後編
めっちゃ飛んでます
シールドマグナの管理者であるルドルグは、好きな女神の半身だけを愛した。わたしと同じなのに同じじゃない、けれど元の魂は一つなのに、わたしを認めないもう一人の女神を口説きに口説いて、あれよあれよと新婚ランデブーにいそしんだ。
わたしを踏み台にしやがってルドルグ許さんと、奴を殴ろうとしたらおぞ気が背筋を這い上がる。管理者の絶対的な家が、地震のようにガタガタ震える。管理者用の便利パソコンが傾き、横にあるマグカップからコーヒーがこぼれ出そうになった。
『わたしの女神、やっと見つけた』
ひたり、と足が床につく。それでも見上げれば長身で、ルドルグよりも身長が高そうだ。熱を込めた眼差しはわたしを一身に見て、とろけるような微笑みで男の怖さを無くさせようとしてくれる。シールドマグナの管理者として、拭いとれない恐怖がなければとびつきたくなる美形なのに――
『あなたは、誰?』
『ここより違う世界の管理者、ヨルグンベルド。さぁ、わたしの花嫁になってくれ。ただ一言、はいと頷いてほしい』
ふわふわとどこか掴みどころのない言動なのに、琥珀色の瞳は一切ゆるがない。上等そうな服の生地を見て、ミートソースのソースが飛び跳ねたら現代ではクリーニングかなどと思いつつ。
差し出された手がまっすぐこちらに向けられて、大きな手のひらに触れたくなってしまう。ふらふらと彼に近づいていこうとすると、成長したチートマータのリクに止めらてしまった。
『ミナ様は身体心すこやかに、これからもこの、チートマータのリクが蝶よ花よと愛でるので、あなた様の出番は無きに等しいです。お引き取り願います』
『ただの木偶人形が我に意見するか……粉々にしてくれようか』
リクを壊すなんてとんでもない。
正気に戻ったわたしは、首をぶんぶん振った。
『ま、ま、待ってください!リクを壊さないで、お願いします』
『愛しの女神に請われれば、その願い叶えずにいられようか……かわりに、わが手に委ねてはいただけないだろうか』
『ミナ様はわたしの女神です。あなたには渡しません』
『木偶が……』
女神の半身で覚醒済みなのに、シールドマグナの管理者なのに。なぜ逆ハーにならないのか。下手したらリクが壊されてしまう。そこで気づいてしまった。もう一人の管理者、ルドルグがわたしに対しての逆ハースキルを削除したことを――
『リクとヨルさまケンカしないでください。わたし、逆ハー防止のスキルを暴食しますね』
二人の呆気にとられた表情を眺めながら、自分の中にある戒めを引きずり出し、むしゃむしゃと食べつくす。ピンク色の鎖がわたしの胃袋に収められていく。こんなもの、こんなものと、筆舌に尽くしがたい思いをしながら完食すると、二人は苦しそうに見悶えていた。
しばらく二人は無言でいると、ゆらりと立ち上がる。
そして、こちらを見てつぶやいた。
『ミナ様、これからわたしたちと愛の巣で過ごしましょうね』
『もうお前を離すことはしない、永久に愛し合おう、わたしの女神』
ルドルグに勝ったと、高笑いしたくなった。
わたしは、逆ハーを取り戻したのである。
****
シールドマグナの管理者とヨルグンベルドの管理者がいれば、世界を股にかけて冒険だってできる。そう思ってウキウキワクワクしていると、両手足に鎖を付けられた。
『リク、ヨル?』
『どこへ行こうとするの、ミナ様』
『わたしたちから逃れようとしてもそうはいかない。今度こそ、あなたはわたしたちの世界の中で幸せに暮らすのだから』
なぜ女神はわたしたち二人を分けたのか。
なぜわたしは、彼らから監禁されているのか。
二人に愛されながら、わたしは管理者エンドを迎えてしまった。
***
ルドルグはシールドマグナの出来事を、簡易テレビで様子を見ながらあさっての方向を眺めた。
「ミナは逆ハースキルを復活させたのか――バカだな、我がせっかくバッドエンドなるものを予見回避してやったのに」
「ルド……」
「大丈夫だよ、ミナは死なん。ただ、うっとうしいだけのバカ二人に重苦しい愛を押し付けられるだけだ……たぶん」
麗しいこの世界の始祖管理者・ミイナに口づけを落とす。自分で言っててなんだが、ミイナに愛を押し付けてはいやしないかと不安に駆られる。
「わたしがここから出たいって思わなければミナは出来なかったの……許して、ミナ」
「あの二人から逃れるには、ミナがミイナのようにもう一人魂を作らねばならん。だがあやつの能力はそこまで高まってはいないのだろうな」
「もしミナがわたしのようにもう一人魂を分離させたとなると、二人によって世界は一度崩れ落ちてしまいます……そんなこと、ミナには出来ない……でもわたしは出来た、なぜなら私は」
重ねられた手に、ミイナは頬ずりする。
「ルドルグを愛してしまった。チートマータのルドルグ、こんなわたしを、あなたは軽蔑しますか?」
今にも泣き出しそうな声音に、ルドルグはミイナの手を一層強く握りしめた。
「我は一人しか要らない。ミナよりミイナを選んでしまった。こんな我を、ミイナは軽蔑するのか?」
ミイナの潤んだ瞳から涙がこぼれた。
「……しない……好きなの、ルドルグ……あなたが好き……」
「我もだ。ミイナ、愛してる」
***
しばらくすると現実世界のメールボックスにメールと一枚の画像が添付されていた。
「家城ミナの借金一千万は完済。不慮の事故により、この世界は閉じます。ありがとうございました」
母への想いを長文で書き連ねている。
それを見た母は絶句した。
この世界での冷蔵庫が繋がっているということも閉じられた。
ミナの好物が減っていくことにひそかな楽しみを覚えていたからこそ、彼女は正気を保てていたのだが。
「ミナが幸せなら良いのだけど」
「この二人男前過ぎるのに、ねーちゃんぜんぜん笑ってないね」
エンド
完結作品欲しさの為に飛ばしに飛ばしちゃいました