第3章 拉致事件
自宅まで後少しというところだった。
この頃、誰かに尾行されている感覚を味わっていた。
いつになくルイに緊張が走る。
霧のような小雨が降り、夜の帳が下りる中、人通りのない道を急いでいたルイの横にバンが滑り込み、停車した。
あっと思った時には、ルイは複数の男たちによってバンの中に連れ込まれていた。口を塞がれ、目隠しをされる。あちこちとまさぐられ、首にかけていたペンダントが取り上げられるのが分かった。
その後、腕に針が刺さった感触――注射を打たれたのだろう。そのうち意識を失った。
・・・
ルイが気づいた時、そこは音の聞こえ方から大きな倉庫の中のように感じた。埃臭く、潮の香りが漂っていた。海の近くのようだ。
目隠しをされ、口は何かで塞がれ、手足も縛られており、声を出すことも身動きもできなかった。が、周囲に数人の人の気配があった。
数人の男が話している声が聞こえてくる。
シベリカ語だった。
「『2班』に預けた例のもの以外、特に怪しいものは身につけていないようです」
「先ほど『3班』より連絡入りました。ルイ・アイーダの携帯電話をチェックしたところ、定期的に誰かに連絡をとっている形跡はなかったとのことです。ただし削除されたものを復元すれば、そういった形跡が出てくるかもしれません。すぐに電源を切ったので、まだ詳しくは調べていないとのことです」
「定期的に誰かに連絡をとっている可能性については想定内だ。とりあえず連れて行け。こっちももうすぐ出航だ。早く運び出せ」
大学に入ってからシベリカ語を勉強しているルイはそのように聞き取れた。
が、目も口も塞がれ、全ての自由を奪われた今はただじっとしているしかなかった。
・・・
「……やはり発信機を。……ええ、作戦通り、そのペンダントは別のシベリカ行きの船の荷物に紛れ込ませておきなさい。うちの会社以外の船ならどこでもいいわ。ご苦労様」
自宅で待機していたサギーは携帯電話を切った。
ルイをシベリカへ送ったその後の手筈は現地の仲間が整え、処理してくれるはずだ。
サギーは頬を歪める。思ったとおり、ルイはペンダントを装った発信機を身に着けていた。
――ルイはこうなることを予想し、予めセイヤとリサに相談していたようね。となると、ルイの捜査にセイヤとリサが加わる可能性が高い。でも、それも想定ずみ。むしろ好都合。
ルイを社会的に葬るシナリオを、サギーはこのように描いていた。
ルイ・アイーダはアリア人と結託し、密かにシベリカへ渡り、シベリカ国へ対するテロを計画したとして、シベリカ国で捕らえられ、裁判にかけられ終身刑にされる。そしてトウアで起きた『地下鉄中央駅爆破事件とマハート暗殺未遂事件』も、シベリカを敵視するルイがシベリカ国に罪をなすりつけ、シベリカを貶めるためにやったこととなる。
ルイはシベリカに反感を持っているアリア人たちとのネットワークを持っている。彼らに多額の資金援助もしているに違いない。
そのことが明るみになれば、確固たる証拠がなくても、ルイがテロに関与したのではという疑いをトウア国民に持たせられる。
ルイの信用は失墜することだろう。
当然、今までの発言も信用性をなくし、シベリカ国は『ルイ・アイーダによって悪に仕立てられた被害者』となれる。邪魔なルイをトウア社会から遠ざけることもできる。
――ルイ、あなたが悪いのよ。そう、戦おうとしなければ、立ち向かわずにおとなしくしていれば、こんなことに巻き込まれなかったのに。まさにリサの兄と一緒ね……。
うすく笑っていたサギーから表情が消える。
――戦うという選択をしたのならば、負けた時にその代償を払うことになるのよ……。
・・・
この頃、セイヤとリサとジャンは海上保安隊と共にルイ救出作戦に動いていた。
予めルイに身に着けさせていた発信機を頼りに、三人は海上保安隊が所持する巡視艇で追跡していた。
雨は上がったものの、闇が広がる空には月明かりもなく、漆黒の大海原を巡視艇は高速で進んでいく。
「しかし、ファン隊長が不倫していたとはな~。お前、よくそんな情報を持っていたな」
ジャンは未だにその話題を引っ張っていた。
「ええ、まあ……隊長の不倫相手が、オレらの学生時代の元担任教師ですからね」
さっきも同じ話題を繰り返したよなと思いつつ、セイヤは律儀に答える。
そう、ファン隊長とサギーが愛人関係であることは、ルイがとっくに突き止めていた。
当初、ルイは探偵を雇ってサギーのことを調べ、住まいを探し出し、見張らせたという。盗聴器を仕掛けたかったが、サギーの自宅の窓や玄関口には監視カメラもあり、おそらく部屋の中もあるだろうことが予想された。戸締りも厳重であり、留守を狙うのは難しかった。
それに、たとえ盗聴器を仕掛けることができたとしても、これだけ警戒心が強いサギーならばすぐに見つけ出してしまうだろう。
そんなサギーを尾行するのはかなり大変だったらしいが、やっとサギーの愛人の一人を見つけた。それがファン隊長だった。
よって、セイヤとリサの情報がサギーに筒抜けの可能性があると忠告してくれていたのだ。
さらにルイはファンの身辺調査もしたが、どうやらサギーに騙されているだけでファン自身はシベリカとのつながりはなく、単に女性にだらしないだけのようだ。
そのジャンは、なおもファン隊長の愛人問題についてセイヤに絡んでいた。
「愛人との証拠写真を突きつけてファン隊長を脅すとはな……。お前って恐ろしい男だな」
「脅してはいません。取引です。それにオレは、隊長にとってマイナスになるような無理な要求はしていません」
人聞きの悪いことを……と思いながらもセイヤはしれっと言い返す。
「だから『ルイ・アイーダ救出捜査への参加』が通ったわけか。これは本来、特戦部隊のオレらの仕事じゃないもんな」
「この件については他人に任せるわけにはいかなかったんです。オレらのほうが敵の罠にわざと乗ったところもありますから」
「ルイ・アイーダが拉致されるのも想定済みだったということか」
「ええ、見張りからも連絡が入り、ルイが拉致された時の証拠写真も押さえてあります」
「見張りをずっと雇っていたのか。金かかるだろうに」
「ルイは大金持ちですから」
ジャンとセイヤの会話の中にリサも入ってきた。
「それだけの金があるなら護衛をつけりゃいいのに。そうせずにルイ・アイーダ自ら囮になったということか」
ジャンはリサを見やった後、再びセイヤに視線を戻し、問い質す。
「でも、拉致されたと分かった時点で、すぐに警察捜査隊に動いてもらうべきじゃないか?」
「それでは拉致した実行犯しか捕らえられません。いたずら目的、あるいは金目当てに誘拐したと言われ、個人的な犯罪ということにされてしまいます。
もちろん、オレはこれを個人的犯罪とは思ってません。この犯罪が組織的に行われたと証明し、この犯罪に関わった全ての者を捕らえるには、敵を泳がす必要がありました。なのでファン隊長にいろいろと協力してもらったんです」
セイヤのこの答えを聞いた後も、ジャンは質問攻めだった。
「でも救出が遅れて、その間にルイ・アイーダが殺されでもしたらどうするつもりだ?」
「殺すつもりならば、拉致という面倒なことはしないでしょう」
「お前は、殺される可能性はないと考えているのか?」
ジャンから問われるまでもなく、セイヤはこの点は本当に熟慮しこのように判断していた。
「シベリカ側はずっと情報戦を仕掛けていました。今思えば、あの『発電所立てこもり事件』もその一つだったと推察してます。
その目的とは、シベリカ国の狙いが達成されるようにトウア世論を操り、トウア国を世論でもって動かすことだと考えられます。トウア国が民主主義である以上、政治は民意に左右されることも多く、世論によって動くこともあります」
ここで一旦、セイヤは一息つき、さらに話を続ける。
「そんなトウア世論に、ルイは大きな影響を与えるようになりました。だから、シベリカ側は単にルイを消すよりも、ルイの信用性を失墜させたいと考えるはずです。そうすれば世間も、今まで聞いてきたルイの意見や考えに疑問を持つようになるでしょう。
しかし、いつもシベリカ国にとって都合の悪い話しをし、ついにはマハート暗殺未遂事件でのシベリカ工作員の存在を指摘したルイを殺せば、シベリカ国がルイ暗殺に関与したのではと、トウア国民は疑いを持ちます。遺体が発見されないなど殺害の証拠が上がらなくても、有名人のルイが長期に渡って行方不明となれば、マスコミは騒ぎ立て、殺害された可能性を疑うでしょう。
シベリカ側もそれは避けたいはずです。ただでさえ、今のトウア社会では『シベリカへの警戒感』が漂い始めてますからね」
「ふむ」
ジャンは頷き、目で先を促す。
セイヤは、これからシベリカがルイに対して行うだろう、その推測を述べた。
「ルイをトウア国の法が及ばない外国……シベリカ本国へ密かに連れ出し、そこで事件をでっち上げ、ルイを犯罪者に仕立てれば、ルイの信用を落とすことができます。
シベリカ国に祖父を処刑されたルイはシベリカを憎んでいた、だから報復にシベリカへ何かしらの攻撃を仕掛けようとしたと説明されれば、それはそれで説得力はあります。
それに外国で起こったことについて、トウア国には捜査権はありません。連れ去られたルイは当然、出国記録もありません。だからこそ、ルイ自らシベリカへ密入国し、シベリカ国へのテロを目論んだと思わせることも可能です」
「なるほど」
ジャンの相槌に応えるように、セイヤはこう結論付けた。
「シベリカ国は、ルイを『殺された被害者』にするよりも『犯罪を行った加害者』にしたいはずです。オレがシベリカ側の立場ならそう工作します」
セイヤの読みは説得力があり、ジャンもこの点については納得したようだった。
「このルイ・アイーダ拉致事件もシベリカ絡みだとお前は思っているんだな」
「はい」
セイヤは自信を持って頷く。
が、それでもジャンはこの作戦にはまだ疑問を持っていた。
「雇った見張りが拉致を見逃したり、仕事を放棄する可能性は考えなかったのか? 危ない賭けだとも言えるぞ」
このことについてはリサが答えた。
「ルイからは定期的に、家を出てから帰宅するまでの間、今現在の様子とその後の予定を知らせるメールが1時間毎に送られてくる手筈になってました。拉致されるとすればセキュリティが厳重に施されたルイの自宅ではなく、出先である可能性が高かったからです。
現在、前にメールが送られてから1時間以上経過しましたが、連絡がありません。ルイに何か起きた証拠です。
そもそもルイの発信機が、予め聞いていた予定とは違う場所に向かってましたから、その時点でルイが拉致され、どこかに連れ去られようとしていると判断できます」
そして、これに補足するかのようにセイヤが継ぐ。
「それに雇った見張りは一人だけじゃありません。接点のない別々なところから二人雇いました。彼らにも遠くからルイを追えるように受信機を持たせてます。二人そろって拉致を見逃したり、仕事を放棄する可能性は低いでしょう。
万が一そうなったとしても、オレらもルイの発信機を頼りに追えます。正式に治安部隊を動かせなかった時はファン隊長に取り計らってもらい、オレら単独ですぐに救出に動くつもりでした。敵を泳がせて組織的犯罪を立証するのは難しくなりますが、ルイを救うのが最優先ですから、この場合は仕方ありません」
「手は打ってあったというわけか」
ジャンはようやく納得がいったのか深く頷き、改めてセイヤとリサを交互に見やり、ため息まじりにこう言ってきた。
「それにしても、あのルイ・アイーダとお前らがお友だちだったとはな」
セイヤとリサは顔を見合わせて、ちょっと頬をゆるめた。
「ルイとは未成年養護施設で一緒でしたから」
そうセイヤが応えた後、この作戦に至るまでの過程をリサが説明した。
「ルイはとても警戒してました。マハート氏の件を治安局に通報した自分はシベリカ工作員らに厄介な存在だと思われ、本格的に狙われるかもしれないと私たちに相談してきたんです」
当初、この『囮作戦』にリサもセイヤも反対し、護衛を雇うよう助言したが、ルイは「シベリカ工作員の存在を立証するチャンスだ」と聞く耳を持たなかった。そこでセイヤが敵の動きを予想しながら備えてきたのだ。
「マハート暗殺計画の情報を治安局に持ち込んだのもルイ・アイーダってわけか。でも、情報者のことは機密扱いになるはずだけどな。情報が漏れると思っていたのか」
ジャンは誰に言うでもなく、つぶやいた。
「ファン隊長からサギーにね。だってセイヤと私の情報も、隊長からサギーに漏れていた可能性が高いっていうし……あ、『サギー』は私たちの元担任かつ隊長の愛人の名前です」
リサが苦笑まじりに応える。
「そのサギーっていう愛人がシベリカとつながっているのか?」
「ええ、その疑いがあるとルイは言ってました」
リサもルイから『サギーがシベリカ工作員である可能性が高い』と聞いた時は驚いた。
シベリカ人とトウア人は人種的には同じであり、外見からの見分けはつきにくい。
そしてサギーはトウアに帰化した時、おそらく名前を変えたのだろう……シベリカ風の名前ではないし、もちろんトウア語が母国語のように堪能であり、一見してシベリカ人とは分からない。
「ちなみにファン隊長は、サギーがシベリカ工作員とは知らずにつきあっていたようですね」
セイヤがつけ足した。
「なら、どうしてファン隊長に、そのサギーっていう愛人はシベリカ工作員の可能性が高いことを話さなかった?」
ジャンは少し怪訝な顔をして眉を上げた。
「サギーがシベリカ工作員であることは、あくまで憶測です。確固たる証拠はありませんし、今回は『隊長が不倫をしていた』というだけで充分な取引材料になり得ました」
そう、こちらがつかんでいる情報を全て明かす必要はない。そもそもハニートップにひっかかるような人間とは情報を共有できない――セイヤは冷徹にそう考えつつ、説明を続けた。
「それに隊長を追い詰めるのは得策じゃありません。もし、シベリカ工作員を疑われる女のハニートラップに引っかかってしまったことが明るみになれば、今後の出世は望めないということで、隊長が自棄を起こす可能性もあります。最悪、オレたちが『ルイ救出作戦』を行っていることをサギーに知らせてしまい、オレたちを始末するように動くかもしれません」
セイヤはあらゆる想定をし、リスクを減らすようにしていた。
けど、さすがにジャンはそのセイヤの考えについていけないようだった。
「隊長って、そこまで悪か? オレは仲間や上司をそういう風に思いたくないけどな」
「警戒するに越したことはありません」
何の感情も込めずセイヤは淡々と応えた。
「ほら、セイヤの慎重さは筋金入りですから」
リサがジャンに耳打ちしてフォローする。
ルイが連れ去られた後、セイヤは、ルイの発信機がしばらくの間、第二トウア港を示していた時点で、船に乗せられることは確実だと思い、ファン隊長を介し、海上保安隊を動かしてもらっていた。
そして雇った二人の見張りをそれぞれ港へ向かわせ、敵に感づかれないように遠くから監視を続けさせた。
その後、見張りから「港では倉庫から貨物類やコンテナが運び出された以外、特に動きがなかった」と連絡が入り――ルイを乗せたクルマが倉庫の中へ入った後、ルイは貨物として箱の類に閉じ込められ、そのまま運び出されて船に載せられたと推測できた。組織的に動いているなら、積荷の検査もすり抜けることは可能だ。
現在、警察捜査隊に第二トウア港にある全倉庫を捜索させているが、ルイ・アイーダはいないとのことだった。
そして今、海上保安隊の巡視艇は『ルイがいると思われる高速船』を目視で捉えられるほど接近していた。
「ルイは、あの高速船の中にいるはずです。もちろん、船に乗る予定なんてルイから聞いてません。拉致された後、あの船の貨物室に閉じ込められている可能性が高いです」
セイヤは巡視艇のライトに照らされた高速船を見据える。
「客船を使うとはな。不審船なら海上保安隊も容赦しないが、一般客が乗っている船舶は、確固たる証拠がないと捜査するのも躊躇してしまうよな」
ジャンのつぶやきに、リサが応える。
「あの船はシベリカ行きです。やはり犯人はルイをシベリカ国へ連れて行くつもりだったみたいですね」
ジハーナの島々の7割を手に入れたシベリカは海洋進出するようになり、国を挙げて海洋関連事業に力を入れている。そのため、ジハーナ領を併合したシベリカ国とトウア国の間を頻繁に行き来する船も多くなった。
目の前のシベリカ行きの高速船に対し、ジャンらと行動を共にしているトウア海上保安隊は停船命令を出す。
いかに高速船といえど、2基の高速ディーゼルエンジンとウォータージェット推進装置が搭載され、かつ機関銃が装備され攻撃能力がある海上保安隊の巡視艇が相手では、命令に従うしかなかった。
・・・
サギーは自宅で待機し、仲間からの連絡を待っていた。勝利を確信しているのか、赤ワインが注がれたワイングラスを片手にくつろいでいた。部屋に入り込む鬱陶しい潮の匂いが今日は気にならない。
ワインを一気に飲み干したサギーは舌なめずりする。
――ルイに常に発信機を身に着けさせていたセイヤとリサ。そのルイの身に何かあったとセイヤとリサが気づいた時、その発信機を頼りに救出に向かったとしても、その発信機は全く別の船にある。
――ええ、発信機をペンダントにカモフラージュして持たせることは予測していたのよ。
そう、サギーは以前にファン隊長から聞いていたのだ。『発電所立てこもり事件』の出動の際、セイヤが発信機を仕掛けたペンダントをリサに身に着けさせたことを。
なのでルイを拉致した後、ルイが身に着けているだろうペンダントに発信機が取りつけてあることを工作員らに確認させた。そして、ペンダントをルイから外し、別行動する『2班』にそのペンダントを持たせ、ほかの港から出航するシベリカ行きの別の船に紛れ込ませるように指示した。
――セイヤとリサは、ルイを見つけることはできない。彼らが見つけるのはペンダントのみ。
だけど、そこがシベリカ行きの船だからこそ、セイヤとリサはこだわり、捜査に時間を費やしてしまうだろう。
ルイとペンダントはそれぞれ別々の港から出る船に乗せられていると彼らが気づいた時にはもう遅い。ルイが乗っている船がトウア領海を出てしまう。
そしてシベリカの領海に入ってしまえば、トウア海上保安隊は一切、手が出せなくなる。
サギーはこの作戦に穴がなかったか、改めて思い返す。
――もし、ルイの拉致現場を第三者に目撃されていたとしても、こっちは尾行に気をつけながら、港に着くまでに何度も人と車を替えている。拉致実行犯の検挙は困難なはず。
その後、失踪したと思われていたルイ・アイーダがシベリカへ密入国し、実はシベリカ国へのテロを計画していたことで逮捕され、シベリカで裁判にかけられるというニュースがトウア国にも流れる。
もちろん、セイヤとリサは「ルイは拉致され、無理やりシベリカ国に連れ去られ、犯罪をでっち上げられた」として世に訴えようとするだろう。
しかし、その内容は初動捜査を誤った治安部隊の失態を意味することになり、治安局がセイヤとリサの訴えを許すはずがない。
それに例えトウア社会がシベリカ国の関与を疑ったところで証拠はない。そのうち世間は「ルイ・アイーダはシベリカでテロを起こそうとした」という話のほうを信じるようになる。ルイがいなくなれば、トウア社会の世論操作など容易い。
――ルイ・アイーダは、シベリカ国の法の下で裁かれ、終身刑となる。シベリカの地でその生涯を終えるのよ……。
うすく笑みを浮かべたサギーは空になったワイングラスを天にかざした。




