お姫様が与えた褒美+愛良ちゃんが想う
語り手は明日谷大和君、変身をする前の一人称は「俺」で、人前だと「僕」に、「キラナデシコ」に化けると「私」に代わります。
ではきらめく世界をお楽しみください。本日もお読みいただき、ありがとうございます。あなたに良きできごとが起こりますよう、心からお祈りします。
アルムの世界に戻る。お姫様は髪の毛が黒く長く(腰のあたりまで)、数本だけピーンと跳ね上がっている。目は大きく輪郭は丸っこく、キラキラ輝いている。私を見ると、微笑んだ。
「改めまして。初めまして。私は士鶴」
私はもちろん、みんな頭を下げた。体は震え、心がジーンと泣いている。さわやかな風の音が耳に入る。
「皆さま、私を眠りから覚ましていただき、ありがとうございます。お礼として、良き幸運を一つ、お与えしましょう。素晴らしき現実を――」
士鶴姫がお祈りをささげると、俺は自宅にいた。い、いつの間に戻ってきたのだろう。変身も解かれている。由良も愛良も士鶴姫も双子もいない。
「やまにぃ、おきて」
小学校6年生になった妹、美鈴が声をかけた。
「大和、あんたいつまで寝ているの」
高校1年生の姉、留奈もやってくる。
「今、何時?」
「10時10分前、これから買い物があるから、荷物持ちとして手伝って」
寝癖を立てたまま、大型スーパーに着いた。マーケットはあらゆる騒音が耳に入り、姉は一心においしそうなイチゴを選んでいた。姉の背中を見ると、母さんを思い出す。
――え、両親は何をやっているのって? 俺の両親はファッションデザイナーの仕事をしている。現在、フランスに出張中だ。だから姉が一家の大黒柱として任されている。両親はあと3日ほどで帰ってくるよ。
「大和、段ボールを持ってきて」
手に取ろうとすると、誰かが同じ段ボールをつかんだ。思わずその人の手を握ってしまった。
「あ」
愛良ちゃん。母親の手伝いで買い物に来ていたのだ。
「明日谷君」
「愛良、いや、須田さん」
アルムの世界にいた愛良を思い出し、『ちゃん』付けを忘れてしまった。愛良ちゃんの手は少し冷たかった。頬は熟れた桃色のように見える。
「愛良でいいよ、明日谷君」
「じゃ、じゃあ俺も大和で、あ、あはは」
「大和、いつまでも女の子の手を握らない」
姉が言うと、愛良ちゃんに段ボールを渡す。
「ありがとう、明日谷君、あ、大和君」
にこっと愛良ちゃんが微笑み、頭を軽く下げた。俺も微笑み返した。
「へえ、大和、あんた、ああいう子が好みなの」
「ち」
違う、とは言えなかった。言ったら俺は人として終わるような気がする。
「気になるなら早く声をかけちゃえば? あんたに恋人ができたら、お母さんにすぐ伝えるから。それと、家にも連れてきなさい」
「や、やめろよ、お姉ちゃん。勝手に決めるな」
「なんでさ。好きな人がいていいじゃない」
姉は笑いを浮かべた後、ため息をついた。
「ほら、あの子が帰っちゃうよ」
姉が食品を詰め込んだ段ボールを持った。
「あ、いいよ、俺が」
「いいから、手を振ってさようならをしてきなさい」
ちらりと俺は愛良ちゃんをみた。愛良ちゃんも俺をじっと見ている。彼女が手を振った。俺も手を振る。運動をしていないのに汗をかいている。
「ウブなんだから。早く告白しちゃいなよ。蛇に取られちゃうよ」
姉は右手にリンゴを持って、段ボールの中に入れようとする。俺は大声で言った。
「ま、まだ告白しないし。それに蛇って」
「あの子、後ろにいるよ」
俺は慌てて振り向く。いない。
「う・そ」
これだから姉は好きじゃない。俺は必ず、いつか、いつか告白する。そ、そこで俺を見て笑っているお前、み、見ててくれよ。な。
――(あなたは一言、なんといっただろう?)
■ 須田愛良の視点:大和君
――須田愛良ちゃんが語る。
(好きですって、どうして私は言えなかったの。はあ、だめ)
私はため息をつく。もし私がお母さんと一緒にいなければ、私は言えたのだろうか。
「大和君、付き合ってください」
大和君は私を見ても、なんとも思わないのだろう。早くしないと、誰かと付き合ってしまうかもしれない。それだけは嫌。桃色の枕を抱きかかえ、寝転がる私。ごろごろにゃ~ん。ごろごろわ~ん。
どうして私が大和君を好きになったか。きっかけは国語の授業中、私が消しゴムを落とした際、大和君が拾ってくれた。すると大和君の消しゴムも落ちた。私たちは同じメーカーの消しゴムを見ながら、笑った。その後――
ごめん。これ以上は語りたくない。でも将来、私の口から言えたらいいな。
「好きです、付き合ってください」
少女漫画の女の子たちに、私は憧れる。
次回から3話に入ります。
大和君はアイドルになってしまうようです
そこで由良の些細な失敗がもとで、運気が下がってしまいます。
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