おまけ:表に出ぬ話~英子といふ「誰か+クイズの答え」~
お読みいただき、感謝し侍り。ここのみぞ『我』語りぬる。
人込みに紛れて歩き、ジェットコースター、ゴーカート、バイキング、バンジージャンプ、お化け屋敷に足をとどめつつ、メリーゴーランド、空中ブランコを経て観覧車に着きぬ。チケットを渡して輪廻に乗れば、
「わーい、高い高い、ロロナ、高いのだーいすき」
「高いところ、好きじゃない」
固まる大和、慌てる愛良、騒ぐ由良を見下ろし、電話をかける。
「英ちゃん、大丈夫だった」
「うん、広は」
「危うく蛇女に食べられるところだった」
数時間前、アルムの世界で英子と大和、いやナデシコ様の御前に象をかたどった怪物現る。奴の後ろに目だけ光る黒き男あり、愛良を殺すと言えば、ナデシコ様が怒り給う。
「英ちゃん、大和たちに何かあったの、また変な世界に連れていかれた。蛇女がうろついている。こっちの世界にノートがあるのだけど、汚れすぎて読めない」
小さな鏡より大和の友、風間広が話す。2人がいる場所は7割違い、3割同じ。
「今から読むよ、広。
・扉
あ 黒き広場に浮かぶ点々落ちにけり
い もうもうとした青と白の電撃戦
う 闇に蠢け厚く熱き命
・看板
A 流れ星 飛行機に光 与えけり
B 土よ土 生きる源 我にくれ
C 白波の ざあざあ泣いて すっきりさ
D 雑草と 野に咲く花よ 気高し
E 積乱雲 かみなりならし あの世でも
・扉の鍵
あ―
い―
う―
「やめろ解くな」
黒男が白い刃を放つものの、扇子ではじき返しなさる。
「ありがとう、ナデシコ」
「う、うん。どうして私、跳ね返せたのかしら」
「愛良を守りたい想いが現れているのよ」
手鏡を口に近づける。
「広、すぐに問題を解いて。悪夢から抜け出せるかもしれない。私はナデシコを助けるのに精いっぱい」
象に炎をぶつけなさると、体より骨落ちすぐ拾う。
「貴様、どうして平気な顔でクスミの骨を持てる、何者だ」
「黒き広場に浮かぶ点々落ちにけり、黒き広場ってこの歌に関連するのは土か宇宙か。落ちるは星とおくと宇宙か。続いて青と白の電撃戦、青空と雲で積乱雲、闇に蠢く、蠢いて厚くて熱いものは何だろう」
部品を奴に突き刺す。
「熱いのはマグマ、マントルか。蠢くのが虫だとしたら、土よ土、う―Bだ。
あ―A い―E う―B どうだ」
低い声をあげて消えれば、カギが現れたので拾う。
「ナデシコ、そいつを浄化して」
らうたしなくのいち少女を助けて御頭をなでれば、
「ありがとうございます、真っ青な影さん」
「いいのよ、お嬢ちゃん」
清らなる微笑み天女のごとき士鶴姫、御体は更なり心まで溶け侍る。
踊りなさって、象は泡となりて消えぬ。
ぶぶぶと、扉より画面が映し出され、愛良と由良が逃げたり。
「英子、開いた」
「ロロナ、ナツリ、愛良と由良を安全なところへ逃がして、光の降り注ぐ道を目指して走れ」
スマホを握り、犬と猫に命じれば、二人は英子をご覧になる。
「青い影さん、あなたは誰。先ほど、由良と愛良を安全なところへとおっしゃいましたが」
尋ねさせ給えば、つばを飲み込み首を横に振る。
「私は」
「英ちゃん、英ちゃん」
広の声に意識戻りぬ。乗り物が太陽と向き合う。
「大和に愛良ちゃんは今、どうしているの」
「愛良のお姉さんが無理やり大和と愛良の手を握らせて、二人とも固まっている」
「はは、あいつららしいや。英ちゃん、一つの愚痴を聞いてもらっていい」
「運気を落とすから、あまり聞きたくないけれど、言いなさい」
乗りかごが頂上に達し、下りに向かう。
「俺、昔、愛良ちゃんに告白をしたんだ。好きだって。見事に振られた。私には好きな人がいるからって。愛良ちゃんの目を見て、大和だってわかった。俺には略奪する勇気なんてないし、したって愛良ちゃんは悲しむだろうし、大和は数少ない友達だし、はは、何が言いたいんだろうな、俺。ごめん」
かごが地へと近づいた。
「大丈夫、広は結婚して子供もいるから。あなたは優しいうえに、頭の回転も速い。広が私の夫と重なって見える」
「俺、なんか怖くなった。小野田英子という女は現実にいるのかな。今、俺が話をしている英ちゃんは小野田英子という名前でなく――だし」
「いるよ。彼女は普段、しゃべらないから。ひねくれた性格は一緒だけどね。大和と由良を見ていると、言いたくもなる、特に大和、あいつは」
広の笑い声と共に、地上へと降り立ちぬ。
今の時代、文語なんて……
しまった。マイクのスイッチが入ったままだった。
お読みいただきありがとうございます。次回はある惑星にアイドルとして「営業」を行うDaughters。由良たちはあまり仕事をしたくないそうです、原因が……お楽しみください。