第1話*2
「悪魔?」
放課後、華美は隣のクラスの神崎しのぶと、帰路を辿っていた。
クラスの団体を除くと、華美にとって唯一友人と呼べるのはしのぶだけだった。
…団体を友人と呼んでいいのかどうかも甚だ疑問ではあるが。
ともかく、授業を終え、隣までしのぶを迎えに行き、いつものように帰り道を歩きながら、さっき聞いた(というより無理やり耳に入ってきた)噂話とやらを話してあげた。
「そ。悪魔が姿見の中から出てきて願いを一つ叶えてくれるんだって」
「…ほんと?」
「いや、ほんとかどうかあたしに聞かれてもね。噂になるくらいなんだから誰か実践でもしたんじゃない?」
返答に困って適当なことを言ってしまったが
「そうなんだぁ…」
信じたのか信じてないのか、しのぶは朗らかに笑って頷いた。
「まぁ、根拠がないけどね。そんな話。映画やアニメじゃあるまいし」
ありえないでしょ、と華美は言葉を続ける。
実際にそんなことがあったら、好き勝手し放題、やりたい放題で間違いなく日本壊滅だ。
願いを叶えた悪魔とやらもお役ごめんといったところか。
「ある言葉って?」
「ん?んー…なんつったっけな……」
聞こえていたはずなのに、覚えてない。
あの後すぐに鐘が鳴ったので、慌しくしているうちに忘れてしまったんだろうか。
「…なんかの拍子にふと思い出したら、言うわ。しばらくは期待しないで」
十字路でしのぶと別れ、家の鍵を開けて中へ入る。
17時をまわってそろそろ暗くなり始めたというのに、家の中は電気一つ点いていない。
華美にとってはこれが日常で、変わることのない日々のサイクル。
母親はここから少し離れた病院に勤務していて、華美が起きている間に帰ってくることはあまりない。
仕事柄というか立場上というか、その辺は華美は理解しているつもりだ。
理解しているつもりでも、頭では追いつかない時は まま、あるが。
リビングのテーブルの上には、昼間誰か客でも来たのか、二人分のコーヒーカップが出しっぱなしになっていた。
「片付けないんだからもう…」
まとめてシンクへ追いやり、一息つく。
元来物臭な母は、何かと理由をつけては華美に家事を押し付けていた。
はなよめしゅぎょう だの何だの。
あれでよく職場での仕事が勤まるな、と、心底不思議に思う。
実際上手くいってるかどうかは本人にしかわからないが。
2階の自分の部屋へ引き上げ、勢いよくベッドに飛び込んだ。
体が空腹を訴えてきた気もするが、今は食事をする気分じゃなかった。
ただ単に作るのが面倒なのと、冷蔵庫の中がカラッポだった場合、今からスーパーへ出向かなきゃいけないからだ。
窓の外はますます影を落としてきた。
雨もいつ降ってくるかわからない中、外へ出るなんてごめんだ。
「一食ぐらい抜いたってへーき…」
そう呟いて、枕に顔をうずめた。
制服のまま寝るのは抵抗があったが、一度働き始めた眠気はあっという間に意識を喰らい尽くし、やがて落ちていった。