出したが、子供はチラリと見ただけで、しっかりと膝の上で組まれた手はひとつも動かなかった
代わりにひとつ返事をした
「そして君は、誰か分かるかい?」
子供は疑問を抱いた
今この場で、その質問に意味があるとは思えないと
「今なんの関係が」
「君は今日からコレだ」
朝霧は、さっきのプレートの印刷部分を子供に見せた
「……あきやま、みつ、る?」
子供は目を見開き、そのプレートに書かれた筆記体のローマ字を読み上げた
目に見えて状況が掴めていない様子だった
「そうだ」
ガシャン
子供が朝霧に向かって、殴り掛かる勢いで鉄の棒を掴んだ音が部屋中に響く
部屋と言っても、6畳は無い
音のことなどはお構いなしに子供は喋った
「何言ってんのおっさん」
秋山充を囲む部屋はかつて黒く染められていた
だがそこを出入りするにんげんが人間でないことが酷く作用して壁は黒く固まった血で汚らしく覆われている。
また老朽化のためか、かび臭い
ひかりが入るのは、鉄の棒で遮られた1面だけで
部屋の端は暗い
そこで×××は、僕は、
―秋山充になった。