愛良ちゃんがあいつに取られた(語り:大和)
語りはまた大和君に戻ります。
~問題の確認~
春はサラダ、シャキシャキと口の中で音がなり、いとをいし。
夏は漬物、キュウリや細長いニンジンを浅漬けでもんで、白身の固さぞをかし。
秋はすき焼き、水分が出るために入れぬ店もあれど、肉のおともにほくほくあつし。
冬は旬、キムチも肉団子スープも魚鍋、様々な調理にべりうまし。
なんと素敵な●●●●よ
「おそらく白菜、8931だ」
愛良ちゃんが8931の順にボタンを押し、スイッチを入れた。
ゴウン、ゴウンゴー。うわ、目の前が真っ暗になる。あ、愛良ちゃん――。
「大和君、大和君」
目を開けると、アスナがひざまくらして、俺の額を撫でていた。
「愛良、目をお覚まし下さい、きゃあ」
ココアが吹っ飛ばされ、俺のあそこを直撃する。痛すぎる。
「だ、大丈夫ですか、大和様」
「い、一体どうなっているんだ? 目を覚ましたら美術館にいて、またこっちに
戻ってきて……」
「くう、この体でもまあいいか」
目の前にいる愛良ちゃん――でなく、愛良ちゃんの形をした醜い男の声。
「貴様たちがいなければ、俺はあそこで一生、王様でいられた。くくく、こいつの体を使って、俺はこの世界で王様となろう。いや、神様となろう。お前たちは俺の奴隷となれ、神の命令は絶対」
王様だの、神様だの……こいつは願望をそのまま口に出している。今すぐ――か、体が動かない。ま、まさか――。
「効いている、はははははは、ならばアルムの世界にいるすべての存在は俺の命令に従う、神の命令は絶対」
空気がよどみ、また曇ってきた。紫と青と黒に覆われつつある。
「ははは、こちらでも俺の言霊は効果があったか。よし、まずは明日谷大和、俺に土下座」
体が勝手に動く。昨日、味わった苦痛をまた味わうのか。動け、抗え。
「お前みたいなやつは一番嫌いだ。少々かっこよくて、女にもてて、なおかつ俺をあの世界へ閉じ込めた。お前みたいなのは俺に踏まれ、醜くなった、お前のせいでな」
奴は俺を強く蹴る。なぜ俺は蹴られなければならないんだ。なぜ俺はこいつの言葉に従わねねばならない?
「お前もこれから醜い呪いをかけてやる、永遠に醜くてひざまずかれて」
「ふざけるな」
「あ”?」
俺は拳を強く握った。
「愛良ちゃんの体を乗っ取りやがって。お、れ……僕が好きな愛良ちゃんの体を」
「好き? うはははははははっははははは、なら貴様の前でこうしてやろう、ほら、ほら、立たないか?」
妖艶なポーズを俺の前で行う変態野郎。
「気に食わなければすぐ人を馬鹿にして、お前はそれしかできないのか?」
カナセのように全部言い切るんだ。ためらうな、体が愛良ちゃんだろうと、あいつは愛良ちゃんではない。
「僕たちがあそこでお前を浄化したとき、誰もお前を助けなかった。グヘ、気に食わないことがあればすぐに蹴る。グホ、一人で王様になって、命令してみんなが思い通りに動く。夢の世界だろうと、それがお前の現実だ」
奴は俺の腹を思い切り蹴飛ばした。感覚がなくなる。
「黙れ」
否定か、効いているんだな。
「う、うぐうう……黙れ、小娘」
奴はもう一度俺の頭を蹴った。しかし痛みはあまりなかった。頭を押さえて苦しんでいる。
「やめろ、言うことを聞け、俺の中にいる体は俺に従え、神の命令は絶対――なぜだ、なぜいうことを聞かない。やめろ、言うな、やめろ」
愛良ちゃんの中にいる怪物が転がって回っている。愛良ちゃんが説得をしているのだろうか?
「愛良……その調子です。そいつにきちんと言ってあげてください」
ココアは拳を握る。アスナが俺の手を強く握った。力がみなぎる。
「愛良ちゃん、負けるな、僕が、ついているから」
は、はっきり言った。僕は、はっきり言えた。ま、間違えた、あんたに語るときは俺だ、僕ではない……ご、ごめん。「落ち着け」と言ってくれてありがとう、あなた。
「大和君、変身」
「輝け、私の希望――」
俺はキラナデシコに姿を変える。
「暗き心に明るい光を、キラアスナ」
「枯れた心に花を咲かせよう、キラナデシコ」
「乾いた心に愛と潤いをもたらす、キラココア」
「我ら、キラメキDaughters」3人合わせて言う。
すぐさま私たちは三角形を作り、アスナが声を上げる。
「いえーい、自分に縛られるな♪ ハッピーラッキーなるりんろーど、いえい☆」
「いえい」
「ある晴れた、女の子~♪」
私たちは歌い始め、体が熱くなる。愛良ちゃんの手を握る。いや、愛良ちゃんの姿をした暴君の手を握る。
「さあ、一緒に歌いましょ、そして楽しく踊りましょ。一緒に楽しめば、私が言っていること、わかるわ」
「やめてくれ、それは」
私は敵である怪物の手を優しく握る。奴はおびえている。
「大丈夫、アスナ、歌を歌って」
「うん、きらめく世界からやってきた娘たち~♪」
「だからやめてくれ、俺はお前たちと一緒になりたくない。お、俺は王様でいたいんだ」
アスナがマイクを偽物愛良ちゃんの口に近づける。
「人はどうして違うのかな~♪」
「どうして? そんなのわからない~♪」
「さ、一緒に歌いましょ。あなたも私たちと同じ。あなたが知りたいものはここにある」
ココアが愛良ちゃんの手を握る。彼女はうなずき、一緒に歌いだした。愛良ちゃんが声を出しているのかもしれない。
「輝け~」
「か、輝け~やめ~輝くの~」
紫の影と声があった。影がどんどん黄色い光の泡へと変わる。
「俺は……俺は……」
光は涙を流し、粒へと消えていった。一瞬、幼い子が見えたんだけど、気のせい?
お読みいただきありがとうございます。
明日で一応、第一部最終回の予定でございます。
(あくまでも予定です)