第3章 黒い疑惑
クジョウ首相の第一秘書官マオー氏の孫・ダイへの襲撃未遂事件後。
セイヤが入院してしまったので、ジャンとリサのほか、ダイの警護にはグレドが加わった。
ゴンザレ、アザーレ、フィオはそのままヤハー氏の孫に張りつき、特命チームは任務続行中だった。
それから4日後――選挙まで残り10日という今日、トウア公共放送局第一スタジオで党首討論会が行われ、生放送されていた。
眩しいライトの下、横長テーブルに並んだクジョウ首相始め各党の党首らが、党の選挙公約をアピールし、党としての主張をし、討論に移ろうという時だった。
「ちょっといいですか」
共和党党首が手を挙げた。いかにも押しの強そうな恰幅のいい壮年の男性だ。
勝手に話を始めた共和党党首を、司会者は止めさせようとしたが、その驚きの内容に思わず口をつぐんでしまった。
共和党党首の話はこうだった。
「公に報道はされませんでしたが、4日前にクジョウ首相の第一秘書官マオー氏のお孫さんへの襲撃未遂事件があり、警備に当たっていた治安部隊隊員が負傷したという情報を手に入れました。また同じ時期、民主平和党・副首相のヤハー氏もお孫さんのことで脅迫を受け、そちらも治安部隊が密かに警備に当たってました。クジョウ首相はこのことをご存知でしたか?」
いきなりの質問にクジョウ首相はうろたえたように言葉を飲み込む。
共和党党首はさらにたたみかける。
「いかがですか、首相」
「どこからそんな情報を……」
「そうお答えするということは知っていたんですね。選挙前の微妙な時期です。そのような脅迫を受ければマオー氏もヤハー氏も、当然、首相に相談されたことでしょう」
「……」
共和党党首は、応えない首相から視線を逸らさず、さらに追及していく。
「こういう情報もあります。これまでに西地区、北地区、東地区で子どもが殺害されましたが、その殺害方法から同一犯の可能性が考えられる事件が3件起きましたね。その被害者とマオー氏とヤハー氏のお孫さんに共通点があることを我々は突き止めてます」
クジョウ首相は何も言葉を発することなかった。しかしその細面の上品な顔は蒼白で強張り、大量の冷や汗を額ににじませている。その尋常ではない様子を、テレビカメラはズームし余すところなく撮っていた。
「その共通点とは何でしょう。首相はご存知ではありませんか?」
「……」
クジョウ首相は固まったままだ。
「何なのですか? ぜひ教えてください」
国民党党首が話に入ってきた。ほかの党首たちも同調するように頷き合う。
「それを公にすることはプライバシーの侵害にあたります」
やっとクジョウ首相が重い声を上げた。
「いいえ、これは公共性の高い情報であり、公にすべき内容です。すでに3名の子どもが殺害され、脅迫を受けたマオー氏のお孫さんも襲われかけたんですよ。国民も不安でしょう。被害者に共通点があるのであれば広く知らせるべきです。その共通点に当てはまる人は警戒することで、被害にあわずに済むかもしれません」
共和党党首は、ほかの党首らに同意を求めるかのように粘つく視線を流す。
「そうですね。そんな情報があるなら明らかにするべきです」
野党である党首らも共和党党首に賛同の意を示した。
しかしクジョウ首相も負けていなかった。
「今、議論すべきことではありません。番組の主旨からも外れてます。この国をどう導くか、外交、防衛、社会保障、経済などテーマに沿って問題点、解決策を議論するべきです」
「いえ、重要な問題です。子どもの命の問題ですから」
「個人の犯罪の問題です。全く関係ありません」
共和党党首とクジョウ首相の応酬が続くものの、ほかの人には何のことだか全く話が見えていない。視聴者にもワケが分からないだろう。
ついに司会者は共和党党首へ質問をした。
「つまり被害者の共通点とは何ですか?」
待ってましたとばかりに、共和党党首は答える。
「それは8年前の同じ時期に、シベリカ国で心臓移植手術を受けていたという点です」
「え? 三人の被害者も、そのマオー氏とヤハー氏のお孫さんもシベリカ国で同じ時期に心臓移植を受けていると?」
ほかの党の党首たちも確認するように訊いてきた。
「そうです。では、なぜシベリカで心臓移植を受けたことで、脅迫されたり、殺されるような恨みを買ったのでしょうか。以前よりシベリカ国で人身売買や臓器売買が行われている疑惑があることをご存じの方、いらっしゃいますよね。週刊誌でも話題になったことがあります。この臓器売買と関係あるのではないでしょうか」
勝ち誇った顔で共和党党首は他党の党首らを見回し、挑発するようにクジョウ首相のところで視線を止めた。
「証拠もなく憶測で言うべきことではありません。正当に移植を受けている方もたくさんいらっしゃいます」
クジョウ首相が批判したが、共和党党首はここぞとばかりに問い詰め、推測を述べる。
「ならば、なぜシベリカで心臓移植を受けたことが隠されるんです? 後ろめたいから隠すのではないですか? クジョウ首相、あなたはそのことを知っているからこそ、この問題が公にならないよう、極秘扱いにしてマオー氏とヤハー氏のお孫さんに警護をつけるように治安局に指示されたのではありませんか? 何しろ大事な選挙前ですからね。マオー氏とヤハー氏がシベリカ国における臓器売買に加担し、シベリカ人の子どもを犠牲にし、孫を助けるために心臓移植手術したことを世間に知られたくなかったのでしょう。マオー氏やヤハー氏個人がやったことだとしても、民主平和党のイメージは相当悪くなります」
「証拠もなく、臓器売買に加担したなどと、でたらめを言わないでください。名誉棄損に当たりますよ」
クジョウ首相は声を荒げた。
が、共和党党首はどこ吹く風であった。
「警察捜査隊の現場の捜査官は殺された三人の被害者の共通点を知っていたのでしょうか? まさか、この情報も握りつぶされていたのでは? 治安局上層部がそうしたのでは? となると上層部はなぜそのような重要なことを隠そうとしたのか……そうするようにどこかからか圧力がかかったのでしょうか?」
「全て憶測です。公共の電波を使い、誹謗中傷に近いことをされるとは……名誉棄損の上、選挙妨害に当たります」
「誹謗中傷のつもりはありません。疑問に思ったことを質問しただけですよ。ま、そう受け取ったのであれば失礼致しました」
共和党党首は形だけ頭を下げるも、内心ではほくそ笑んでいることだろう。
クジョウ首相と民主平和党のイメージはガタ落ちになったことは誰の目にも明らかだった。クジョウ首相の額は汗にまみれ、その表情は苦々しさに満ちていた。
そこへ突然、物音がし「困ります、部外者は立ち入り禁止です」という声と共に、放送局の番組スタッフを振り切り、若い男がスタジオに入ってきた。
「そこまで言うからには、共和党党首は情報源を明らかにする必要があると思います。共和党はなぜ三人の被害者とマオー氏およびヤハー氏の孫の共通点を知り得たのですか? 現場の警察捜査隊も知らなかったことです」
止めようとする番組スタッフを無視し、言葉を放ったその若い男――セイヤ・シジョウは共和党党首に鋭い視線を向けていた。
・
この時、事の一部始終を見守っていたこの番組の現場責任者であるチーフ・ディレクターは迷っていた。
こんなことになって番組はメチャクチャである。しかしながら、面白すぎる展開になってしまった。
普段であれば、硬い党首討論会など低視聴率もいいところであるが、今回は高視聴率、間違いなしである。偶然にチャンネルを合わせた人はこのまま見入ってしまうだろう。ネットで話題になり、速報が出て、チャンネルを合わせる人も大勢出てくるだろう。これから視聴率が上がっていくはずだ。
それに闖入してきた若い男は両手を上げていた。手に何も持っておらず暴力行為を行わないことを示しているのだろう。少なくとも危険人物ではなさそうだ。
チーフ・ディレクターは、番組最高責任者であるプロデューサーに連絡を入れ、経緯を説明し、自身の考えを述べ、続行の許可を得た。そして闖入者を止めようとしているスタッフを引かせ、司会者には静観させるようにとアシスタント・ディレクターに指示し、テレビカメラを闖入者にも向けさせ、マイクで声も拾わせた。
・
「情報源を教えてください」
再度、セイヤは問い詰めた。
「君は誰だ。部外者が入ってきていいと思っているのか」
共和党党首が目を細める。セイヤの立ち位置は暗く、ライトが煌々と照った討論席から見えづらかった。
「あなたは番組のテーマから外れ、今、治安局が捜査中の事件を話題にしてましたね。そして公共性の高い話題だとし、三人の被害者およびマオー氏とヤハー氏の親族のプライバシーに踏み込みました。ならば情報源について答えるべきでしょ」
セイヤはしつこく食いついたが、共和党党首は相手にしようとはしなかった。
「君の質問に答える義務もない。誰か、この部外者を外に連れ出したまえ」
しかしスタッフは動かなかった。静観するように上から指示が出ていた。
セイヤは共和党党首を挑発した。
「答えられないとしたら、あなたが言ったことは、クジョウ首相と民主平和党を貶めるための嘘かもしれませんよね」
「君がどう思おうが自由だ。情報源は明かせない。我々は情報提供者を守る義務がある」
共和党党首の答えは同じだった。
が、セイヤにしてみれば、それは想定済みである。
「でも、あなた方に情報を渡した人物自ら明かしてもいいという場合なら別ですよね」
「……?」
怪訝そうに言葉を飲み込む共和党党首を見据えた後 セイヤは踵を返し扉まで戻り、そこに隠れていた人物を連れ、前に出した。
「こちらはトウア国立中央総合病院の心臓外科部長サマー医師です」
・
時は党首討論会生放送4日前に遡る。
例の少女に横っ腹を刺されて、トウア国立中央総合病院に運ばれたセイヤは入院中、シベリカでの心臓移植の関連性が疑われる襲撃事件について考えていた。
そのうち、心臓移植後は免疫抑制剤を服用するため、感染症に罹患しやすく、術後数年過ぎても注意が必要で、心臓移植を受けた子どもたちは術後もどこかの医師にケアしてもらっていたはずだと思い至った。
そして、シベリカで心臓移植を受けるといっても、仲介者がいたはずであり、医師と通じていた可能性が高い。いや、医師そのものが仲介者だったかもしれない。
そこで朝、コッソリ病院を抜け出し、独自調査をすることにした。
まず自宅に戻り、身なりを整えた。そして治安局の手帳を持ち、極秘捜査をしているということにして、マオー氏とヤハー氏の家族に「心臓移植前と移植後、どこの病院のどの医師に診てもらっていたのか」を尋ねた。
それがトウア国立中央総合病院心臓外科医サマー氏だった。
ちなみにジャンやリサら特命チーム6名はそれぞれ警護対象である子どもに付き添い、昼間は学校へ行っていたので、彼らには見つからずに済み、極秘で捜査を続けることができた。
セイヤが訪ねたマオー氏とヤハー氏のそれぞれの家族の話はこうだった。
彼らの孫が生き延びるには、心臓移植しか道が残されていなかった。しかしトウア国では、子どもの心臓移植件数はほとんどないと言っていいほど少なく、サマー医師に海外で手術を受けることを勧められた。
子どもの外国人患者を受け入れている海外の心臓移植症例数はシベリカ国がダントツであった。シベリカ国の人口は多いといえど、子どもの心臓移植の症例数の多さに疑問を持たざるを得なかった。
が、脳死者からの正当な移植が受けられる可能性もあるのだからと考え、シベリカ国での移植手術を希望し、その後のケアもサマー医師が世話をするということで、サマーに全て任せたという。
彼らは良心の呵責に耐えながらも重い口を開き、正直に語ってくれた。子どもを救いたくて、サマー医師にすがった彼らを、セイヤは責めることができなかった。
こうしてマオー氏とヤハー氏の孫が移植前も移植後も同じ医師に世話になっていたことを知ったセイヤは、同じ共通点を持つ殺害された3件の被害者も同様だと推測した。
このサマー医師が、心臓移植を行うシベリカの病院の仲介窓口になっていたのだろう。
まずは3件の被害者もサマー医師と関わりがあったかどうか確かめなければならない。
セイヤはそのまま3件の被害者遺族の許へ向かうことにした。3件はそれぞれ西地区、北地区、東地区と離れていたので、時間がかかりそうだったが、近いところから訪ねてみた。
そこで、西地区と北地区にある被害者遺族宅で話を聞くことができ、2件ともサマー医師が関わっていたことを確認した。
東地区の被害者遺族も同様だろうと確信し、終電に間に合わなくなるので、東地区の被害者遺族宅には行かず、病院に戻ることにした。
交通費は自腹である。傷口が完治してないので、歩くのを避け、電車かタクシーを使った。なので、けっこうな額になってしまったが、捜査なんて命じられていないのだから仕方ない。勝手な行動をとったということで、この行為は始末書ものだ。悪くすれば何らかの処分も食らうだろう。
が、それでもセイヤは調べたかった。正義感からというよりも、気になったことは調べないと気が済まないタチだ。疑問があれば答えを見つけたい。これはもうセイヤの性分だった。
そんなわけでトウア国立中央病院に帰ったのが深夜になってしまい、担当医師や看護師から、それはもうメチャクチャ叱責を受けた。
3件の被害者遺族を訪ねようと決めた時に、とりあえず病院に電話をしておいた。ワケあって外出していること、戻りは夜遅くになること、元気なので心配しないでほしいことを伝えておいたので大丈夫だと思っていたけど、そうは問屋が卸さなかったようだ。
病院へ連絡を入れた時、電話口では慌てた感じで看護師が何か言っていたが、「電車が来たから」と携帯通信機を切り、その後、静かにじっくり考えたかったので、電源も切り、以後、帰るまでそのままにしてしまった。ちょくちょく連絡を入れておけばよかったと反省したが、後の祭りだ。
それにつけても――大変だったのがリサである。セイヤが病院から抜け出し、いつまで経っても戻ってこないという連絡は当然リサに行っていた。
帰りの電車で携帯通信機の電源を入れたら、ズラリとリサからの着信が並んでおり、メールの文面では怒りのオーラが滲み出ていた。
セイヤが病院に戻った時、任務中のリサは割り振られた仮眠時間を利用して夜中だというのに駆けつけてきて、「面会時間過ぎてますから」「ご主人を休ませましょう」と取りなす看護師を無視し、セイヤに怒りまくった。
セイヤはひたすら平謝りするしかなかった。リサがずっと怒り続けているので、遠慮気に「オレのことはもういいから休んだほうがいいぞ」と言ったら、「こんな状態で眠れるわけないでしょ」「どうしてくれるの、お肌もボロボロよ」と火に油を注ぐ結果になった。
そんなリサを眺めつつ……お肌ボロボロっていうけど、そうでもないぞ、相変わらず白くてピチピチしているぞ、女性ホルモン充実しているんだな、と言いたかったが、火に灯油を注ぐ気がして黙っておいた。
リサの説教は続いた。
「心配かけないでねって昨日言ったばかりじゃない。また同じセリフ言わせる気?」
それについても、昔のリサのほうがずっと無茶をしでかし、オレに散々心配かけさせたぞ、とセイヤは言いたかったが、火にガソリンを注ぐ気がして黙っておいた。
いつの間にかリサの目に涙がたまっていた。時折、手で目をぬぐい、泣きながら怒り続けた。セイヤは神妙に頭を垂れるしかなかった。
そして空が白み始めた頃、リサはフラフラになりながら、任務に戻っていった。
「……任務に支障をきたさなきゃいいけどな」
ただ、もう当分の間、少女は襲ってこないだろう。
痛み止めが切れ、傷口が痛んできたが、罰だと思い、そのまま痛みとつきあった。リサの怒りを受け止めるのはけっこう疲れたけど、あんなに心配してくれて、ちょっと嬉しくもあった。
そうだ、自分は独りではない。
そんなことを思っているうちに眠りに落ちてしまった。
そして日がだいぶ高くなった頃。
朝食や検温、診察以外の時間は眠り通し、昼になってようやく頭が冴えてきたセイヤは仮説を立て、疑問点を整理する。
――クジョウ首相の第一秘書であるマオー氏、民主平和党の重鎮であったヤハー氏の、それぞれの孫の心臓病について知る立場にあったサマー医師は、民主平和党と敵対関係にある政党の『議員またはその関係者』にその情報を売った。
敵対する議員・その関係者や親族の情報、その中でも特に『健康状態・持病』は価値のある情報となる。それを売ったサマー医師は、見返りに今のトウア国立病院での地位を確立したのかもしれない。
ここで分からないのが、サマー医師はなぜ、一般人である3件の子どもの情報まで渡したのかということだ。全く関係ない一般人の情報など価値がないだろうに。
またなぜ、8年前に行われた心臓移植情報があの『少女』に渡っていたのか?
まさか『サマー氏とつるんでいた議員またはその関係者』が、『少女』ともつながっていたのか?
と、その時、セイヤは突然ひらめく。
――そうだ、あの国会襲撃事件だ。少女は国会も襲撃している。そして少女だけが逃走を果たした。協力者がいれば、逃走は可能だ。
ひらめきは、ある仮説へと導かれた。
――もし少女が『議員またはその関係者』と協力関係にあり、二重スパイだったなら……。
――その『サマー氏とつるむ議員またはその関係者』が国会襲撃工作情報を予め得ていたとしたら……。
セイヤは身震いした。己の立てた仮説の内容の、あまりのえげつなさに。脳みそが回転するたびに何か黒いものに染まっていくようだった。
――国会襲撃事件では、どの党の議員が一番多く生き残った?
――少女は何をエサにされたのか。それが8年前のある時期にシベリカ国で心臓移植を受けたトウア人の子どもの情報だったとしたら……。
ちぐはぐだったピースが組み合わさり、一つの画が浮かび上がっていく感覚だった。
それは、とてつもなくどす黒く醜悪な画だ。
おそらくあの少女は、臓器売買で犠牲になった子の関係者だ。工作とは関係なく、少女は個人的理由で復讐をしたかった。
しかし『議員またはその関係者』のほうは、マオー氏とヤハー氏を利用し、クジョウ首相率いる民主平和党のイメージダウンを狙いたかった。だから孫の殺害予告をし、マオー氏とヤハー氏がクジョウ首相に相談させるように仕向け、首相をこの件に関わらせた。当然、クジョウ首相は選挙が終わるまで、このことを内密にさせるだろうと見越して。
そして選挙前にこれを暴露し「クジョウ首相がこれらのことを隠していた」と世間に訴える。確かな証拠がなくても、多くの国民に疑惑を持たせることができれば、クジョウ首相と民主平和党に大打撃を与えることができる。大勝すると予想されていた民主平和党は、議席をかなり減らすだろう。上手くすれば民主平和党から政権を奪えるかもしれない。
マオー氏とヤハー氏の孫の件については、襲撃に失敗した少女が捕まって、いろいろしゃべられては困るから、殺害予告によって警備が厳重となるだろう彼らの孫への襲撃は、本当はさせたくなかったはずだ。
だが、復讐にこだわる少女は言うことを聞かなかったのかもしれない。殺害予告のことを知らなかった可能性すらある。
そう、少女とその『議員またはその関係者』は直にはつながってはおらず、間を取り持つ仲介者がいるのだろう。少女にも必要最低限の情報しか与えていないはずだ。少女は本当の取引相手が誰かまでは知らない……。
仲介者のほうは、時期を見計らいながら少女を上手く誘導し、一般人の子どもから襲わせるようにしたのだろう。
ここまで考えて、セイヤは一息ついた。
まだ分からないこともあるが、この仮説なら今まで疑問に思っていたことの辻褄が合う。
少女の取引相手は、国会が襲撃されることを知っていて、多くの議員や護衛官を見殺しにした。
三人の子どもが襲われることを分かっていて、それも見殺しにした。いや、それどころか、殺害実行の協力もした可能性すらある。
己が描いたグロテスクな画にセイヤは暗澹たる気持ちになった。
世の中は思っている以上におぞましく汚いものなのかもしれない。
が、その思いは自分を映す鏡となる。
――そうだ、己の国、己の生活を護ろうと、シベリカ国に内紛を仕掛けたクジョウ首相とその側近たち、ルッカー治安局長、軍の関係者、そしてこの自分もグロテスクかもしれない。
自分たちの手も多くの人の血で染まっている。
セイヤの口許が歪んだ。
――ならば醜い者同士で闘うのみだ。




