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異界に奇術師  作者: 人類皆悪太郎
1/1

奇術師大地に立つ

 勇ましい男たちの怒声が響く。

 木材やレンガを台車に乗せ、筋骨隆々な男たち台車を引きながら、倉庫らしき建物から出てくる。


 ここは、トールデン王国の王都にある、ナップス商会の倉庫だ。

 ナップス商会は、トールデン王国で一番の規模を誇り、住宅用の建材を主に扱っている商会である。

 その倉庫から、男たちに交じって一人、他の男たちに比べ細身で30前後の男が台車を引きながら出てくる。

 無精ひげが生え、髪はぼさぼさ。

 服自体は仕立てがよさそうだが長い事来ているのか、くたびれて所々ほつれている。

 顔は整っており悪くはないが、半開きの目と薄く弓なりになっている口元のせいで、どことなく胡散臭い雰囲気を醸し出している。

 一見どこかの店でウェイターでもできそうな風貌だが、この仕事に従事している。

 本人もそんな自分を理解しており、就職先を探して回った。

 しかし、出自がはっきりしないため高級店では雇ってもらえず、大衆向けの店ではその胡散臭い笑みのせいで信用が得られないため断念した。


 汗を流しながら、懸命に台車を引く。

 この男は、ハイドと呼ばれており、仕事ぶりは真面目で誠実。

 自分のことは話したがらないが、話をさせれば漫談家の様に流ちょうに喋り洒落も通じる。

 なんでも極東から来たらしく、ここら辺では珍しい黒髪黒目だ。

 仕事仲間からは好かれており、仕事を初めて一年で十二分すぎるほどに信頼を得ている。


 さて、この男いわゆる異世界へトリップしてきた日本人だ。

 とある大会で優勝し、祝賀会を挙げた帰りに、飲みすぎて公園のトイレで意識を失い、気が付けばこの世界にいたのだ。


 鳥の鳴き声に目を覚ますと明らかに日本ではない、レンガでできた建物に挟まれた路地に寝ていた。

 一瞬誘拐も頭をよぎったが、特に重要人物でもない、ごくごく普通の一般人だった自分を異国に連れ出す必要があるのか悩んだが。

 ここがどこの国なのか、日本の大使館はあるのかを聞くために人の声がするほうへ歩いて行った。

 声のするほうに歩いていくと、大きな倉庫のような建物があった。

 そこには多くの男がそれぞれ思い思いに時間を過ごしているようだった。

 筋骨隆々な男たちにいきなり話しかける勇気もなかったハイドはその中で、一番話しかけやすそうな、身なりのいい男に話しかけた。


「あの、すみません」


「お前名前は?」


「え……あっ、ハイドです、ハイドといいます」


 早口でいきなり名前を聞かれ、普段名乗っていたな名前が口をついて出る。


「ハイドか、よし丁度お前で最後だ、行っていいぞ」


「はあ……わかりました」


 ハイドは、忙しそうにしている男にこれ以上話しかけられず、流れに身を任せるように男たちの中に交じっていく。

 そして、先ほどの男が言うままに倉庫の中に男達と共に入っていく。

 そこからあれよあれよという間に、倉庫の中の荷物を外に出す作業に加わることになった。

 最初は突然のことに戸惑ったが、たいしたことはなく、単純に頼まれた数で物を引っ張り出してくるだけだったのですぐに慣れた。

 倉庫のつくり自体もたいしたことなく、どこに何があるのか一時間もすれば覚えることができた。

 そのまま時間は過ぎ、いつの間にか日が暮れ、作業の終了を朝の男が告げた。

 日当らしきものを受け取り、帰っていいぞと言われ、皆がぞろぞろと外に出ていく流れに乗ろうとした時、ハイドに声がかかる。


「おい、そこのお前、ハイドと言ったか」


「はっはい、なんでしょうか」


「オーク材の棚はどこだ」


「えっ三列目で奥から長さが違いますよね」

「ふむ、では3本ずつを5セットで何本になる」


「15本です」


「なるほど……」


 そんな問答を繰り返す中で、もしかして自分が何かミスを犯したのではないかと不安になり、一通り質問して考え込んでいる様子の男にたずねる。


「あのお、自分何かミスをしましたでしょうか」


「いや違う、逆だ逆」


「逆?」


「ああ、お前に頼んだ分は全て正しかったんだ」


「はあ……」


 ハイドからすれば、あの簡単な指示で間違えるほうが難しいのだが。


「……ふむ、お前仕事は」


「ここでは特には」


「そうか、そりゃあ丁度良い、ここで働かないか」


「食い扶持ができるのでありがたいですけど」


「なら決まりだな、明日も教会の鐘が8つ鳴る頃に来てくれ」


「はあ……」


「ああ、お前泊る所は」


「特にないです」

「荷物は」


「それもないです」


「ならついてこい」


 男はハイドを先導し歩いていく。

そこで気づくが行きかう人の服装がおかしい。

 日本では絶対に見ないであろう、鎧らしき物を着た人物が歩いており、剣や槍といった武器を携帯している人物が多く見える。

 普通の格好をした人もいるが、明らかに質が悪い生地で仕立てられたであろう服を着ている。

 そして何より馬ではない何かが馬車を引いている。

 そんな光景をぽかんとしながら見送る。


 10分ほど歩くと目的地に着いたようで、男が立ち止まる。


「ここがうちの寮だ、宿屋よりは狭いが一応個室だ」


「はい」


 この頃には、何とかなるだろうと気持ちを切り替え、案内された部屋のベットに寝転がる。

 ここはどこの国かわからないが、とりあえず仕事にはありつけたし、金ももらえる、生きてはいけるから大丈夫だろうと自分を納得させる。

 そのうち失踪届が出るだろうし、まあ戻れるだろうと楽観的に考えながら、藁を敷き詰め肌触りの悪いシーツをかけただけのベットで目を閉じた。


 そこからは怒涛の毎日だった。

 毎日倉庫で品物を出し、家に帰り眠る。


 慣れてきたら配達もするようになり、仕事仲間もできた。

 飲みに行ったり、女を買ったり、辛くはないが楽しい毎日を送っていた。


 その日は色々と誤算の多い日だった。

 来るはずだった人が来ず、人が足りなかったので急遽配達に行くことになった。

 納入先はとある建築現場で、着いたはいいがどうも納期が近いらしく忙しそうに働いている。

 普段は台車から直接おろしてもらうのだが、この日ばかりはそういうわけにもいかず、もう一人の従業員と共に荷を下ろすことになった。


 そしてハイドに衝撃が走った。

 重いものを持った拍子に、腰を痛めたのだ。


 行きは引いた台車の荷台に乗せられ、引かれながら。

 もう年だなあ、とつぶやいた。


 そして使えない人間を雇うような会社もなく、首を言い渡された。

 世知辛いが、仕方ないと自分に言い聞かせながら。

 また腰が治ったら雇ってやるからと言われ、行く当てもなく、少ない荷物を持って寮を出た。


「はあ、無職か……」


 ハイドは何とか動けるようになってから寮を出た、ハイドを雇った男が哀れに思ったのか、動けるようになるまでは寮を使ってもいいと言ってくれたのだ。

 ハゲのくせにいいとこあるじゃねえかと心の中で感謝し、心の中でハゲと呼んでいたことを心の中で謝った。


 ハイドはその足で一番大きい広場へと歩いていった。

 赤茶色のレンガで統一された通りをハイドは、ゆっくりと歩いていく。

 広場には多くの人がおり、出店や露店が軒を連ねている。

 人々は忙しそうに行きかい、そんな人をぼんやりと眺めながら、中央にある噴水の淵に座り込んでいた。

 仕事も、家も、財産もない。

 まさにお先真っ暗だった。


 ハイドだって馬鹿じゃない、この国に日本の大使館がないか調べたり、日本のことを知る人間がいないかと探し回った。

 しかしあったのは聞いたことのない国の大使館、日本に関しては国名すらもわからない始末だった。

 八方ふさがりだった。


 ハイドはおもむろにズボンのポケットから、物を取り出した。

 日本でもおなじみのトランプだった。


「残ってるのはこれだけか……」


 ハイドは日本でマジシャンをやっていた。

 マジックに出会ったのは小学生のころ。

 父親に連れて行ってもらったマジックを見せてくれる店で、初めて目の前でマジックを見た。

 そこからはマジック漬けの生活だった。

 マジック用の本を買ってもらい、ひたすらにマジックの練習に明け暮れた。

 高校を出た後は、マジックを見せるバーで働き、ひたすらにマジックの腕を磨いた。

 そのうち自分の店を持ち、とうとう憧れだったマジックの大会で優勝した。

 そんな自分が、どこかもわからない異国の地に連れてこられ、日忙しい々を過ごした。

 両親は元気だし、兄妹も多かったから両親のことは心配しなくていいが。

 一年以上マジックをやっていないことを意識したとたん、マジックを披露したい欲がムクムクと湧いてきた。


「おい、そこのガキ」


「む?僕の事か?」


「おう、そうだよ、ちょっとこっち来い」


「む……」


「良いから、こっち来い」


 目についた少年に話しかける。

 少年は、大体10歳前後に見え、淡い金髪に一般的な服を着ているが、その顔は美少年と言って差し支えないほどに整っている。

 小さい鼻はきちんと筋が通っており、目は大きくアーモンド形、眉は綺麗な弓なりで意志の強さを感じさせるように上に流れている。

 頬は子供らしくふっくらとしており、チークを塗っているわけでもないのにうっすらとピンクに色づいている。

 どことなく育ちがよさそうで、理知的ではあるのだが、ハイドにとってはどうでもよかった。

 マジックを披露できればそれでよかったのだ。


「ほれ、一枚引いてみ」


「なぜだ?」


「いいから!引いてみ」


「……わかった」


 披露するのは、相手が引いたカードを当てるマジック。

 机がないため、机が必要ないマジックを選んだ。


「一枚引いたな、そのカードを覚えろ」


「引いたが、これはなんなんだ?」


「あ?トランプだよ、で覚えたか?」


「ああ、覚えたが」


「よし、俺に見えないようにして返せ」


「?……ああ」


 カードを受け取るとそのカードを見せつけるようにしながら、山の中に押し込んでいく。


「さてさて、これで俺はお前の引いたカードはわからんわけだ」


「そうだな」


 怪訝な顔をしながら子供が頷く。

 

「更に、だ」


 ハイドはそういいながらカードをシャッフルしていく。

 様々なシャッフルを披露しながら、ハイドは説明を続ける。


「こうすると、もうどこにカードがどこにあるのか、俺にもお前にももうわからない」


「あ、ああそうだが、その手技はなんだ」


「そんな事いいから、こうやって切ったカードなんだが、なんと俺が一度指を鳴らすとお前の選んだカードが一番上にやってくるんだ」


「は?そんな事、それこそ魔法でもなければ無理だ」


「それができるんだよ」


 ニヤリとハイドは口角をつりあげる。

 自信満々な態度にもしかすれば本当にできるのではないかと感じてしまう、もしかしてという思いが少年の胸に広がる。


「さて、ここで一番上のカードを見てもらおう」


 そう言って一番上のカードを子供に見えるようにめくる。


「違うカードだよな」


「ああ、違う」


 その返答を聞くと、ハイドはもう一度カードを裏返す。


「いいか、一瞬だぞ、よーく見とけ」


 パチンッと子気味のいい音をハイドの指が奏でる。

 子供は目を皿にしてカードを見つめている。


「……」


 無言でハイドはカードを裏返す。

 そこには、少年の選んだカードハートの4があった。


「っ……待て!何をしたんだ今!!」


「だから、お前の選んだカードを一番上に持ってきたのさ」

「魔法か!?」


「いや、マジックだよ」


「魔法じゃないか!!」


「違うって、魔法なんか使ってねえよ」


「魔法としか考えられないが……いや、しかし……」


 魔力が感じられないとか、ブツブツとつぶやいている少年をしり目に、ハイドは快感に浸っていた。


(これだよこれ、マジックを見て人が驚く、この瞬間がやっぱ最高だ)


 にんまりと笑いながら、マジックの種を解き明かそうと考え込んでいる少年を見つめる。

 一年ぶりのマジックを披露できる快感に、酔いしれているハイド。

 最高に気分がいい彼は次のマジックを披露することにする。


「おい、銅貨もってっか?」


「えっ……ああ、持っているが」


「ちょっと貸せ、すぐ返す」


「……わかった、はい」


 一瞬の戸惑いはあったが、それ以上にこの奇妙な男が次にしようとしている事がきになり、少年は銅貨を渡した。


「ほんと、銅貨とかいつの時代だよ」


「は?」


「いや、なんでもねえ」


 そういいながら、銅貨を受け取ったハイドは腕まくりをする。

 昔から、興が乗ってくると腕まくりをするのがハイドの癖だ。


「いいか、今からゲームをするぞ」


「遊戯をか?」


「ああ、遊び方は簡単、両手のどちらに銅貨があるのかを当てるだけだ」


「そんな簡単な遊戯でいいのか?」


「ああ」


 一々恭しい言い方をするガキだなと、思いながらマジックを進行する。

 両手を開き掌が上を向くように少年に見せる。

 右手には先ほど受け取った銅貨が乗っている。


「いいか?よおく見てろよ」


 そう言ってハイドは、そのまま両手を握りこみ、こぶしを少年の前に突き出した。


「さあ、どっちに入ってる?」


「そんなのこっちに決まっている!馬鹿にしているのか!?」


「ゲームで怒んなよ、本当にこっちでいいか?」


「当然だ!!」


「わかった、じゃあ答え合わせだ」


 にやりと笑い、ゆっくりと焦らす様に両手を開いていく。


「……っ!?なぜだ!!今さっき確かに右で握ったぞ!!」


「マジックだからだよ」


 先ほど握りこんだ筈の右手には何もなく、いつの間にか左手に銅貨が移動していた。


「どうなてるんだ!」


「それは教えらんねえよ、飯の種だからな」


 にやりと笑いながら、ハイドは落ち着き払って言う。


「……そうだな、すまん熱くなってしまった」


「良いって、ガキは何も考えずに「わーすごーい」って言ってりゃいいんだよ、おらっもう一回だ」


 そういいながら、場を仕切りなおすハイド。


「いいか、今度こそよおおおおく見てろよ」


「ああ、今度こそ見逃さない」


 左手に銅貨を乗せたまま、見せつけるように両手を握りこむ。


「さ、どっちだ」


「僕の見たものを信じるなら左だが、右だな」


「右でいいんだな?」


「ああ」


「本当に?」


「くどい!早くしろ!」


 言葉は荒っぽいが、少年の目は好奇心に輝き、最初のうさんくさそうな目はどこにもない。

「では、左から」


 左手の握り拳をほどき開くと、左手の上には何も乗っていない。


「やはり!」


「どうかな?」


 少年は何もない左手を見て、得意げな顔で声を上げた。

 そんな少年を見ながら、口調は相変わらずだがやっと子供らしい顔つきになったのを見て、ハイドは思わず微笑みをこぼした。


 そして、右手が開かれる。


「ない……何もない……銅貨をどこにやったんだ!」


「ハッハッハ!お前の負けだガキ!」


「そんな馬鹿な!」


 両手に何もないことを示す様に、表裏をしっかり時間をかけて見せてやる。

 食い入るように両手を見つめ、思わずといった様子でその両手を掴みどこに消えたのか探ろうとする少年。


「ほら、ここだよ」


 そういって、少年の着ている上着のポケットをポンポンと叩く。


「そんなまさか!」


 急いでポケットを確認する少年。

 ポケットに手を突っ込んだ瞬間、少年の動きが止まる。

 突っ込んだ手に、硬く、薄く、丸い物が当たったのだ。


「なぜ、ポケットから出てくるんだ……ポケットには何も入っていなかったのに……」


「すぐに返すっていったろ?」


 唖然としている少年をしり目に、ハイドは空を見る。


(ああ、マジックは良いなあ。何のとりえもないけど、これだけは自慢できる)


 そもそも、テレビ露出はないものの名の知れた大会で優賞しているのだから、腕前は確実に一級品である。


「確かに銅貨は返したぜ」


「そんなのはどうでもいい!お前はどうなっているんだ?」


 座っているため丁度いい位置にある顔や体をべたべた触りながら少年が訪ねる。


「普通の人間だっての」


 笑いながら、少年の年相応な反応に笑いながら答える。


「普通の人間は銅貨を移動させたりしない!」


「ハッハッハ!確かに!」


「んーむ、普通だ、普通すぎるほどに普通だ……」


 触りながら少年は首をひねっている。

 それはそうだ、高いわけでも低いわけでもない身長に、悪くはないがそれほど良くもない顔、何気に失礼なことを言いながら触るのはやめない少年。


(そうだったな、日本でも俺はマジックしかなかったな……)


 とりあえず親に出ろと言われた高校を出て以来、マジックしかしてこなかった。

 そんな自分が一年間マジックを我慢できただけできせきなのだ。


(ああ、俺マジックできなかったら死ぬんだな)


 この一年間、楽しかったが、生きているという実感はあまりなかった。

 見知らぬ国で目を覚ました時も、仕事を首になった時も、そこまで悲壮感はなかった。

 寧ろマジックができないというだけで、死んだように生きていたのだから。

 自分の中で、どれだけマジックが大きい存在かを改めて認識したのだった。


(決めた、俺はもうマジック以外しねえ!)


 そんな風に決意を新たにしているハイドの前で、また少年が考え込むそぶりを見せている。


「おい、お前名前は」


「おいおいクソガキ、名前を尋ねるときは自分から名乗るもんだぜ?」


「確かに、僕の名前はエーリッヒ・バウゼン・トールデンだ」


「俺はハイド、ただのハイドだクソガキ」


「なっ!名前を呼べハイド!」


「ああん?お前はくそが出十分だっつうの!」


 悪びれる様子もなく、この国の「王子」をクソガキ扱いするハイド。

 トールデン王国でトールデンの姓を持つ子供を見れば、王子とわかるものだし、ハイドも気づいてはいるが、如何せんハイドはこの国の出ではないし、死んだらもうそれでいいと思っていた。


「まったく、僕をガキ扱いするのはこの世界でハイドだけだぞ!」


「クックック、でもお前はガキだろう?しかも年上に敬語も使えないクソガキさ」


「はあ……お前はずいぶん破天荒だな」


 そういいながらエーリッヒはもう、ハイドの態度を改めようという気はなかった。

 王子というだけで、自分にへこへこ頭を下げる大人や、それ相応を態度を求める大人しか、エーリッヒの周りにはいなかったのだ。

 多少違和感はあるし、少しムッとする部分もあるが、その相手の身分を鑑みない態度は、エーリッヒには好ましく映ったのだ。


「ハイド、お前この後は何かあるのか」


「ん?別にねえよ、今日仕事を首になって路頭に迷ってたところだ」


「そうか!なら僕についてこい、お父様にお前の妙技を見せたいのだ!」


「それは、マジックをしろってことか?」


「そうだ!」


「ならいいぜ、マジックできるならどこでも行くさ」


そういって立ち上がり、エーリッヒに向かって右手を差し出すハイド。


「なんだ、その手は」


「お?良いからほら」


 そういって少年の左手を掴みとる。


「おら、どっちに行きゃいいんだ?」


「えっ……あっちだ」


 困惑した様子でハイドの顔を見上げるエーリッヒ。

 そんな姿をなんでもない様に、見下ろしているハイド。

 エーリッヒは少し考え込んだ様子だったが、諦めたのかハイドの手を引いて歩きだした。


 王城の入り口で、ひと悶着あったが、特に問題はなく王城にある客室に案内される。

 そこで待つように言われ、エーリッヒが出ていく姿を見送ると、ハイドはメイドが出した紅茶のような飲み物に手を付ける。


 しばらくしてエーリッヒが帰ってきた。


「お父様はもう少ししたら見えられる、言っても無駄かもしれんが粗相はするなよ」


「大丈夫だって、そこかしこでションベンするほどじゃねえよ」


「お前は犬か!」


「だからしねえって」


 からからと笑いながら豪華な部屋で、エーリッヒの父親、つまり国王を待っている。

 ここに来るまでの廊下やエントランスも、品があり、しかし豪華な調度品で溢れていた。

 廊下はフカフカのカーペットが引かれ、窓枠さえも芸術品のような美しさがあり、等間隔で並んでいる腰ほどまである台には、いくらするのかわからないようなツボが置かれている。

 特にエントランスに当たる部分は壮大で、両側にこの国の騎士の物であろう鎧が10mごとに並び、天井から延びるシャンデリアは見ものだった。

 壁にも彫刻が彫られ、特に天井には今まで見たこともないような絵が描かれていた。

 王族なども相手にしたことがあるハイドにとっては、まあ見たことはある程度であったため、堂々とエーリッヒについていった。

 ちなみに、王城に努める騎士や、メイドにとって仕えるべきである人が、幼子の様に身なりのあまりよくない30歳と、手をつないで歩いている姿を目を丸くして見ていた。


 軽口をたたきあいながら、エーリッヒはハイドの身の上話を聞く。

 時折笑いながらその話を聞くエーリッヒは、口調は相変わらずだが、市井の子供たちと同じような笑顔を振りまいている。

 部屋付きのメイドはそのエーリッヒの姿に驚きながらも、それを表に出すことはない。

 動きも洗練されており、無くなった紅茶を出すタイミング、所作、すべて流れるようで、質の高さをうかがわせる。


 ハイドは饒舌になり、昔相手をした面白かった客や、失敗談を面白おかしく語っている。

 その語り口は、メイドすらもクスリとさせてしまうほどの物だった。

 そんな話がひと段落付き、少し遅めの昼食をとった後、件のお父様がやってきた。


 コンコンコンと、部屋をノックする音が聞こえ、エーリッヒが顔を引き締め応答する。


「失礼いたしますエーリッヒ様、陛下を御連れしました」


「わかった、お通ししてくれ」


「かしこまりました」


 扉の向こうに男性が消えた後、数分後に扉が開いた。


「待たせたようだな、エーリッヒ」


「突然お呼び建てして申し訳ありませんお父様」


「良いのだ、お前が興奮して話すほどなのだ、よほどのことなのだろう」


「お恥ずかしい限りです」


 そんな二人の話を聞きながら、ハイドは目線をしたにし、直接見ないようにしていた。

 エーリッヒに、許しがあるまで直接見るな喋るなと忠告されていたからだ。

 そのまま待っていると、自分の前にだれかが座った、恐らく陛下だろう。

 しかしそれ以外にも気配があり、複数人がそばに控えているのがわかる。


「さて、客人、楽にしてくれ」


 その言葉を聞き、ハイドは面を上げる。

 前に座っていたのは、明らかに仕立ての違う服を身にまとった壮年の男性だった。

 白髪の混じった髪を後ろになでつけ、口にはひげを蓄えている。

 エーリッヒに目じりと眼力がよく似ており、親子であることを感じさせる。

 確かに、国をしょって立つ男性であることを納得できる威厳を放っていた。


「して、名前を聞いてもよいかな?」


 国父であることを感じさせる、温かみのある、しかし決して軽くない声色で尋ねる。


「おいおいおっさん、名前を尋ねるときは自分から名乗るもんだぜ?」


 エーリッヒに言った物と同じセリフを口にした瞬間、部屋の空気が凍った。

 一国の主に対して、何と言うものいいだろうか。

 誰もが理解できずに唖然としている中、エーリッヒだけが頭を抱えていた。

 国王も呆気にとられたように、ポカンとした顔で見つめている。


「ハッハッハッハ!!そうだな!確かにそうだ!」


 急に聞こえた笑い声に、部屋の全員が、その声にしたほうに目を向ける。

 その男は、国王ほどではないが仕立てのいい服を着ており、恐らくこの中でも国王と王子を除き最も高いくらいであることが見て取れる。


「クックック、そうだな、失礼した客人。私はアーノルド・バウゼン・トールデン、国王だ」


「そうかい、俺はハイド、ただのハイドだ」


「ハイドと呼んでも?」


「ああ」


「ありがとう、ほらお前たちも座れ」


 傍らに立っていた、先ほど笑い声を上げた男と、、もうひとり神経質そうな男がアーノルドに礼を言って腰かけた。


「ハイド、紹介しよう、そちらが宰相のコルト、もう一人が筆頭魔術師のジーニアスだ」


 国王の隣に腰かけたエーリッヒが、二人を紹介する。

 神経質そうな男が筆頭魔術師のジーニアス、もう片方がコルトというらしい。


「はじめまして、ただのハイドだ」


「ああ、よろしく頼むよ」


「お前が妙な術を使う魔法使いか?魔力などほとんどないではないか」


「これジーニアス、客人に失礼だぞ」


 不快感を隠そうともせず、ジーニアスが吐き捨て、それをコルトがいさめる。


「私は素晴らしい技巧の魔法使いがいると聞いてきたのです。このような平民に会うためではありません」


「相変わらずお前は魔法以外に興味がないようだな」


「当然です陛下、私ジーニアス・シュタイン・フォン・アウセウスの使命は筆頭魔術師として、周辺国家に負けないほどの魔法を編み出し、さらなる高みへ上ることです」


「ならばよい、しかし客人に失礼なのも事実だ、控えろ」


「……御意」


「では、エーリッヒ、説明を」


「かしこまりましたお父様」


 そこから、エーリッヒはハイドが見せたマジックを説明していく。

 しかしながら、魔力を使わずそのようなことができるなど、到底信じられるわけもなく、皆うさんくさそうな顔をしている。

 しかし、アーノルドは興味津々のようで、根掘り葉掘り聞いている。


「ううむ、にわかに信じがたい……ハイド、同じことがここでできるか?」


「ああ、できますよ」


 そう言ってハイドはどのマジックをするか、考えを巡らせ始める。


「とりあえず、俺の前に皆さん座ってもらっても?」


「その様な失礼なことできるわけがなかろう!」


「よい、私が許す、ジーニアス、コルト、横に来い」


「御意に」


 全員が自分の前に移動したのを見て、ハイドはマジックをするための道具を取り出す。


「ここに何の変哲もない2枚の銅貨があります」


 そういってハイドはポケットから2枚の銅貨を取り出して見せる。

 机の上に置き、四人の前に滑らせるように押し出す。


「調べても?」


「ああ、いいぜ」


 ジーニアスが手に取り、何の細工もされていないことを確認し、それを他の人に伝える。

 返してもらった銅貨を両掌に載せ、ハイドは続ける。


「さて、この銅貨を一瞬で移動させて御覧に入れましょう」


 そう言って、ハイドは手を内側にひねりながら叩きつけるように降ろす。


「こういう風にして移動させます」


「移動していないではないか」


「デモンストレーションだよ」


 ジーニアスが馬鹿にしたような声色で声を投げかける。


「ではいきます、よく見ててください、一瞬ですよ」


 もう一度先ほどと同じ動きをする。

 伏せられた手に注目が集まり、ちょっとした緊張が部屋に走る。


「今移動しましたよ」


「嘘をつけ、魔力は感じなかった、移動するわけがない」


 ジーニアスがそういうのを聞いてから、伏せていた手をゆっくりと開く。

 そこには左手に移動し、二枚になった銅貨の姿があった。


「そんな馬鹿な!!ありえない!!」


「ほお、これはすごいのお」


「確かに、ジーニアス、先ほど魔力は感じなかったといったな」


「はい陛下、確かに魔力は感じておりません」


「なるほど、これはすごい、ほかには何かできるか?」


 掴みは上々の様で、皆くらいつくように移動した銅貨を見ている。

 コルトとジーニアスは銅貨をそれぞれ手に取り、なにか仕掛けがないか見つめている。


「んー、ではもう一つ銅貨を使ったマジックを」


「うむ、頼む」


 銅貨を返してもらい、銅貨を自分の手前に並べる。


「次に使うのは一枚だけです」


 そういってハイドは一枚を端の方に移動させる。


「もう一度、移動するマジックをしましょう」


 指を一本立てて、顔の前の位置に持ってきて、眼前の人々と目を合わせていく。

 そして銅貨を隠す様に左手をかぶせ、反対側の手も同じようにふせる。


「では、行きましょう、まだありますね?」


 一度左手を動かし銅貨があることを確認させる。

 全員が銅貨があることを確認したハイドは、もう一度左手をかぶせる。


「……フッ!」


 手を軽くもむように動かし、一瞬両手に力を籠めるようなしぐさをする。


「このとおり移動しました」


 そういってハイドが手を上げると、銅貨は右手の側に移っていた。


「なんと、これはすごいのお!」


「おお!移動したぞ!なぜかはまったくわからんが……不思議だ」


「言ったでしょうお父様!ハイドはすごいのです!」


「おかしい、おかしいぞこれは……」


「なんでお前が偉そうなんだよ」


 三者三様の反応を示す4人を見てハイドは満足そうに笑っている。


「他にはなにができるのだハイド」


「そうだなあ、じゃあトランプを使ったマジックを一つ」


「トランプ?」


「数字や絵の描かれたカードですお父様」


「ふむ、そうか」


 いまいちピントは来ていない様子だが、早く次のマジックが見たいのか、深くは聞かなかった。


「楽しみじゃのお」


「魔力を外部から供給?いや、それでも微量な魔力は感知できるはず……」


「硬いのおジーニアスの坊主は」


 おもむろにトランプを出し、ハイドは箱の中からトランプを滑らせるように取り出す。


「さて、どのようなマジックをしましょうか」


 エーリッヒの前でやったように、様々なシャッフルを繰り出しながら、ハイドは考えるそぶりを見せる。

 その手技にも、驚きの顔を見せながらも、次に飛び出すマジックに好奇心が隠せない様子の4人。


「さて、まずはトランプを見ていただきましょう」


 言いながら、トランプを裏向きでスライドさせるように広げる。

 まるで扇の様にきれいに広がったトランプの端に指を当て上に持ち上げると、流れるようにトランプがひっくり返っていく。


「トランプとはこういうものか」


 ばらばらに並んだトランプを見て、アーノルドがこぼす。

 マークと数字の関係性があるのだと、アーノルドは一瞬で見抜いた。


「おっと、ばらばらでわかりずらいですね」


 そういうと裏返す方向にひっくり返し、指を一度鳴らす。

 もう一度ひっくり返ったトランプを見て、驚きの声を上げる。

 先ほどまでバラバラだったトランプが、一瞬にしてそろったのだ。


「なんと!」


「っ……」


「さて、どうしましょうか」


 中から無造作に一枚を抜き出したハイド。

 その一枚を指先でもてあそびながら、なおも考え続けるように見せている。


「よっと」


 トランプの両端を対角線になるように摘み、こともなげに左右で互い違いにはじくと。

 トランプが空中で回りだした。

 明らかに手は触れていない、にも拘らず手を移動させるとそれにトランプが付いていく。


 手を上にあげると上にあがり、下にさげると下にさがる。

 自由自在にトランプを操りながら、手を周りで一周させたりして、糸などではないことを証明していく。


 もはや人知を超えたものを見たように、四人とも固まってしまった。


 しばらく飛ばしたのち、右手でそれをキャッチする。


「素晴らしい!」


 アーノルドが大声を上げる。


「魔力を使わずにこれほどまでのことができるとは!実に素晴らしい!!」


「いやあまったくですなあ!」


「待ってください!必ず魔法を行使しているはずです!」


「では魔力を感じられたのですかな?」


「いや……それは……」


「感じられないのじゃろう?お前ほどの魔法使いが感知できんのであれば、使っていないのか、お前より上手かのどっちかじゃろう?」


「そうですが……」


「どりらにせよあっぱれだ!」


「ぐぬぬ……」


「さすがハイドだ!今のはどうやったんだ?教えてくれハイド!」


「なにもしてねえよ」


 いつの間にかエーリッヒはハイドの横に座り、カードをしきりに浮かそうと試みているがうまくいっていない。

 アーノルドは上機嫌でその様子を眺めており、どうやってこの男を城に引き留めるかを考えていた。

 ジーニアスとコルトは、互いに意見交換をしているが、楽しそうなコルトとは対照的に、ジーニアスはとてつもなく悔しそうな顔をしている。


 こうして、ハイドはもう一度マジシャンとしての人生を歩みだした。

 これから先、待ち受けるであろう客や、新しいマジックの予感に、ハイドは心躍らせていた。

いかがだったでしょうか。

正直マジックのことはいまいちよくわかっていません。

ですんでこれは無理だとか、そういうのはなしでお願いします。


あと今後工業技術的にどうなんだ?

ってのが出てきます、そこへんは、「まほうすごーい」で済ませていただけると嬉しいです。

次回からギャグ、加速します。

この早さに、ついてこれるかな!!


では、完結までよろしくお願いいたします。

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