お化け屋敷を脱出し、デート再開だ。え、また
おはようございます、語りは須田愛良ちゃんです。一人称はすべて「私」です。
では、ごゆるりとお楽しみください。
「愛良ちゃん」
目の前が明るくなり、景色も元に戻る。目の前に大和君、後ろにはお化け屋敷。
「よかった、無事で」
大和君が何度も深く息をはいた。目から涙をこぼしている。
「大和君、君はどこにいたの?」
「わからない、気づいたらここにいた」
大和君は目を左に動かし、姉を見る。
「ふう、怖かった。大和君も無事でよかったよ。いきなり消えたから」
「ご、ごめん。僕も本当に何が何だかわからないんだ」
大和君はきょろきょろ目を動かす。あの時持っていた小さな鏡はない。消えたというべきか。
わんわん、にゃふ~。犬と猫の鳴き声に回りの人も振り向く。猫と犬の先に英子が立っていた。
「やっと見つかった。愛良、大和、それに由良さん。この子たちを探してくれてありがとうございます」
英子が頭を下げる。大和君は大きく瞬きを行い、姉は犬と猫に近づく。
「この子たちの名前は?」
「犬がロロナで猫がナツリ」
ナツリが私に抱き着く。ロロナは姉の頬をぺろぺろなめっている。大和君はただ立って見ていた。
「大和」
英子が大和君の前に立つ。
「小野田、どうしてそれを!」
「……わかった? 帰るよ、ロロナ、ナツリ」
ナツリが私から離れ、ロロナも飛んで、英子を追いかける。
「大和君」
「な、何でもないんだ、愛良ちゃん。ありがとう」
大和君は頭を下げた。彼の体は震えている。姉がじいっと見て、私と大和君の手を握らせた。もう片方の手に、姉は大和君と手を握る。
「ここここ、これは」
「お姉ちゃん!」
「ほらほら、姉妹に囲まれていい気分だろ、大和君」
「由良」
大和君がまた姉を呼び捨てた。大和君の体が真っ赤に染まる……そういえば鏡で見た少女、大和君が女の子になったらあんな感じになるのかな。気のせいだよね。
「よし、ご飯を食べに行こう。その前に、もう一度あのお化け屋敷へ入ってみる?」
姉がお化け屋敷を指さす。私は首を横に振った。しかし大和君はうなずいた。
「二人とも、お化け屋敷に入ったの?」
「すごかったんだよ、別の意味で怖かった。それに、ここが現実かどうか」
「現実だよ、由良……さん」
大和君が首を横に振り、姉に頭を下げる。
「大和君、わ、私、怖いの苦手だよ。だから」
「その割に、あそこで愛良は冷静だったじゃん」
「それはお姉ちゃんがいるからだよ」
にや~っと姉が微笑む。
「じゃあ、三人で行こう、愛良、怖かったら大和君にしがみつきなさい。私もしがみつくから」
「お姉ちゃんはだめ!」
は、しまった。姉がニタニタ勝ち誇った顔を浮かべる。
「あ、あの」
大和君が姉に言う。
「入るのですか?」
「もちろん、ね、愛良」
姉の狙いが読める。私のためにお化け屋敷へ連れていくのだろう。覚悟を決めるか。
「うん」
その後、お化け屋敷に入った、何も語りたくない。私はギャーキャー叫びっぱなしだった。さっきの怖さとは全く違う。こっちはいつどこで何が出てくるかわからないけれど、死なない。しかしあっちは怖さよりも生きるか死ぬかが先にあった。
「はあ、すっきりしたあ」
大和君は背筋を伸ばし、風呂上りとは違う気持ちよい表情を浮かべる。私はまだ、大和君の腕にしがみついている。、
「じゃあ、次は愛良の言うことを聞いてあげる」
姉が笑顔で言った。私は笑みがこぼれた。姉が最も嫌いな乗り物を選ぶ。
「ジェットコースターで」
お読みいただき、ありがとうございます。10話はここで終わりです。
クイズの答えについては「おまけ」として裏話を載せます。
愛良も大和も語りません。誰が語るのでしょうか?
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