アイドルとしてライブを開くことになったのだが
今日から3話です。
語り手は明日谷大和君、普段の一人称は「俺」です。
「やっほ、大和君、いい夢見れた?」
俺は目を開けた。現在、午後11時。ちょうど寝ようと布団にもぐったときだ。
「どこから出てきているんだ」
なんと、布団の中から由良が顔を出した。いつもの衣装。ニコニコ微笑み、俺の手を握る。
「大和君を驚かせようと思ったの」
――あなたから一言
いやいや、あんたは何を言っているんだ。俺に何を期待しているのさ。
「大和君、どうしたの、お月様と話をしているようだけど」
「なんでもない」
由良が俺の手を引っ張り、アルムの世界へ連れて行った。
「大和様」
愛良が俺に抱き着いた。愛良ちゃんと俺の手が偶然触れたあの時を思い出す。しかしそれだけだ。愛良ちゃんと違い、愛良からドキドキした感情がわかない。うれしいはずなのに。
「大和様、いきなりですが30分後に私たちはライブを行います」
「ライブ?」
俺は由良を見ると、彼女はマイクを持って歌いだした。張り切った声で、空も黄色く輝いている。
「大和君も出るんだよ、私たちと一緒に」
「え?」
俺はもう一度聞いた。由良は同じ答えを返した。
「もちろん、私も出演します。後、マナテやカナセもダンサーとして手伝います」
愛良が自分の胸に手を当てた。
「僕は何を歌うか知らないし、何を踊るかもわからないのだけど」
「大丈夫ですよ、大和様が変身をすれば、勝手に踊りますから」
愛良も踊るしぐさを始めた。由良が歌い終えて、俺を見る。
「準備運動を終えたし、ライブをしなければ。大和君、行くよ。愛良、先に行っているから」
「由良、会場についたら変身をしなさい。じゃないと」
愛良が何かを言ったが、聞こえなかった。由良は俺の手を握り、足をタイヤのように回し、大きなコンサートホールへ連れて行った。うわあ、ぶつかるぶつかる。
「ぶるるるうるるるわああぁぁぁ~」
時速100キロで走る。頼む、由良、俺に少し考える時間をちょうだい。あんたはこの展開についていける? 俺は全くついていけない。せめて制限速度に従って走ってもらいたいものだ。
「ついたよ」
由良がぴたりと止まる。コンサートホールは大きかった。すまない、頭の整理が未だに追いついていないんだ。白い壁に太陽をかたどっている。屋内でやるらしい。
「大和君、疲れている?」
俺は答えない、由良が俺をじぃっとみる。由良がいきなり抱き着いた。胸の谷間に俺の顔が挟まる。
「大和君、い、今だけだからね。私が大和君に元気を与えるためだからね」
う、うれしいが息も苦しい。
「由良、あ、ありがとう。由良の気遣いはとてもうれしいよ」
彼女が俺の頭をなでる。
「さ、大和君、ライブだよ」
彼女は『アイドル専用入口ドア』を開けた。自動ドアではない。ドアノブもない。ただ、白く光り輝く扉があり、鳥居をくぐるような感覚で、部屋に入った。眼鏡をかけた金髪の女性が頭を下げる。
「由良アスナ様ですね」
「うん」
由良アスナって、確か由良のアイドル名だったはず。じゃあ愛良は愛良ココアになるのか。俺は大和ナデシコ……お、いいじゃないか。いやいや、恥ずかしい。
「そちらが由良アスナ様のパートナーですか。まさか、男?」
女性の質問に俺がうなずく。
「なんで男を連れてきたんだ」
低い声に由良と俺は驚いた。心臓を抜き取られ、握られた気分だ。
「や、や、大和君はそ、その、私のパートナーで」
「お前、ここに来る客層はみんな女目当てだ。そこに男がいて、お前とイチャイチャしていたら、どうするのよ。店の信用はがた落ちだし、何よりお前たち、殺されるぞ」
由良は泣き、俺に抱き着いた。気づけば俺も涙が流れていた。女性は指を鳴らす。
「男は消えろ」
お読みいただきありがとうございます。
続きは大和君が現実に戻されます。
戻った後、色々不幸な状況に合うみたいです。